世界の動き 2022年6月30日 木曜日

ニューヨーク・タイムズ電子版より

今日の一言:
「二つの日本病」
 東大の渡辺努教授(日銀の黒田総裁に消費者の値上げ耐久力で引用された論文の著者)の指摘する二つの日本病は、「慢性デフレ」と「急性インフレ」。確かに大きな課題だ。簡単に解決できるとも思えないが、教授の処方箋はこうだ。
 「日本企業の多くは商品やサービスに同じ価格を過去30年にわたり付け続けてきた。この慣行が、賃金が安く物価も安いバランスを永続させてきた。海外発のインフレが「物価高・賃金高」をもたらすチャンスが出てきた。企業は思い切って価格を挙げ、賃金を上げることが可能になる。政府としては価格補助金でなく所得税の減税で消費者を支援するべきだ。」
 説得力のある論考かと思うので紹介した。

1.より強力なNATOが出現
【記事要旨】
 マドリッドでの首脳会談でNATOはロシアを主敵と、中国を戦略的チャレンジと位置付けた。冷戦後長らくロシア敵視はせず中国は興味の対象外だった状況から大きな転換。フィンランドとスウェーデンの参加を正式に招請した。事務総長は東に位置する8か国でNATOの軍備強化の発言。トルコは2か国の参加反対を撤回し米はトルコへのF-16の売却へ動く。
【コメント】
 軍備での同盟関係強化は無法なロシアに対抗するには不可避の選択だろう。ただし、外交の努力やしたたかさがそれ以上に重要だと思われる。日本はロシアや中国との関係には特に慎重であるべきだ。

2.上海でのロックダウンの影
【記事要旨】
 市民生活は正常に戻りつつあるが2か月のロックダウンが与えた市民への心の影響は大きい。精神的なカウンセリングは前年比3倍になり市民の40%は鬱状態との統計もある。政府のゼロコロナ政策堅持により上海では7月末まで全地域での週末PCR検査が継続される。マカオは患者急増でロックダウン。
【コメント】
 2か月家の中に閉じ込められていれば精神的な影響は大きいだろう。近くのコンビニに行く。本屋で本をパラパラ見る。こうした日常がとても貴重だとわかる。

3.インドでの騒乱が拡大
【記事要旨】
 二人のムスリムがムハンマドを侮辱したヒンズー教徒の洋服屋を虐殺する画像がインド中に拡散される。モディ首相の女性報道官がムハンマドを侮辱するとムスリムが考えるコメントをしたことが今回の騒乱の発端。殺された洋服屋は女性報道官支援をアプリで表明していた。二人のムスリムは彼を殺害することで首相に抗議し次の目標は首相だと警告。
【コメント】
 ヒンズーとイスラムの争いはインド建国以来の宿痾。純粋な一神教と極端な多神教で絶対に折り合えない。お互いに見下しあっており中道を選ぶことができない。

その他:
フィリピンでも言論弾圧か
The Philippine government ordered Rappler, the news site co-founded by the Nobel Peace Prize laureate Maria Ressa, to shut down for violating foreign ownership rules. Ressa vowed to appeal the decision.
スコットランドは分離へ国民投票
Scotland’s first minister announced plans for a referendum next year on Scottish independence, reviving the question over her country’s future.
中国へ情報流出を警戒
A U.S. official called for Google and Apple to remove TikTok from their app stores, citing concerns that the video app, which is Chinese owned, could send American data back to Beijing.

(2022年6月30日 木曜日)

世界の動き 2022年6月29日 水曜日

ニューヨーク・タイムズ電子版より

今日の一言:「ブルウィップ効果」
 ブルウィップ効果とは、サプライチェーンの川下で起きた小さな需要変動が川上に移動するにつれ大きな需要変動になる現象。米国の著名投資家が、米国小売業での川下での需要減が川上での在庫の著増につながり、経済でのデフレ圧力が高まっていると警告している。FRBの金融引締めに変化が現れると予想する見方が出てきたのは興味深い。カラ売り筋には首筋が寒くなる見方だ。

1.彼らは私を傷つけようとはしていない
【記事要旨】
 Jan6の暴動のヒアリングでトランプ前大統領が武器の携行を探知する議会の警備を解除するように指示したことが明らかになった。暴徒は私を傷つけに来たのではない、というのが理由だ。暴動後メドーズ首席補佐官とジュリアーニ顧問はトランプ大統領に恩赦を要請したことも明らかになった。これらの証言はトランプが暴動を扇動した証拠になるとの見方が出ている。
【コメント】
 米国での公聴会の進め方がよく理解できない。証言をいろいろな立場の人間から集めているが物的証拠なしにトランプをどのように追い詰めることが可能になるのだろうか。

2.少なくとも50人が死亡
【記事要旨】
 テキサス州で発見されたトレーラーの中で50人が死亡し16人が病院へ運ばれた。メキシコからの不法移民と見られる。トレーラにはエアコンなく、コロナ下で米国への入国が厳しくなったため危険を冒し潜入を測る中南米の人が増えている。
【コメント】
 命を失うリスクを犯しても米国に入りたいという人たちの気持ちは理解できない。

3.トルコは2か国のNATO参加を許容へ
【記事要旨】
 トルコの判断を受けてマドリッドでのNATO首脳会談でスウェーデンとフィンランドの参加を正式に招請する見込み。NATO会議に先行しドイツでのG7首脳会合では原油価格へのキャップ制度の導入と世界の食糧危機への対応が決議される。プーチン大統領は中央アジア首脳会議参加で孤立化に対抗。ロシアはウクライナのショッピングセンターをミサイル攻撃し死者は18人。インドのモディ首相はG7に参加し、自身を貧しい国々の代表と位置づけ、制裁は最貧国に最も打撃があると述べる。NATOはウクライナへの軍事支援と東方への兵力展開を決議予定。プーチンはクレムリンでインドネシアのジョコ大統領と面談予定。
【コメント】
 外交交渉が錯綜している。外交に強い岸田首相の腕の見せ所だろう。

その他:
中国は入国時の規制緩和
China cut its required quarantine time in half for international arrivals to seven days in a facility, followed by three days of home isolation.
日本の尼崎のUSB事件
After a night of drinking, a Japanese man lost two USB sticks containing the personal information of 460,000 people — the entire population of a city. Two days later, the drives were found.
まだナチの追求がされているのか
A German court convicted a 101-year-old former Nazi concentration camp guard of being an accessory to more than 3,500 murders.

(2022年6月29日 水曜日)

世界の動き 2022年6月28日 火曜日

ニューヨーク・タイムズ電子版より

今日の言葉:「一物一価」
一物一価の法則( law of one price)とは、自由な市場経済において同一の市場の同一時点における同一の商品は同一の価格である」が成り立つという経済原則。
ロシア原油への価格制限はこの原則に反する。これだけ情報化の進んだ世界経済で有効に機能するかは疑問だ。

1.G7のドイツでの首脳会談
【記事要旨】
ロシア原油に上限をつける案が検討される。需給を緩和し価格を抑える効果を見込む。中国に対抗し開発途上国のインフラ投資策も協議。中国は「債務の罠」との非難に反論。NATOはロシアへの対抗兵力を40000人から300000人に増加し危機に備える。
【コメント】

G7の動きは鈍く弱い。世界経済での力の低下は明らかだ。
食糧危機や激化する天災への備えはどのように議論されたのだろうか。

2.ロシア対外債務をデフォルト
【記事要旨】
日曜に30日の猶予期間の終わる1億ドルの利払いが出来ずデフォルトの見込み。ロシアは「5月に支払いをしているが西側決済期間がストップしている」と非難。デフォルトはロシアの調達コストの増加につながるが、ロシアはエネルギー輸出で潤沢な支払資金があり正式なデフォルトになるかは未定。
【コメント】
デフォルトを表明して得をするのは誰もいないので正式表明は無いと予想する。

3.輝きを失うニュージーランド首相
【記事要旨】
食料、燃料、家賃の上昇と増加するギャングの暴行で、アーダーン首相の中道左派政権は5年来で最低の支持率。コロナ対策で支持を集め2020年の選挙で単独多数を獲得したが、コロナが収まった現在、政権の公約未実現が問題になっている。
【コメント】
外から見ると輝ける星だが国民の見方は厳しい。おとなしい国民に支えられる日本の政権は楽だな。

その他:
コロンビアでスタジアムが崩落
At least six people were killed and more than a hundred injured at a bullfighting festival in El Espinal, Colombia, when wooden spectator stands collapsed.
EVで高級ブランド価値をどう維持するか
Italian car manufacturers Lamborghini and Ferrari are wrestling with how to design electric sports cars that will inspire the same passion and command the same prices as their cars with the throaty 12-cylinder engines.
これも保守的な動きか
The U.S. Supreme Court ruled that a high school football coach had a constitutional right to pray at the 50-yard line after his team’s games.

(2022年6月28日 火曜日)

世界の動き 2022年6月27日 月曜日

ニューヨーク・タイムズ電子版より

今日の一言:

「需給逼迫注意報」

聞きなれない名前だ。参院選でもエネルギー政策全般を見直す議論は盛り上がらず、野党を含む政策の失敗を市民に押し付ける印象が強い。

1.中絶禁止は合憲の米最高裁判断
【記事要旨】
米連邦最高裁が中絶の権利を認めた1973年の「ロー対ウェイド判決」を覆した今回の判断を受け、テキサスとミズーリ州は直ちに両州での中絶が違法だと宣言。他の9州ですぐに、その他20州でもじきに違法とする見込み。この判断に対し各地で抗議集会が開かれた。妊娠しないピルの需要が急増しているが今後の論争の焦点になろう。中絶が合憲の州へ旅費が払えず移動できない低所得の黒人やヒスパニックの女性は中絶することが困難になろう。
【コメント】
今回の最高裁判断を共和党支持者の78%が賛成する一方、民主党支持者の83%が反対。銃規制に続き、中絶という国論を2分する問題での最高裁判断であり、11月の中間選挙に向け、米国の分断はさらに深まりそうだ。居住する州により中絶が認められるか認められないか決まりのは何とも釈然としない。

2.G7の開催に合わせロシアはキーウを攻撃
【記事要旨】
G7サミットでの一層のロシア孤立化策へのロシアの返答。何週間もなかったキーフへのミサイル攻撃を含む全土への攻撃を強化。ロシア産原油の制限による代替資源の確保は気候目標の達成を困難にする。G7では中国の影響拡大への対策も協議。
【コメント】
以下のニュースもある。
バイデン米大統領は中国の巨大経済圏構想「一帯一路」に対抗する新たな枠組み「グローバル・インフラ投資パートナーシップ(PGII)」を打ち出す。中低所得国に5年間で6000億ドル(約81兆円)を投入する計画。米国は資金提供をG7首脳に呼びかけ、岸田文相は日本として650億ドル以上の拠出を目指す考えを表明した。
対中国での米国追随策は結構だが、欧米は裏で協力軸も確保しているので日本はしたたかに動きたい。

3.中国の監視国家強化策
【記事要旨】
過去1年間NYTimesでは中国政府の購買履歴を精査し、予想を上回る中国の監視国家化への動きを発見。監視カメラで眼鏡やマスクをかけていても人種、性別、を認識しソフトを通じデータを蓄積。電話の追跡ソフトで市民のデジタルと実際の行動を把握。DNAと声紋の収得も犯罪とは無関係に進めている。AIが使用され精神疾患のある人が学校に近づくのを警官に警告するとか偽装結婚を発見するようなことが可能になる。
【コメント】
米国の国論二分と対照的に中国では共産党集中が進んでいる。日本は住みやすい国だと改めて思う。

その他:
バングラデシュでの豪雨
Climate change has worsened the annual monsoon season in Bangladesh: At least 68 people have died from flood-related causes and more than 4,000 have been infected with waterborne diseases since May.
北欧でも起きる銃乱射
A gunman opened fire near a gay nightclub in Oslo, Norway, on Saturday, killing two and seriously wounding at least 10.
北京市内での水泳
Beijing is not known for its natural refuges — or its rule-bending. But “wild swimming” in the city’s lakes and waterways has continued to attract stubborn bathers, despite attempts by authorities to restrict the practice. During the pandemic, interest only grew.

(2022年6月27日 月曜日)

参議院選挙で二院制を思う

 参議院銀選挙がたけなわだ。掲示板に候補者ポスターが張られ、どの人にしようかと思案しながら立ち止まっている人を見かける。

 日本では選挙による獲得票により選出される議員による衆議院と参議院の二院制があたりまえのように思われている。議員の選出方法が両院でほぼ同じであり、法案審議等で衆議院の優先権があるので、参議院は衆議院のコピーに過ぎないという意見(極端な場合は参議院不要論)も聞かれる。

 先進民主主義国で構成されるG7の国々では二院の在り方は大きく異なるので概説してみたい。(以下の説明はWikipediaによる)

 アメリカでは、上院の定数は100議席であり、米国各州から2人の上院議員が6年の任期で一般投票によって選ばれる。下院の定数は435議席で、議員は一般投票によって直接選出され、2年ごとに全議員が改選される。議席は各州の人口比に応じて配分され、各州において選挙区割りが行われ、単純小選挙区制度により各議員が選出される。(我が国の「一票の重み」裁判では違憲確実の「上院の議員数は各州から2人」が貫かれている。)
 条約の批准と指名人事について、大統領に「助言と同意」を与える権限は上院のみが行使しうる。弾劾裁判においては下院による訴追に対して上院による裁判と役割が分担される。予算案および関連法案については下院に発議権がある。予算案を含むすべての法案が成立するためには上下両院での承認が必要であり、イギリスや日本の下院に付与されているような特定議院の優越はない。

 英国では、議会は両院制で、上院(貴族院)(定数785)と下院(庶民院)(定数650)から構成されている。君主は立法府の3つ目の構成要素を形成する(議会における女王)。貴族院は2つの異なるタイプの議員を含んでいる。すなわち、英国国教会で最も上級の聖職貴族で構成される聖職上院議員 (Lords Spiritual) 、及び首相の助言に基づいて君主により任命される連合王国貴族と一代貴族とで構成される世俗上院議員 (Lords Temporal) である。庶民院は、少なくとも5年ごとに行われる選挙に伴い、民主的に議員が選出される議院である。憲法上の慣習により、首相を含む全ての大臣(ministers)は、庶民院議員であるか、 – あまり一般的ではないが、貴族院議員であるか – である。議会法(イギリスの憲法の一つ)に、庶民院の優越がある。予算をはじめとする重要法案は庶民院議決が最優先される。また、その他の法案に関しても、庶民院が可決した法案は、貴族院が否決するかあるいは審議を先延ばしにしても、庶民院が再可決すれば成立する。庶民院が否決した法案は、貴族院では審議されない。なお、首相は選挙の際に庶民院で多数派を取った政党の党首が就くが、庶民院議員である必要がある。英国の上院が一般選挙で選ばれた人で構成されるのに驚く。

 米英のみならず、他の国々も日本の二院制とは大きく異なる。

 もともと貴族院という言葉が使われているのでわかるごとくローマの元老院を起源とする上院は、選出される人たちが庶民とは異なるという建付けになっている。英国では一般国民の選挙対象でもない。フランスでは上院議員は間接選挙でえらばれる。

 日本でも参議院は「良識の府」と言われた時期もあったが、今は「党利党略」による「衆愚政治」の場になっている感は否めない。ざるを2枚重ねても水は掬えない。各国の制度は衆愚政治への戒めを基礎にしたものになっているのではなかろうか。

(2022年6月26日 日曜日)