世界の動き 2023年5月31日 水曜日

今日の言葉
「1兆ドルクラブ」
 米エヌビディアの時価総額が5月30日、半導体メーカーとして世界で初めて1兆ドル(約140兆円)に到達し1兆ドルクラブに仲間入りした。アルファベットとアマゾン・ドット・コム、アップル、マイクロソフトが時価総額1兆ドルの節目を超えている。日本企業で最大のトヨタ自動車の時価総額は昨日で31.6兆円(約0.23兆ドル)だから、その巨大さが目立つ。

ニューヨークタイムズ記事より
1.ドローンがモスクワを攻撃
【記事要旨】
 昨日、少なくとも8機のドローンがモスクワの民間地域を初めて襲った攻撃した。 地元当局者によると、攻撃による被害は最小限で、住宅3棟の窓ガラスが割られ、住民2人が軽傷を負った。
 しかし、その最大の影響は心理的なものである可能性が高く、モスクワ市民はウクライナにおけるロシア戦争の現実に直面することになる。
 この襲撃は、ここ数週間集中攻撃にさらされているウクライナの首都キエフに対するロシア軍による夜間砲撃の後に行われた。 キエフは昨日早朝、少なくとも20機のドローンによる攻撃を受け、1名が死亡した。
 ロシアはウクライナを「テロ攻撃」と呼んで非難した。 ウクライナのゼレンスキー大統領の顧問は、キエフは「直接関与」していないが、「喜んで見守っている」と述べた。
 モスクワでの攻撃は、予想されるウクライナの反撃に先立ってロシアの脆弱性を露呈させた。 今月初め、ドローン攻撃がクレムリンを襲い、米国はこの攻撃はウクライナの治安当局によって組織された可能性が高いと述べた。
 ウクライナ侵攻開始から1年以上が経過し、ロシア本土に対する一連の攻撃は、ロシア国民さえも脆弱な可能性があることを示している。
 米国の当局者らは、米国は一般的にロシア国内への攻撃を支持していないと述べたが、モスクワによるキエフへの空襲は今月17回目だったと指摘した。
【コメント】
 ドローン攻撃は正規軍でなくても出来そうだ。日本へのドローン攻撃への対応のシナリオは出来ているのだろうか。日本の自衛隊にドローン攻撃可能な部隊はあるのだろうか。

2.大規模な石油流出を回避する競争
【記事要旨】
 イエメン沖で朽ち果てた超大型タンカーを処理する国連の作戦が、長年の遅れを経て今週、前進する。
 このタンカーには、1989年のエクソン・バルディーズ原油流出事故で流出した原油の約4倍の量が積まれている。専門家らは、タンカーがいつでも爆発または崩壊し、海洋生物だけでなく、漁民や沿岸地域の生活を破壊する可能性があると警告した。 また、港が閉鎖され、数百万人に水を供給する淡水化プラントの閉鎖を余儀なくされる可能性もある。
 このタンカーはイエメン東部の石油の浮体式貯蔵施設として使用されていたが、長年の戦争により維持管理が不十分なままで港湾都市フダイダの北に停泊している。
 今週、錆びたタンカーを検査して、国連が購入した耐航性のあるタンカーに石油を移送する作業の準備をする。準備には1~2週間かかり、移送には約3週間かかる可能性がある。
【コメント】
 こんなことは全く報道されて来なかった。100万バレル以上の原油が積まれているらしい。内乱により確固たる政権が政策を実行できなかったからだろう。無駄でもったいない人災だ。

3.エルドアン大統領の勝利の支柱
【記事要旨】
 トルコのエルドアン大統領は、保守的な信心深い女性のおかげもあり、20年間の権力に対する最も深刻な脅威を撃退した。
 2003年に野心的なイスラム主義政治家として国の舞台に登場して以来、エルドアン大統領はトルコの世俗的エリート層を脇に置き、スカーフ規制の緩和を推し進めてきた。 2008年に大学キャンパスでの規則が撤廃され、2013年にはエルドアン党のベールに包まれた女性4人が初の国会議員となった。
 今ではさらに多くの女性がおり、スカーフをかぶったために大学や政府の仕事から締め出された保守的な女性たちは今でも投票でエルドアンに感謝している。
【コメント】
 最初記事の意味がわからなかった。つまり、トルコの世俗エリートが「禁止」してきたスカーフの着用を、エルドアンが「緩和」して、大学や政府の仕事で、着用しても良いということにした、という意味だ。
 そういえば、エルドアンの奥さんも白っぽく見えるスカーフをいつも着用している。

その他:
キャセイ航空は不振・若者は高失業
 Cathay Pacific, Hong Kong’s flagship airline, is struggling to recover from Covid lockdowns and Beijing’s crackdown on pro-democracy protests.
 As China’s young people face record unemployment, our columnist writes, the Communist Party is telling them to embrace hardship.
難民認定は米国でも難しいらしい
 Dozens of Afghan women who served in a platoon that helped U.S. troops in Afghanistan are still waiting in the U.S. to be granted asylum.
AIが人類を滅ぼすか
 Tech leaders warned that A.I. could pose a risk of extinction for humans on par with pandemics and nuclear wars.

2023年5月31日 水曜日

世界の動き 2023年5月30日 火曜日

今日の言葉:
「親ばか子ばか」
 岸田首相親子をあらわす言葉だ。
英語で何と言うか調べたがしっくりくる表現が無い。
 Doting father, Spoiled child.
 溺愛する父親、ダメになる子供
 とでも言うとわかりやすい。

ニューヨークタイムズ記事より
1.ウガンダの厳しい反同性愛法
【記事要旨】
 ウガンダ大統領は昨日、刑罰として死刑を含む反同性愛者懲罰法案に署名し、L.G.B.T.Q.に対する取り締まり強化を法制化した。
 同性との性行為をした者には終身刑を課すことを求め、同性との性関係を持とうとする者は、最長10年の懲役に処される可能性がある。 同法はまた、子供や障碍者への「加重同性愛」には死刑を課す。
  ウガンダでは同性愛はすでに違法だったが、世界で最も厳しい同性愛者対策である新法は、より厳しい刑罰を求めている。
 3月にこの法律が議会に上程されて以来、多くの L.G.B.T.Q. の人々はウガンダから逃れている。
 ムセベニ大統領は、国連、西側諸国政府、市民社会団体からのこの措置を発動しないよう求める広範な要請を却下した。
 ケニアやガーナなど、ますます多くのアフリカ諸国が、同様の、あるいはさらに厳しい法律の可決を検討している。
【コメント】
 ウガンダは85%がキリスト教徒の国だ。ケニヤやガーナもアフリカでは開明的な国々でキリスト教国だ。イスラム教では宗教が同性愛を強く禁止している。キリスト教国では同性愛を禁ずる動きが法整備で現れるということかと思われる。

2.キエフへの珍しい朝の襲撃
【記事要旨】
 ロシアによる夜間集中砲火からわずか数時間後、午前11時頃にキーウで空襲警報が鳴り響き、4万1000人以上が地下鉄の駅に避難した。 親たちは子どもを守ろうと先を急ぎ、病院職員たちは避難所に身を寄せた。
 ウクライナはロシアが発射したミサイル11発を全て撃墜したと発表したが、落下する瓦礫により被害が発生しており、負傷者についてはまだ調査中である。
 ロシアは今月キエフに対して16回の攻撃を行ったが、昼間の攻撃はここ数週間で初めてだった。 ウクライナ当局者らは、ロシア政府が最大限の損害を与えようと戦術を調整していると述べた。 これまでのところ、西側兵器によって強化されたウクライナの防空体制はキエフへの空襲をほぼ阻止し、人口密集地域での死傷者と被害発生を阻止している。
【コメント】
 夜も昼もロシアは攻撃を続ける意志のようだ。ウクライナの防空システムがミサイル迎撃を効果的に防いでいるとすれば、それは良いニュースだ。

3.拡大する中国の宇宙への野心
【記事要旨】
 中国政府関係者は昨日、2030年までに有人月面着陸を計画していると発表した。 この発表は、3人の宇宙飛行士が今日、地球から昨年末に完成した中国の新しい宇宙ステーションに向けて打ち上げの準備をしている最中に行われた。
 月面着陸は、宇宙分野での米国との競争において中国にとって重要な成果となるだろう。 1960 年代と70 年代の米国のアポロ計画以来、人類は月に降り立っていない。 NASAの2025年を目標に人類を再び月に着陸させるアルテミス計画は遅れている。 昨年の米国の報告書は、中国が2045年までに米国の宇宙能力を追い越す可能性があると警告した。
 中国は21世紀に月面着陸に成功した唯一の国であり、2019年には月の裏側に探査機を着陸させた初めての国となった。
【コメント】
 宇宙分野では日本は太刀打ちできないほど差が開いた。宇宙開発はミサイル能力でわかるように軍事技術と不可分だ。民生のみの日本は弱いと言わざるを得ない。

その他:
インドで人口減とは
 The Indian state of Sikkim is offering cash to encourage people to have babies, a sign of India’s uneven population growth.
スペインでは総選挙へ
 Prime Minister Pedro Sánchez of Spain called for a snap election in July after his party suffered defeats in regional elections over the weekend.
日本の生き残る老舗
 A travel writer used a 22-year-old guidebook to lead him through Tokyo on his search for bars and restaurants that express the city’s traditional eating and drinking culture. It took him to old stalwarts like Iseto, a sake den that’s operated out of the same wooden house since 1948.
“The long-term survival of old-school places like Iseto is an accurate barometer of how much a city has been able to stay true to itself and resist the onslaught of the hot and new, often bywords for globalized sameness,” he writes.

2023年5月30日 火曜日

世界の動き 2023年5月29日 月曜日

今日の言葉
「梅雨入り」
 「梅雨入り」とは「梅雨の季節に入ること」で、雨や曇りの日が多くなる時期に突入するまで、5日間程度の「移り変わりの時期」が設けられ、気象庁はこの移り変わりの時期の中日を梅雨入り時期としている。わかりやすく言うと、これまでと比べ今後一週間で雨が目立って増えることが見込まれる場合は「梅雨入り」する可能性が高い。
 週刊天気予報を見ると今後一週間は明らかに雨が多そうだ。そろそろ梅雨入りかも知れない。「タチアオイ」の花は、下からはじめて一番上まで咲き終わると梅雨が明けると言われるが、自宅の近くの「タチアオイ」は一番上まで咲きかけており、梅雨入りをとっくに宣言している。

ニューヨークタイムズ記事より
1.米当局者が債務制限協定を結ぶ
【記事要旨】
 バイデン大統領とケビン・マッカーシー下院議長は、債務上限を2年間解除することで大筋合意に達した。
 バイデン氏は土曜夜の声明で「これは勤労者にとって重要なプログラムを守り、すべての人にとって経済を成長させながら支出を削減する重要な前進だ」と述べた。
 この協定により、現在31兆4000億ドルに達している借り入れ制限は、次の大統領選挙を乗り切るのに十分な期間停止されることになる。 財務省は、6月5日に予想された破滅的な債務不履行は回避される見込みだ。
 共和党が望むほどではないものの、国内支出には上限が設けられるが、国防、社会保障、メディケイド、退役軍人向けプログラムは削減から守られることになる。
 この計画の議会通過は保証されていない。下院と上院が協定案を可決し、バイデンに署名されないとならないが、下院では共和党が僅差で過半数を占めており、右派議員らはすでに反乱を起こしている。
 バイデン氏の超党派主義に徹しているという主張が民主党内の多くの人々から批判されることにもなる。
【コメント】
 一応安心だ。共和党右派が抗戦しても、下院の通過は堅そうだ。

2.エルドアン大統領が再選される
【記事要旨】
 在任20年間で最大の政治的課題に直面していたエルドアン大統領が昨日、再選に勝利した。 エルドアン氏は得票率52.1%を獲得し、対抗馬のケマル・キリクダログル氏は47.9%を獲得した。
 エルドアン大統領はイスタンブールの自宅前にある白いバスの上から支持者らに演説し、さらに5年間の任期を与えてくれたこと、そして決選投票での支持に感謝の意を表した。「墓まで一緒にいるよ」と彼は言った。
 キリクダログル氏はテレビ演説で結果には異議を唱えなかったが、エルドアン氏が国家権力を利用した選挙は不公平だったと述べた。
 米国を含むNATO同盟国はこの結果を注視していた。エルドアン大統領がフィンランドの同盟加盟を妨げ、スウェーデンの加盟支持を拒否したため、エルドアン大統領との関係は緊張している。
【コメント】
 大山鳴動したが落ち着くところに落ち着いた。ロシアを孤立させないためにはエルドアン政権の継続が良かったのかもしれない。経済運営をしっかり行い国内の不満を沈静化して欲しいものだ。

3.中国で新型コロナウイルス感染者が増加
【記事要旨】
 中国の保健当局は、4月以降、特に世界中に広がっている変異種による新型コロナウイルス感染者数の増加を報告している。 ある著名な医師は、6月下旬までに全国で1週間に最大6,500万人が感染する可能性があると推定した。
 これらの数字は、12月に突然撤回された「ゼロコロナ」政策への回帰の可能性を示すが、中国の当局者は、厳しい規制を再導入することなく、国民を感染拡大に備えさせようとしているようだ。
  国内旅行に対する厳しい制限を廃止して以来、政府は成長の回復と雇用創出に向けて舵を切った。 ここ数年で最高水準にある若者の失業率は、新型コロナウイルス感染者数の増加よりも政治的に差し迫った問題かもしれない。
【コメント】
 インバウンドの解禁で中国からの渡航者が著増するだろう。インバウンドのこれ以上の増加は歓迎しない立場だが、日本で感染が再拡大したとき日本政府が狼狽しないことを望みたい。効果の薄いマスクをいつまでも外せない国民性だ。

その他:
ベトナムで政府要人をからかうのはご法度
 A powerful Communist official in Vietnam ate a gold-encrusted steak. An activist who poked fun at the excess was sentenced to more than five years in prison.
日本の民間企業の月着陸失敗の原因
 An inquiry found that a software glitch caused a Japanese robotic spacecraft to misjudge its altitude as it attempted to land on the moon last month before its crash.
カンヌ映画祭の金賞
 “Anatomy of a Fall,” directed by Justine Triet, won the Palme d’Or at the Cannes film festival.
(水島注:Anatomy of a Fall (French: Anatomie d’une chute) is a 2023 French thriller film directed by Justine Triet from a screenplay co-written by Triet and Arthur Harari. It stars Sandra Hüller as a writer trying to prove her innocence in her husband’s death.
と言うことで、まだ日本未公開です)

2023年5月29日 月曜日

休暇は要らない?

 ベガバンクのニューヨーク支店で内部監査の責任者として8人のアメリカ人の部下を率いた経験がある。全員が、年2週間の特別休暇は取得し、最低20日以上の有給休暇はすべて消化したうえに、病気欠勤も年数回取得する、という人たちの集まりだった。支店全体では300人ほどのアメリカ人が働いていたが、ほとんどの人が、そんな感じだった。

 ニューヨークタイムズに、そうでもない記事が載っていたので紹介したい。

 NY Times Deal Book May 27,2023 より
『休暇の終わり?
 夏休みの季節がやってきたが、驚くほど多くのアメリカ人と同じように、あなたもおそらく有給休暇をある程度残しているだろう。 ピューの最近の調査によると、雇用主が有給休暇や休暇制度を提供している労働者の46%は、提供されている休暇よりも短い休暇を取っている。 その理由は次のとおりだ。

・さらに休暇をとる必要があるとは感じない (52%)。
・仕事で遅れが出るのではないかと心配する (49%)。
・同僚に追加の仕事を引き受けさせるが申し訳ない(43%)。
・休暇を取るとキャリアアップの可能性が損なわれる可能性がある (19%)。
・仕事を失う危険があるかもしれない (16%)。
・上司が休暇をとることをやめさせる (12%)。

 リーダーが職場文化に関して下す決定が、報復への恐怖や昇進を逃す恐れなどの理由に影響している可能性が高くなる。また、管理が不十分で、人員が不足している職場では、同僚に余分な仕事を任せることについての不安が強くなる可能性がある。

 同時に、利用可能な有給休暇をすべて取得しない最も一般的な理由は、労働者がその必要を感じていないことだ。

 多くの人は、「オフ」のときでも仕事を続ける。 回答者の 55% は、勤務時間外に仕事の電子メールやメッセージを「非常に頻繁に」、「頻繁に」、または「時々」チェックすると回答した。

 ただ、従業員は有給休暇が取得できることを重視しているようだ。 ピューの調査では、全労働者の89%が、仕事上、休暇、医師の診察、軽度の病気のために有給休暇を提供することが「非常に」または「非常に」重要であると回答しており、健康保険や退職プログラムの整備よりも「非常に重要」を選択した人が、雇用者の回答と比べても多いのだ。 』

 これは、私のニューヨークでの約25年前の経験と比べると大きな変化だ。
・コロナ下での職業の選択の自由度の減少。
・普及したリモートワークの影響。
・(多分)安定した仕事へのロイヤリティの高まり。
といった点が、米国人労働者に変化をもたらしたのだろう。

 日本では、以前は、「有給の消化は悪」「皆が多忙な時期に有給を取るとは何事か」と言う風潮があり、有給の消化率は極めて低かったが、現在はどうなっているのだろうか。

 仕事へ前向きに取り組んでいるかどうかを調べるエンゲージメント調査がある。組織と従業員、従業員と仕事、組織と顧客などの結びつきをエンゲージメントと言い、信頼関係のもと自ら意欲的に捉えている状態を「エンゲージメントが高い」と表現する。

 世界比較では日本の従業員のエンゲージメントは極めて低い。米調査会社ギャラップが2022年に実施した調査によれば、日本は熱意あふれる(従業員エンゲージメントの強い)社員の割合は5%で、調査対象129カ国中128位であった。米国カナダの33%から大きく引き離され、韓国の12%より低くOECD諸国では最低だ。

 私が関与している会社を見ると、有給の取得率はいまだに低いようだ。エンゲージメントが低ければ、どんどん有給を消化する従業員が増えるような気がするのだが、そうなっていないようだ。周囲に忖度し、自己を押し殺す傾向が有給の未取得を増やし、それがエンゲージメントを低める悪循環に陥っているのだろうか。

 数年前に日本を代表する優良企業の品質不正問題が頻発した。神戸製鋼、東レ、日産と言った企業だった。最近はトヨタ自動車傘下の日野自動車、ダイハツで品質不正が明るみに出ている。「外見だけを取り繕うやっつけしごと」がまるで日本企業の本質のようにさえ思える。

 「エンゲージメントの高い優秀な現場力」が日本の競争力の源泉だったと思うが、どこに行ってしまったのか。失われた30年を脱却するのは至難の業に思える。

2023年5月28日 日曜日

Paul Ankaと人生のロンド

 5月23日にPaul Ankaのコンサートを見に行った。
 1941年7月30日生まれの81歳で私より9歳年上だ。1957年にDianaを、翌年にYou Are My Destinyを大ヒットさせた。好きな歌手の一人だが、私はアンカの全盛期を、直接は知らない。

 1962年にLove Me DoでデビューしたBeatles世代だからだ。子供時代の5歳の差は大きい。60年から70年代のポップスはBeatlesが席捲した。1966年の日本武道館での公演も記憶にある。

 アンカのコンサートでは1955年の初来日時の映像が映された。三橋美智也、平尾昌晃、江利チエミと一緒に笑顔で写っているが、この人たちと私とはジェネレーションが違う。ビートルズの全盛期にアンカは忘れ去られた。

 60年代70年代に雌伏していたアンカは80年代に復活した。作曲家として他者に曲を提供し(一番有名なのはFrank Sinatraへ提供したMy Wayだ)ラスベガスのショウでの人気者になった。

 私がアンカを知ったのはニューヨークに住んでいた時にTVで昔の歌手の「リバイバル特番」を流していた。よく見たのがアンカの特集だった。抜群の歌唱力とショーマンシップに魅了された。

 東京公演ではアンカの魅力が爆発した。You Are My Destinyを歌いながら客席の後方から登場し女性ファン(ほとんどは私より年上か?)の嬌声を浴びていた。初期の大ヒット曲を連続で歌い客席を大興奮させる。Dolly PartonやBuddy Hollyへ提供した曲を、彼らとの思い出を語りながらしんみり聞かせる。最後は当然My Wayだ。その後のアンコール3曲を含め20曲近くを全力で歌い、動き続けた2時間だった。

 さて、コンサートの熱狂が去り、私とポール・アンカの邂逅に思いを致し、こんなことを考えた。

 我々の人生はLPレコードに似ているのかもしれない。生まれたときは回転スピードはゆっくりしているが回転が進むにつれてスピードが速くなり中心に向かうのだ。

 自分がいる溝の近くの友人たちとは同じようなペースで進み、触れ合う機会は多い。まだほとんどの友人が生き残っているが、若くして鬼籍に入った友人もいる。

 離れた溝にいる人達と触れ合う機会は乏しい。アンカのピーク時を私は知らないが、これは溝が離れていたからだ。ニューヨークで溝が近づく機会があったのだ。

 溝の違いが絶対的かと言うと、そうでもない。私たちは自分のいる溝の中でグルグルとロンドを踊っているので、離れた溝で踊っている人と意外に近づくこともある。手を伸ばせば届くこともあるかもしれないし、離れなければならない溝の定めなのかもしれない。

 学校や職場や社会での出会いで、多く人たちとの触れ合いに支えられながら私たちは生きている。今回のアンカの日本公演は決して「リバイバル特番」ではなかった。私を「リバイブ」してくれる刺激的なショーだった。

2023年5月27日 土曜日