Agency 理論の実体

Agency 理論とは、以下のように説明される。
情報の非対称性を前提としたうえで、契約関係をプリンシパル(委託者、株主ないし投資家本人)とエージェント(代理人、経営者)の関係としてとらえ、エージェントの行動がプリンシパルの利害と一致しないときに発生する問題の構造を明らかにし、その問題に対処する方法を考察する理論である。

具体例としては、投資ファンド(株主)が、投資先の経営を委ねるためにCEOを見つけてきたが、彼/彼女の働きが期待外れの場合に露見する問題だ。
株主の期待を満たすことが出来ない経営者は契約を破棄(解雇)されることになる。経営者にとっては不名誉なことだが、株主にとっても経営者の人選の不始末と、案件がうまくいっていないことを周知することになるので避けたい事態だ。

株主の意向をCEOが満たさない場合は株主が決断すれば解決は可能だ。(結果がうまく行くかどうかはやってみないとわからないが)

案件的に一番難しいのは、絶対株主(持分2/3以上)がCEOをしている会社に少数株主として参加し、ガバナンスを効かせるにはどうしたら良いかという問題であろう。

業績が良ければ問題ないが、実績が全く残せていない場合はどうするか。
株主=エージェントという経営形態が機能しないことが過去数年で証されたとすれば、論理的な解決策は以下のどれかだろう。
1.株主を変える(既存の絶対株主をその地位から退かせる、大株主を見つける)
2.CEOを変える(株主の同意が必要、人選は困難)
3.株主もCEOも変える
いずれも簡単な選択肢ではない。

株主=エージェントが会社の状況をどの程度理解し、どの程度の危機感を自ら抱いているかに大きく依存するだろう。自分に甘い株主=エージェントだと、状況の改善は難しい。

(2020.6.7)

発見! 銀竜草。

このところ那須に長居しています。

従来は週末数日滞在して帰京していましたが、東京でのコロナ禍の広まりとリモートワークの一般化により、あえて東京に頻繁に戻る必要が少なくなったのが原因です。
Zoom. Google Hang Outとかいろいろな顔の見えるコミュニケーション手段が広まり、疑似的なFace to faceのコミュニケーションもかなり出来るようになりました。

それで那須に長居するようになり、何が起きたかというと、散歩の途中でよそ様の庭を観察したり、自宅の裏庭の植物をめでる余裕が出来たのです。
購入してから13年間放置している我が家と比べ、多くのご家庭が庭を整え植栽を整備しています。
植物の豊富さや美しさではかないません。

ところが先日小雨の中を自宅の裏庭に出ていて、白く透明で龍の落とし子のような形態のキノコのような植物を発見しました。
図鑑で調べると「ギンリョウソウ(銀竜草)」という珍しい植物でした。
花が一つ咲いているなどというのではなく、我が家には2か所に群落があるのです。

些細なことに喜びと若干の優越感を感じ、雨の中でニヤニヤしていた自分でした。
俗物です。

(2020.5.31)

勝ちに不思議の勝ちあり、負けに不思議の負けなし。

名将、野村監督の有名な言葉だ。
平常時には良く当てはまる。他社に優る戦略を考え、計画を立て、実行することにより事業の成功がもたらされるとすれば、それぞれの段階で他社を凌駕する行動をとれば成功する/少なくとも負けない確率は高まる。

今回のコロナ禍はではどうか。
消え去りつつある業界がある。航空業界、旅行業界、宿泊施設、飲食業(特に居酒屋チェーン)、ナイトクラブ/カラオケ業等々だ。
不要不急の要件では外に出ない(考えてみるとほとんどの用事は不要不急だった)、3密を避ける(居酒屋での宴会、クラブ・キャバレー、カラオケはもってのほか)、という生活パターンが今後も定着すると思われ、日本全体の草食化がますます進むに違いない。

「開けない夜は無い」とはいうものの、「どう頑張っても負けるに決まっている」業界もあるのかもしれない。まだそんなビジネスやっているのですか、いまどき!

コロナ禍がもたらすパラダイムシフトが、絶滅をもたらすのか、「不思議に」生き残った者が新しい繁栄をもたらすのか注視したい。

・高齢者にはお金と時間があり、使え無い海外旅行向けのお金がたまっている。
・コロナウィルスへの警戒感は高齢者が強い。
・VRやZoomが新しい疑似接触感を生み出している。 等が生き残りのヒントになりそうだ。

(2020.5.23)

百発百中の砲一門は百発一中の砲百門に相当する

日本海海戦を勝利に導き死後は神となった東郷平八郎元帥の言葉だ。
たしか連合艦隊司令長官を辞める際に、訓練の重要さを説いた言葉とされている。
この言葉が最初に言われた時には、そりゃおかしいという声を上げた海軍士官が多かったと聞く。敵が百門の砲に一発づつ砲弾を持っていて一斉射撃すれば、こちらの一門の大砲は最初の数回の一斉射撃を生き延びたとしても、ほどなく破壊されるだろうという論理的な考えだ。それが太平洋戦争に近づくにつれて批判の言葉は消え「月月火水木金金」の猛訓練に支えられた帝国海軍は無敵という精神主義神話化していったと聞く。
今回のコロナ感染についての日本の対応も似ている。
日本では今でもクラスター感染を押さえて関連する感染者をつぶそうという考えだ。少数の砲撃の精度を高めよう。夜の海戦に備えて監視員の視力を極限まで高め敵を早く発見しようという考えだ。このやり方は昭和17年初めまでは良かった。
17年半ばになると、米軍はレーダーを装備しORに基づいて沢山の砲弾をつぎ込んで日本軍の艦艇を殲滅した。PCR検査の件数を飛躍的に増やし(レーダーの装備)感染者の動きをAIでフォローする(ORの活用)ことで感染の経路の殆どがつかめるようになったのとそっくりだ。
日本の保健所のあり方や、都の感染者の把握の仕方、感染者病棟の準備のあり方を見ると、人力に依存し、デジタル化の遅れに唖然とすることばかりだ。
そのような現象の根本には、戦前から続く、「百発百中の砲一門は百発一中の砲百門に相当する」という精神主義があると思われる。

(2020.5.21)

Bullshit Jobs

すっかりブログを更新していないというご指摘を読者から受けました。振り返ってみると4月はまるで更新していませんでした。

3月の終わりから山奥に蟄居しており単調な日常を送っています。ほとんどの仕事がテレワーク化し、重要な会議もZoomやTeamsで出来ます。時間は山ほどあっても緊張感がありません。仕事や読書は細切れの時間を捻出してこそはかどるのだと痛感しました。

さて、多くの時間があり読みたかった本を初読・再読していますが、再読した『未完の資本主義』PHP新書は刮目すべき本でした。ポール・クルッグマンをはじめとする7人の碩学とのインタビューをまとめた読みやすい本です。

特に面白かったのは、デビッド・グレーバーDavid Graeberの
「職業の半分がなくなり『どうでもよい仕事Bullshit Jobs』が急増する」という主張でした。

Bullshit Jobs(BS職)の5分類が面白い。
Flunkies 太鼓持ち (具体例:受付嬢、秘書、大物の家来)
Goons 用心棒 (弁護士、ロビイスト、広告・広報)
Duct Tapers 落穂ひろい (不具合の対応者)
Box Tickers 社内官僚 (本当はしていないことをあたかもしているように見せる仕事、殆どの会社の仕事)
Task Makers 仕事製造人 (殆どの中間管理職)

BS職に共通する要素は、「その仕事をしている人がいなくなっても何の不都合も生じないか、あるいは世の中が少し良くなるかもしれないと、BS職をしている人自身が知っていることだ」とグレーバーは述べています。

コロナ禍を経験して痛感するのは、医師、看護師、救急車の乗員、消防士、警官、自衛官、介護スタッフ、保育士といった人たちの重要さです。医療体制、人命救助、最低限の社会機能の維持に彼らの活動は欠かせない。

グレーバーはこのような人たちが相対的に低賃金で、社会的な価値を全く生まないBS職に就いている人たちが高給を食んでいる矛盾を鋭く突いています。ウォール街選挙活動のスローガンとなった”We are the 99 percent.”はグレーバーの発案だと言われています。

自分の職歴を振り返ると、銀行の企画部門や監査部門に居た際には人や社会の役に立っているという感覚は無かった。
大阪の都心店で融資係をして中小企業のお客さんに接しているときがもっともやりがいがあった記憶があります。
コロナ禍に苦しむ中小企業・零細企業・個人事業者へ資金を供給するために中小金融機関の融資担当者には全力を挙げてもらいたい。人の役に立っていることを金融機関で実感できる数少ないチャンスだ。

さて、
非常時になればなるほど社会に巣喰うBS職が目に付く。
まあ一番のBS職は多くの国会議員ですね。

こんな求人広告があったという。
総理求む。
原稿を読むだけの簡単な仕事。
リーダーシップ不要。漢字が読めなくても可。

(2020. 5. 1)