「お役所仕事」考 (その2)

この2週間が新コロナ肺炎の感染が爆増するかコントロール可能なレベルに抑え込めるかの正念場だと安倍首相が2月26日の対策会議で発言した。不要不急の集会や講演等の自粛が求められた。
PCR検査の進み方の遅さについて国会で枝野立憲民主党党首が舌鋒鋭く加藤厚労相に攻め込んでいた。韓国に比べて随分進み方が遅いようだ。前回に書いた「受領しなければ届け出にならない」というロジックが効いている。検査件数を絞れば絞るほど感染者が表面化せず、あたかも政府の対策は機能しているように見える。
この2週間が分水嶺だと政府は言っているが、この2週間で、検査の件数が増えれば陽性と判明する人数は飛躍的に増加するだろう。

コロナの分水嶺は政権の分水嶺になるかもしれない。

(2020.2.27)

「お役所仕事」考

最も役人になるのにふさわしい大学に進みながらまじめに勉強しなったため役人に成り損ねた後悔が心の底に今でもある。

同期の多くの仲間同様に大手都市銀行に就職しあまり役人と変わらないbureaucraticな仕事をしてきた。若いころいわゆるMOF担の下っ端をやったことが有り、いわゆるお役所仕事の神髄を知った。

その1:受理されなければ届け出はできない。
いろいろな許認可が、許可制から届け出制に変わる時期だったが、MOFに「受理」してもらえなければ物事は1ミリも進まないことを理解した。だから許可制と届け出制は大きな違いは無いのだ。
その2:前例のない事項は進まない。
前例を端から端まで調べて、前例のない新しい考えは認めてもらえなかった。前例にやたらに詳しい人が係長クラスに多くいたなー。
その3:何事も文書主義で完璧主義
「届け出」も「前例」もすべて文書の世界で成立するお話であり、文書については完璧主義が徹底していた。昔の書類はとても大事なのだ。

こうした経験から、
・森友事件の文書改ざんや桜を見る会の記録の破棄は、全く信じがたい。
・ダイヤモンドプリンセスから下船させた人たちの一部のウィルス検査を実施していなかったことと、濃厚接触者たる厚労省の役人が下船後ウィルスチェックをしなかったというのも、完璧主義の役人を見慣れた目には信じがたい手抜かりだ。
・検事の定年延長の件でも、検事は一般公務員の定年が適用されないというルールがあったなら、内閣に息のかかった(とうわさされる)検事の定年をわざわざ伸ばすことはそもそも必要なかったはずだ。有職故実を熟知している法務省の役人はそれを教えなかったのか。内閣府あるいは法務大臣に含むところがあるのだろうか。

日本は官僚が一流だから政治がニ流でも持っていると言われた時期があった。
官僚が新しいものへの受容性でアメリカに後れを取るのはまだ許せるが、現在の仕事ぶりは発展途上国以下に見える。
古き良き「お役所仕事」はどこに行ってしまったのだろうか。

ところで、
「お役所仕事」にふさわしい英語表現としては以下が挙げられる。
red tape: 何事も時間がかかる点を強調
bureaucratic routine: 役人の業務
documentalizm: 文書主義

さらに、
以前アメリカ人に教えてもらった表現で
boondoggle: 見た目は意味ありそうに見えるが意味のない仕事や出張
というのはとても役に立つ。

今話題の官房長官の首席補佐官と厚労省の官僚との出張などはまさにboondoggleですかね。

(2020.2.23)

マスクから考える

先週後半は那須に行っていた。東京よりだいぶ寒いが薪ストーブを燃せば家全体が暖まり快適だ。人も車も少なく夏より冬の那須が好きだ。

那須に来た理由の一つがマスクだ。東京ではすでに払底しているが人口密度の低い那須ならまだあるだろうという読みだったのだ。
全く甘かった。イオンやドラッグストアを見たが全くない。ダイソーで1人ひと箱(30枚入り)という制限付きのを見つけ購入した。翌日には売り切れていたが。

Amazonで今見ても、普通価格の10倍程度で売られている商品が大半だ。マスク不足に付け込んでずる賢く立ち回るやからは腹立たしいが、これは資本主義の本質だ。
需要曲線と供給曲線が交わるところで価格が決まるという経済学の基本が見事に成立している典型だ。いずれマスクが増産され市場に出回るか、マスクの効果は限定的だと人々が感じれば価格は下がってゆく。

中国のように公共交通に乗る際にはマスクは必須というルールにすると、貧乏人は、政府からの供給を待つか、マスクが手に入らなければ自宅にいる以外に手はない。

武漢の病院の様子がSMSを通じて世界に広まっている。
薬も注射もない開放的なスペースに患者が放置されている映像だ。強制的にアパートから連行される映像もある。まるで映画のバイオハザードを彷彿とされる状況だ。

共産党の幹部などはどうしているのだろうか。手厚い看護を受けているに違いない。階級(に基づく経済力)の違いによってパンデミックを生き残れる可能性に大きな違いがある。

日本ではダイヤモンドプリンセスのニュースで持ち切りだ。(三菱重工が建造中に火災を出した曰く付きの船で私ならこの船は避けただろう)
豪華客船での船旅を楽しんでいた経済的に余裕のあると思われる人たちに不幸が降りかかったのは非常にアイロニカルだ。

高い価格を払っていたベランダ付き船室の客のほうが、窓の開かない船室や、窓のない内側の客よりも、幽閉中も快適に過ごせているようだ。ここでも資本主義の原則が働いている。

今回は豪華客船は幽閉の場になり、おそらく感染したクルーにより伝染が加速され、悲惨な状況だ。同情を禁じ得ない。

今回の事象を教訓に、全く逆の発想もできるだろう。
パンデミックが世界中で大流行した際に、この船は、ウィルスから完全に隔離されていますという豪華客船が現れれば代金はいくらでも乗船したいという富裕層が現れると思われる。

或いは、殺菌装置の行き届いた高級コンドミニアムやホテルのニーズも富裕層に高まると思われる。ここでも資本主義の原則が働いている。

さてさて、更によく考えると、資本主義の原則が機能している間はまだましなのかもしれない。お金があれば何とかなるからだ。
お金以上に思想や武力が機能し始めると本格的なカタストロフィーの始まりだろう。注意して今回のパンデミックの行方を見守りたい。

(2020.2.10)