リセッション入りする米国経済・世界経済(その2)

昨日に続いて最近のUSA TodayとNew York Timesの3つの記事を取り上げます。

記事名 (掲載日)
記事概要
【私のコメント】 という体裁です。

Realtors again cut o7 forcast for home sales, prices (USA Today, September 11, 2007)
記事:
全米不動産業協会は2007年の中古住宅の販売見込みを更に引き下げた。2006年の6.5百万戸から8.6%減少し、2007年は5.92百万戸の販売見込み。この数字は2002年の5.6百万戸に次ぐ低い数字。2008年は6.3百万戸の販売を見込む。
中古住宅の一戸あたりの平均価格は218200ドルで前年比1.7%の値下がり(前月の1.2%減少見込みから更に下方修正)
新築住宅の一戸あたりの平均価格は241100ドルで前年比2.2%の値下がり見込み。
住宅販売は今年は思わぬ大打撃を受けている。一つは3月に明らかになったサブプライム問題。もう一つは、417000ドルを上回るJumbo Loanについて借り手と貸し手が慎重になってきていることによる。Jumbo LoanはFannieMae, FreddieMacが引き受けない。従来これを引き受けていた投資家が慎重になってきている。
【コメント】
米国の不動産業者のセンチメントが従来の様子見から悲観的になってきていることがわかります。住宅価格の平均は20 万ドル台前半ですが、住宅価格の上昇により、公的住宅公社が引き受けないJumboな住宅ローンが増えてきていました。Jumboが証券化され売れているうちは良かった。今はここを引き受ける投資家がおらず、ローンの取り組みがしにくい状況です。米国の金融機関は日本の銀行のように資産を自分で持つことはしません。ローンを取り組む際の手数料を取って、資産は売却してROA(資産収益率)を高めなければならない。ローン資産が売却できないと、借入人が返済できず、住宅価格が下落すればどうなるか。何回か書いたように、米国の住宅ローンの規模は6兆から10兆ドルといわれ巨額です。日本の90年代の再来を危惧します。

Housing costs punish famiky budgets (USA Today, September 12,2007)
記事:
全米平均では、住宅ローンを借りて住宅を保有している家計の37%が税金支払前収入の30%以上をロ-ンのために支出している。住宅のために30%以上を支出している割合は低所得の家計ほど高く、収入が20000ドル以下では97%、~35000ドル未満で79%、~50000ドル未満で56%になっている。住宅価格の高騰が始まる前の2000年には、収入の30%以上を住宅につぎ込んでいる家計は27%であった。
住宅価格の高騰は全米で大きな問題になってきている。全米の都市圏を「収入の30%以上を住宅につぎ込む家計の大きい比率」で並べると、マイアミ・フォートローダーレール55%、リバーサイド54%、以下カリフォルニアの諸都市がずらっと並ぶ。「50%以上をつぎ込む家計の比率」で並べるとマイアミ・フォートロードデール26%、ロサンゼルス・ロングビーチ24%、以下カリフォルニアの諸都市が20%以上で並ぶ。
【コメント】
米国の普通の家計では住宅を買うことが大変難しくなっていることがわかります。無理して住宅ローンを払っている家計もずいぶん多いのに驚かされます。これらの多くは金利の上昇にあえば支払に耐えられなくなるでしょう。

Credit crisis hits lender in Britain (New York Times, September 14, 2007)
記事:(この記事は15日(土)の日経新聞に載っています)
英国の中央銀行は中堅銀行ノーザンロックに対して緊急融資をすることを決定した。 ノーザンロックは預金でなく、市場性の資金を使って住宅ローン資産を急拡大してきた。
サブプライムローンは少ないものの、資金調達が困難になり、中央銀行に資金支援を求めた。
【コメント】
今のところ、サブプライム向け投資による影響は欧州の金融機関に出ています。欧州の中銀・銀行は動きが速い。物事の深刻さの度合いが欧州に良くわかっている印象です。米国は遅いです。
【総括コメント】
昨日と今日紹介した6つの記事を並べてみると以下がわかります。
1.米国の住宅ローン問題は、サブプライムにとどまらず、シニアローンにも波及する。
2.住宅不況はどのような政策手段をとっても解決できないほど深刻になる恐れある。
3.欧州は火種が小さいうちに消そうと躍起である。
4.米国経済がリセッション入りするのは間違いない。問題は何時からリセッションであることを政府が認めるか。
5.リセッションに金利の上昇が加わり、景気後退から不況の本格化が長引く恐れもある。運用・調達をどうするか、こうした状況を押さえて判断してゆくことが必要。

リセッション入りする米国経済・世界経済(その1)

USA TodayとNew York Timesをしばらく振りにまとめ読みしました。www.usatoday.com www.nytimes.com

日経等の日本のメディアに紹介されていない記事で米国の動きと世界への影響を捉えることが出来そうなものをいくつかご紹介します。
今日は3つの記事を。明日、更に3つの記事を取り上げます。
記事の題名(記載日)
記事の概要
【私のコメント】という体裁です。

Mortgage forclosure set a record (USA Today, September 7,2007)
記事:
Mortgage Bankers Association(MBA)米抵当銀行協会の発表によれば抵当物件の差し押さえが急増し新記録を更新している。
すべての住宅ローンで借入人の5%、約250万人、が前四半期中に毎月の返済の一回以上を遅延した。昨年は借入人の4.5%であった。
問題は7つの州に集中。ミシガン、オハイオ、インディアナは失業が原因であり、カリフォルニア、ネヴァダ、アリゾナは住宅価格の下落による資産の不良化による。
銀行はリスクのある住宅ローンもウォールストリートによる証券化に助けられ貸出ししてきたが、今はこの道は閉ざされた。
住宅ローンに問題を抱える借り手からの電話相談は1-3月は18000件であったが、7-8月は36000件に急増している。
【コメント】
肝心の差し押さえ件数が載っていないのが残念な記事。差し押さえが今は偏在しているが、全米への広がりが懸念される内容。

Largest S&L sees more home price decline (USA Today, Sptember 10, 2007)
記事:
米国の貯蓄貸付組合最大手のワシントン・ミューチュアル(WAMU)のKerry Killinger CEOは、住宅価格の更なる下落を予想し、従来の15-17億ドルの引き当てに5億ドルの追加を行った。
シアトルを本店とするWAMUは昨年従業員の18%にあたる11000人を削減。今年1-6月の住宅ローン部門は1.5億ドルの赤字。
【コメント】
KillingerCEOは業界では敏腕経営者として有名。現在経営危機に瀕しているCountrywideという住宅ローン会社に昨年初めに自社の住宅ローン資産を大量に売却し、人員削減も業界に先駆けて行ってきた。こうした業界の「優良」会社でも赤字であり、引き当てを30%以上増やさないといけない状況は、かなり危機的だと思われる。
1980年台の米国のS&L危機。日本の住専危機を彷彿とさせる。かなり危ない。

Growth in consumer credit slows, but credit card busy (USA Today Sptember 10, 2007)
記事:
6月は年率5.9%伸びた消費者借入は7月は3.7%の伸びにとどまった。
借入金額は6月は119億ドルに対し7月は75億ドルにとどまり、95億ドルという予想を下回った。
これは、主にホームエクイティーローンが調達しにくくなっていることによる。が、7月末の消費者借入は過去最高の2.4兆ドル。
構成を見るとクレジットカードなどのリボルビング物が6.6%伸びたのに対し、自動車ローンなどの非リボルビング物は1.9%の伸びにとどまる。
【コメント】
米国の家計は総体としてかなり傷んでいるのではなかろうか。日本と統計の取り方が違うから単純な比較が出来ないが、米国の消費者借入は260兆円程度。(これはモーゲージ(抵当権を設定した住宅ローン)は含まない数字) 日本の大手消費者金融5社の貸出し残高が約6兆円だから、桁違いの多さである。(日本の自動車ローンや信販、クレジットカード借入をすべて計算しても数十兆円の規模ではなかろうか)
しかも、クレジットカードでしのいでいる割合が増加しているというのは、日本で言えば、家計の消費者金融依存度が高まっているということであり危険な兆候である。

米国景気の減速 8月雇用統計の意味するもの

米国労働省が9月7日(金)に発表した8月の雇用統計によると、非農業部門の雇用者数が前月に比べて4000人減少しました。(9月8日(土)の日経一面に記事が載っています)

この発表は二つの意味で「米国の景気後退を示すもの」と米国では受け止められています。
1つ目は、雇用者数の減少が4年振りであること
2つ目は、事前の予想が110千人の増加であったこと

New York Timesの9月7日版の記事を読むと ( www.nytimes.com で簡単に読めます。無料で読める米国の経済記事では一番充実していると思います) 「リセッションのリスクが高まった」という内容になってます。
同日版を見ると、サブプライムローンの大手であるCountrywide Financialが60000人の従業員のうち5分の1の12000人をレイオフするという記事がのっており、金融セクターでのレイオフが本格化する9月の雇用統計は更なる悪化が予想されます。

今後発表される米国の経済指標等で、個人的にもっとも注目すべきは大手投資銀行・証券会社の業績発表です。9月19日にはモルガンスタンレー(http://www.morganstanley.co.jp/ http://www.morganstanley.com/ )、9月20日にはゴールドマンサックス( http://www2.goldmansachs.com/による第3四半期の業績発表が予定されています。大きな打撃を受けたとうわさされているベアースターンズ( http://www.bearstearns.com/)も9月中旬に業績発表するはずです。

サブプライムローンの証券化、ヘッジファンドへのレバレッジの供給とファンドの運用、PEファンドの運用とデットの供与、デリバティブスを使った商品化と運用、といった米国大手投資銀行が自家薬籠中のものとし、収益源としてきたビジネスがどれほど影響を受けているかがはっきりわかるからです。

年金問題の一側面

社会保険庁が係る「わからない」年金問題に加え企業年金連合会の「未払い」の年金問題が出てきた。年金問題について少し違う観点から所感を述べてみたい。

1.年金手帳のありかなど知らない多くの日本人 vs 誰もが年金番号を知っているアメリカ人
今回の一連の年金の問題が起きるまでは、多くの日本人は年金手帳の所在すら気にしたことがなかったのではないかと思われる。
日本以上に何事もいい加減な米国では、国民の99.9%が自分の年金番号を覚えていると言ったら驚かれるだろうか。米国の政府管掌年金・社会保険に相当するのがSocial Security Systemであり、この番号は米国民の誰もが覚えている。というのも、この番号、Social Security Numberは自分の身分を証明する番号として広く使用されている。この番号が無いと米国では人間扱いされないから、収入の無い留学生でも番号を取得する。この番号は一生ついて回る。米国の雇用者はどの番号にいくらSocial Security Taxを払い込んだかSocial Security Officeに報告する。40四半期以上Social Security Taxを払い込んだ人は、年金の受給資格があり、(現在は40・四半期に満たない人も納付期間に応じて受給できるそうである)、近所のScoial Security Officeに確認すれば自分の年金が何時からいくら出るか確認できる。

2.いくら年金のための税金や掛け金を払い込んだか知らない日本人 vs 知っているアメリカ人
日本で所得税の申告を自分でするのは確定申告が必要な場合だけである。これに対し、米国人は全員が自分で所得税の申告をする。だから自分でいくら税金を払いいくら年金に積み立てたかを毎年把握することになる。

 日本の年金問題で、年金を受ける人から「申告」をベースにしている点を改善すべきとの議論があるが、それは間違いだと思う。
・自分が払い込んだ年金を自覚すること(自助努力)
・自分の年金がすぐに確認できる番号を制度化すること (雇用者・勤労者・社会保険事務所、すべてにとって番号化が便利で望ましいと思われ、デメリットは何も無いと思われる)(制度化が必要)
・番号をもとにいつでも年金の現状が確認できること(現状でほぼOK)
ということではないだろうか。