世界の動き 2025年11月17日 月曜日

今日の一言
「GDPの1%」
 防衛費の話ではない。
 AIの潜在的リスク(AIは致命的なウイルス拡散や食糧供給破壊など人類に不都合な影響を及ぼす可能性がある)を軽減するためには、「年間GDPの少なくとも1%(約3,000億ドル)」を投じることが正当化されるとスタンフォード大学のチャールズ・ジョーンズ氏は主張している。これは国立科学財団National Science Foundation, NSF予算の30倍以上だ。
 資金は、一流のコンピューター科学者や弁護士・外交官の給与としてつかわれ、国際的なAI規制条約の交渉や、強力な計算能力の確保に使用される。現在は、世界的なAIリスク軽減支出は昨年わずか1億ドル強で、ジョーンズ氏が正当化する額の0.03%に過ぎない。
 財源についても興味深い指摘をしている。 AIとロボットが労働を代替する社会では、所得税から消費税へ、さらに資本(コンピューターやロボット)への課税へと移行する必要があると述べている。
 研究者や思想家は、シンギュラリティ後の未来を複数のシナリオで描いている。
• ユートピア型
o AIが労働を代替し「脱希少性経済」が実現。人間は経済的制約から解放され、芸術・交流・探究に時間を割ける。
o AIが医療・都市設計・政策決定を最適化し、貧困や病気が大幅に減少。
• ディストピア型
o AIが社会的支配を強め、政治・経済の意思決定を独占。人間の自由が制限される。
o サイバー攻撃や兵器開発など、AIが人類に直接的脅威を与える可能性。
o 超知能による格差拡大や「人間の価値の低下」。
• 中間型(共存型)
• AIは効率化を担うが、人間は「非合理性」「身体性」「遊び心」など、AIが模倣しにくい領域で価値を発揮。
• 「無駄」や「偶然の出会い」が新しい文化的資源となり、人間らしさを再評価する社会。
 ジョーンズ氏の指摘は、ディストピア型の社会にならないようにするためには巨額の資金が必要だということだ。目の前にある脅威に対抗するための防衛費3.5%でさえ議論がまとまらないのに、10年単位の未来を見据えた潜在的な脅威に対し1%の予算が必要なのかという議論になるのかは疑問だ。
 「便利な機械」としてのAIを維持するための努力分野については良く議論して方向性を国家的に決めておく必要があるだろう。技術的、制度的、文化的な観点からの議論を深めて行けば、一体いくら資金が必要かという議論につながってゆくことだろう。

ニューヨークタイムズ電子版より
1.COPブラジル大会の閉幕が近づいて
【記事要旨】
 パリ協定から10年経った。気候変動に関する読者の質問に回答したい。最近、気候変動危機が公の場であまり議論されていない一方で、読者からは多くの関心と質問が寄せられた。国際気候担当記者ソミニ・セングプタが代表的な質問に回答している。
●米国と中国の環境政策の違い
– 米国:豊富な石油・ガス資源を背景に化石燃料依存が強い。
– 中国:資源は少ないが、グリーン転換に必要な鉱物採掘・加工を支配し、再生可能エネルギー設備の製造力を持つ。
– 両国とも経済・安全保障を重視し、エネルギー自立を目指して競争している。
●再生可能エネルギーの持続可能性
– 太陽光や電気自動車はリチウム・コバルトなどの有限な鉱物採掘に依存。
– 採掘は環境・社会的コストを伴うが、法律や規制で被害を最小化できる。
– バッテリーリサイクルは可能だが、現状では率が低く改善が課題。
●個人ができる支援策
– ガソリン車の使用を減らす。
– 食品廃棄を減らす。
– 肉・乳製品の消費を減らす。
– 民主主義国家では投票を通じて意思を反映努力
【コメント】
 京都議定書(1997年12月京都で開催されたCOP3で採択された気候変動枠組条約の議定書。先進各国は2008年~12年の約束期間における温室効果ガスの削減数値目標を決定)の頃は世界をリードしていた日本の姿は、最近では見えない。

2.エプスタイン関連ファイルをめぐる亀裂
【記事要旨】
 マージョリー・テイラー・グリーン下院議員は、長年にわたり議会で最も闘争的な共和党議員の一人であり、トランプ大統領の側近でもあった。しかし、下院が今週、有罪判決を受けた性犯罪者ジェフリー・エプスタインに関するファイルを司法省に公開するよう義務付ける法案の採決を控える中、両者の関係は緊張状態にある。
 トランプ大統領は金曜日、グリーン議員との関係を断つと発表し、グリーン議員がエプスタイン議員のファイル処理を批判したことを受け、彼女を「変人」「裏切り者」 “wacky” and a “traitor”と呼んだ。さらに、グリーン議員の議席についても、あからさまな警告を発した。これは、グリーン議員に同調して法案を支持しようと考えている下院共和党議員への公の警告だ。グリーン議員は昨日、インタビューで、依然としてトランプ大統領を支持するものの、譲歩はしないと明言した。
【コメント】
 エプスタインファイルをめぐりトランプは相当追い詰められているが、余裕があるように見えるのは不思議な資質だ。

其の他の記事
・英国は、難民申請者の取り扱いについて、より厳格な新制度を導入した。
・中国は、係争中の島々付近に海警局の艦艇を派遣し、日本に滞在する中国人留学生に安全上のリスクを警告するなど、日本との外交対立を激化させた。
・メキシコ全土の50以上の都市で、政府の汚職と暴力犯罪への対応に対する不満を表明するデモが行われた。
・チリでは、犯罪と移民の取り締まり強化を公約とする候補者が多数を占める大統領選挙が行われ、有権者は投票に向かった。
・職場や自宅で長期間にわたり暑熱にさらされるインドの女性たちは、健康と収入に大きな打撃を受けていると訴えている。

2025年11月17日 月曜日