世界の動き 2025年9月4日 木曜日

今日の一言
「9月のアノマリー」
 レイバーデイが終わり、米国市場では夏休みを終えたトレーダーが市場に戻って来る時期だ。
 ただ歴史的に見て9月の株式市場はとても弱い。各月別の特異な動き(アノマリー)を見てみよう。
 9月相場は「歴史的に最も弱い月」と呼ばれているのだ。1928年以降の統計では、S&P500の9月平均リターンは1.1%の下げ、上昇確率は44%。直近50年でも唯一マイナス平均となる月で、直近25年で見ても最弱の月だ。特に9月後半にかけて下落が加速する傾向があり、投資家にとって注意が必要だ。
 米国だけでなく日本でも同様の傾向はありそうだ。3月期決算企業にとって中間決算の月であり、企業だけでなく、自身も中間決算を控えた機関投資家の大規模な売りがお彼岸の頃に最も集中しやすく、いわゆる「彼岸底」となりやすい傾向にあるようだ。
 もっとも、米国では、9月の下落はその後の反発に繋がるケースが多いのは安心材料だ。10月は平均的にプラスに転じ、11月は過去50年で最も強い月(平均+2.12%)です。つまり、9月は短期的に厳しい局面が想定される一方で、中長期投資家にとっては「押し目買いの好機」となる可能性がある。

ニューヨークタイムズ電子版より
1.中国の力の誇示
【記事要旨】
 北京で行われた大規模軍事パレードでは、中国が最新兵器(船舶を沈没させる極超音速ミサイルや、米国本土を攻撃可能な核弾頭搭載可能な弾道ミサイル、輸送機から投下可能な新型装甲地上車両や長距離ロケットランチャー、無人機や無人潜水艇の列等)は、中国が対米戦力、台湾統一、ドローン戦へと力を入れていることを示している。を公開し、西側諸国に対する軍事的台頭を誇示した。習近平国家主席はプーチン大統領や金正恩委員長らとともに式典を主導し、台湾や米国への脅威となる兵器も披露された。
 周辺では習近平とプーチンの雑談(臓器移植など、寿命と統治期間を延ばす可能性のある事柄について雑談を交わし「今世紀には、人類は150歳まで生きられるようになるかもしれない」と習近平主席は述べた)、プーチンの「リムジン外交」、金正恩の娘ジュエの同行などが注目を集めた。
 一方、トランプ大統領は式典で米国の第二次大戦での貢献が無視されたとして反発し、習近平・プーチン・金正恩の三者が米国に対抗していると非難した。
【コメント】
 同じ80年式典でも、終戦に粛然とする日本と、世界に自身の正当性を声高に訴える中国の違いがすさまじい。

2.反抗行為
【記事要旨】
 重慶で活動家の斉宏Qi Hong氏が、ビルに共産党支配の終焉や自由を求めるスローガン(「共産党なしでのみ、新しい中国はあり得る」「嘘はもうたくさん。真実を求める。奴隷制度はもうたくさん。自由を求める。」)をプロジェクションで映し出す抗議行動を行った。彼は監視カメラや映像を逆に利用し、警察の対応や家族への尋問の様子を公開することで、中国の強固な監視体制を嘲笑した。実際には彼は既に英国へ出国しており、遠隔操作で警察の行動を記録していた。
 この行為は、厳しい統制下でも反抗の精神が存在することを示し、同時に政府の監視技術が抵抗の手段にもなり得ることを明らかにした。
【コメント】
 Qi Hong氏のコメントだ。「党は私たちを監視するため監視カメラを設置しています。私も同じ方法で彼らを監視できると思いました」

その他の記事
ポルトガル:リスボンでケーブルカーが脱線・衝突し、少なくとも15人が死亡、18人が負傷した。
ベネズエラ:米国防長官は、当局が麻薬を積んでいたとしている船舶への軍事攻撃は、麻薬カルテルに対するより広範な作戦の始まりだと述べた。
米国:フロリダ州は、学童を含むすべてのワクチン接種義務を廃止する最初の州となる予定だ。

日本:福島原発のメルトダウン事故後の調査で、数百件の甲状腺腫瘍が見つかった。複数の患者が運営会社を提訴している。
【この報道は日本国内であったのだろうか】

2025年9月4日 木曜日

世界の動き 2025年9月3日 水曜日

今日の一言
「トップ経営者の突然の辞任」
 一昨日はネスレ、昨日はサントリーのCEOが突然辞任した(解任された)ニュースで驚かされた。二つの事件の概要と、どうすれば防ぐことが出来たかを考えたい。
 ネスレの事例:倫理規範違反によるCEO解任
 2025年9月、ネスレはCEOローラン・フレイシェ氏を、部下との未申告の関係が企業倫理規範に違反したとして解任しました。これは、従業員からの内部通報を受けて外部調査が行われた結果です。同社は1年以内に2人のCEOが交代する異例の事態となり、投資家からの信頼低下や株価下落を招きました。(ロイター)
 サントリーの事例:法的問題によるCEO辞任
 同じく2025年9月、サントリーホールディングスのCEOである新浪剛史氏が、違法性が疑われるサプリメントの購入に関する警察の調査を受け、辞任しました。新浪氏は違法性を否定しましたが、企業の透明性と信頼性を重視し、自ら辞任を選択しました。(東洋経済)
 私は社外監査役を務めているが、もし自分が当該社の監査役だったとしたらこのような事件を防げただろうか。
 まず、以下の点への注意が必要だ。
 • トップの私生活・行動規範違反や倫理的リスク
 社内規範や行動基準に違反する可能性(例えば部下との未申告な恋愛関係、法令違反につながる私的行動など)がSNS等で拡散し、重大なガバナンスリスクとなり得る点。
• 企業の文化・ガバナンスへの社会的批判の高まり
 トップの行動に関する情報が外部へ漏れた際、社会やメディアが逸早く企業ガバナンスや経営陣の倫理観を批判・拡散する傾向。
• 違法性の可能性がある事案への即時対応力
 法令違反(違法サプリ疑惑等)やコンプライアンス違反が発覚した場合、会社として速やかに調査・辞任勧告・危機対策を打てる体制が求められる。
• トップの交際関係・プライベートが職務に影響を与えることへの備え。
 プライベートな行動が職務や組織運営に直結する時代になり、監査役も広い視野と多様な情報ルートを持つことが重要だと思われる。
 監査役への実務的示唆は以下だ。
• 公式な通報経路だけでなく、社内外の情報に敏感になる
• トップの行動や関係性について、組織内規範や利益相反への視点を徹底
• コンプライアンス・ガバナンス規程の運用状況の定期点検
• 外部批判・社会動向・メディア報道等を含めた危機シナリオ想定を重視
 組織の信頼維持のため、監査役は「新たな兆候や情報の拡散」にもより敏感かつ迅速に対応すべきご時世なのだ。

ニューヨークタイムズ電子版より
地獄のような地下鉄駅がウクライナ戦争を語る
【記事要旨】
 モスクワで開催された大規模フェスティバルの一部には、汚れたニューヨーク地下鉄と豪華なモスクワ地下鉄を対比させる展示があり、ロシア当局はこれを通じて「ロシアは西側より豊かで秩序ある社会である」とアピールしている。これは国民の目をウクライナ戦争から逸らすだけでなく、ロシアの回復力を示し、西側の衰退や混乱を強調する広報戦略の一環である。
 実際、西側諸国では政治的混乱が目立ち、民主主義への信頼も揺らいでいる。その一方で、非西側諸国の多くはロシアに肯定的な見方を持ち、ロシアは中国やインドなどの支援を得て制裁に対抗している。結果として、アメリカや西側の影響力は低下し、プーチン大統領は国際舞台で存在感を示す一方、国内では高い生活満足度が記録されている。
 この状況は、ウクライナ戦争の停戦交渉が難航している背景とも関係しており、ロシアが「戦い続けられる」という物語を国内外に発信することに成功している。
【コメント】
 この大規模フェスティバルが何か、調べたがわからなかった。Trip Advisorで調べると、数多くの大規模イベントがモスクワで行われている。そのことに驚かされた。

その他の記事
中国:同国は本日、ミサイル、兵士、そして北朝鮮の金正恩氏やロシアのウラジーミル・プーチン氏といった指導者らによるパレードで、第二次世界大戦における日本の敗戦を記念する。
米国:判事は、トランプ政権によるロサンゼルスへの軍派遣は違法だとの判決を下した。司法省は控訴する見込みだ。
災害:アフガニスタンの地震による死者数は少なくとも1,400人に上った。スーダンでは、ダルフール地方で発生した地滑りで数百人の村人が死亡した。

イスラエル:ベンヤミン・ネタニヤフ首相がガザ紛争終結に向けた包括的合意を主張していることをめぐり、政治指導部と軍指導部の間で亀裂が生じている。

2025年9月3日 水曜日

世界の動き 2025年9月2日 火曜日

今日の言葉
「天候デリバティブ」
 9月になっても暑い日が続いている。天候が自社のビジネスに不都合な状況になるのをヘッジする手段に天候デリバティブがある。
 気温などの天候指標の変動による売上などの損失を金融商品でヘッジする仕組みだ。
 例えば、アイスクリーム製造業者が冷夏(気温が低く売上が落ちるリスク)をヘッジするデリバティブ契約の場合、「一定の気温より低い期間(例:35度未満の日数)」が続くほど補償金を受け取れる設計になる。製造業者はヘッジのための手数料を払う。
具体例
• 契約で「夏の平均気温が○度未満の場合、1度下回るごとに○万円支払う」というようなスキームを設ける。
• 実際に冷夏となり、気温が契約値を大きく下回れば補償金が増え、損失が軽減される。
 35度以上の高温が続く場合の損益はどうなるか。
• 設例のヘッジは「冷夏」=低温リスクに対して設計されているため、猛暑で35度以上の高温が続くと、デリバティブ契約の支払い条件に該当しない(補償金を受け取れない)状態になる。
• この場合は、アイスクリームの需要が増えて売上が伸びるため、ヘッジは発動しない。デリバティブによる損益はゼロ(または手数料分だけマイナス)となる。
 猛暑で、ビールやアイスクリームのデリバティブは不発だったはずだ。前年比の売り上げ発表はどうなるだろうか。

ニューヨークタイムズ電子版より
1.アフガニスタンの地震で数百人が死亡
【記事要旨】
 昨日、アフガニスタン東部で発生したマグニチュード6.0の地震で、800人以上が死亡、2,500人が負傷した。孤立した山岳地帯への緊急救援活動が開始されたが、死者数はさらに増加する可能性がある。
 村々を孤立させた土砂崩れにより、復旧作業は困難を極めており、タリバン政権への救援を申し出たのは、イラン、インド、日本、EUなど、ごく少数の国にとどまった。
 被害の大部分はパキスタンと国境を接するクナール州で発生しましたが、病院は機能していると、国際赤十字・赤新月社連盟(IFRC)は述べている。
 人道危機:アフガニスタンは、複数の危機に直面する中で、この地震に見舞われた。国連によると、アフガニスタンの人口4,200万人の半数以上が援助を必要としているが、資金の枯渇と隣国パキスタンとイランから200万人以上のアフガニスタン人が帰還する中で、厳しい冬への備えを迫られている。
【コメント】
 タリバンは2021年8月15日にアフガニスタン全土の実権を握り、現在もアフガニスタンを統治していますが、国連を含むどの国からも正式には承認されていません。タリバン政権下では、女性に対する教育や就労の権利が大きく制限され、人権状況が悪化しています。また、経済危機、食料不足、テロの脅威が続き、国際社会はアフガニスタンがテロの温床となることを懸念しています。(アフガンの現状)

2.ブラジル民主主義の試練
【記事要旨】
 ジャイル・ボルソナーロ前大統領は本日、2022年の選挙で敗北した後、クーデターを企てた罪で裁判にかけられる。有罪判決を受ければ、数十年にわたる懲役刑に処される可能性がある。
 自宅軟禁中のボルソナーロ大統領は、逃亡の恐れから、ブラジリアの自宅を私服警官が厳重に監視している。足首に監視装置を装着しているボルソナーロ大統領は、容疑を否認している。
 わずか40年前に独裁政権から脱却したブラジルは、米国が成し遂げられなかったことを成し遂げることになる。選挙で敗北した後も権力にしがみつこうとした元大統領を、刑事告発によって裁判にかけるというのだ。
 しかし、ブラジルが裁判を確保するために取った方法――並外れた権限を持つ最高裁判所を通して――は、ブラジルが守ろうとした民主主義に関する厄介な疑問を、ブラジルに突きつけることになった。
 詳細:ブラジル最高裁判所での裁判は2週間続くと予想されており、捜査官が約2年かけて収集した証拠が審理される。これには、司法取引の一環として自白したボルソナロ大統領の個人秘書の重要な証言も含まれる。
【コメント】
 トランプ政権は、ボルソナロ前大統領が政治的迫害を受けていると反発し、ブラジルからの輸入品に高い関税を課す方針を示しているほか、前大統領の裁判を担当する最高裁のモラエス判事ら裁判官とその家族に対し、アメリカのビザを取り消す制裁措置をとるなど圧力を強めています。(NHKの8月5日ニュース)

3.習主席、プーチン大統領、モディ首相が結束を示唆
【記事要旨】
 中国、ロシア、インドの首脳は昨日、中国・天津で行われた首脳会議で、まるで親友のように互いに挨拶を交わし、笑い合った。
 習近平国家主席は演説で米国をあからさまに批判し、「冷戦的思考、ブロック対立、そして威圧」に反対するよう各国首脳に促した。ロシアのプーチン大統領は、ウクライナ戦争の責任を西側諸国に押し付けた。また、モディ首相は「多国間主義と包摂的な世界秩序の推進」、つまりインドのような国々が世界情勢においてより大きな発言権を持つ体制の推進について語った。ロシア国営メディアによると、モディ首相とプーチン大統領はその後、プーチン大統領の車内で50分間会談を行った。
【コメント】
 トランプへの対抗軸が目に見える形で現れた。世界人口のトップ2,核兵器のトップ1が、対米でスクラムを組んでいるように見える。どうするトランプ。

その他の記事
ガザ:イスラエルが停戦交渉の方針を転換し、ガザ市への新たな攻撃を計画していることから、戦闘はすぐに終結する可能性は低い。
ロシア:ブルガリア当局は、EU(欧州連合)のウルズラ・フォン・デア・ライエン議長を乗せた航空機へのGPS妨害はロシアの仕業だと考えている。
オーストラリア:極右の反移民デモが政府当局を不安にさせている。

韓国:18ヶ月に及ぶストライキの後、医師たちが職場復帰を始めた。
ビジネス:世界最大の食品会社ネスレは、部下との非公開の関係を理由にCEOを解任したと発表した。

2025年9月2日 火曜日

世界の動き 2025年9月1日 月曜日

今日の言葉
「ホームタウン」
和製英語の欠陥が露呈した例だ。英語でhometownと言えば、出身地や生まれ育った土地を意味する。Brice Springsteen の名曲 My Hometown を思い出す人も多いだろう。日本語で言う「ふるさと」に近い、やや郷愁を伴う言葉だ。
日本政府は、4つの都市をアフリカ諸国との「ホームタウン」に指名した。アフリカから移民が押し掛けることを危惧し、市への非難の電話が殺到している報道があった。
この報道で思うのは、多くの日本人の狭量さと、「ホームタウン」という言葉を無意識に使う政府の無神経さだ。
「友好都市」 a frendship city というべきだったと思う。和製英語の乱用には注意したい。

ニューヨークタイムズ電子版より
トランプ大統領はアメリカの友好国を遠ざけている。中国は彼らを味方につけることができるだろうか?
【記事要旨】
中国で開催された上海協力機構サミットには過去最多の首脳が集まり、インドのモディ首相やロシアのプーチン大統領に加え、アメリカの友好国であるトルコやエジプトの首脳も出席した。
中国は「アメリカはもはや主導権を握っていない」と示すため、非西側諸国を取り込もうとしている。
トランプ政権の関税政策や同盟軽視が、習近平国家主席に米国の友好国を引き寄せる機会を与えている。
トランプ氏のインド・ロシアへの対応(モディ首相には関税、プーチン大統領には厚遇)は結果的に中国を利する形になっている。
中国は「安定」を提供できる国としてのイメージを強調しつつも、西側の価値観(民主主義・人権)を共有できるパートナーではない。
サミット後の軍事パレードでは、第二次世界大戦における中国の役割を誇示し、軍事力と歴史を使って領土主張や国際的地位の強化を目指すメッセージを国内外に発信している。
【コメント】
日本が降伏した相手は国民党政権であり共産党政権ではなかった、というのは日本の繰り言だろうか。

その他の記事
インドネシア:プラボウォ・スビアント大統領は、抗議活動参加者の要求を受け、議員への手当を削減すると発表した。暴徒たちは昨日、財務大臣の自宅を含む議員や政府関係者の自宅を破壊した。
ガザ:イスラエルは、ガザ市への攻撃でハマス武装組織の報道官アブ・オベイダを殺害したと発表した。オベイダはアラブ世界で最も著名なハマス代表の一人だった。タイムズ紙の映像分析は、イスラエルがハーンユニスの病院を攻撃した理由と矛盾する内容だった。少なくとも20人が死亡し、救急隊員やジャーナリストも含まれていた。
米国:トランプ政権は、ガザ地区外からの参加者を含むパレスチナ人への訪問ビザの発給を停止した。

2025年9月1日 月曜日
今日から9月。「長月」は、夜長月とか稲長月が語源だと言われる。

日本の低失業率は良いことか?

日本の低失業率は、労働市場の構造・社会慣行・文化的要因が複雑に作用している。いろいろな要因を整理してみよう。
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1. 労働市場の流動性の低さ
• 欧米:失業率は「雇用の出入りの激しさ」の表れ。解雇しやすい反面、再就職もしやすい。
• 日本:長期雇用慣行(終身雇用)と解雇規制により、労働移動が少ない。
→ 企業は簡単に解雇しないので「失業者」として表に出にくい。
• その代わりに「賃金抑制」や「非正規化」で調整するため、失業率が低めに出る。
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2. 低賃金でも職にとどまる傾向
• 「失業状態」よりも「不本意な低賃金・非正規雇用」に甘んじる人が多い。
• 生活保護の利用が少なく、セーフティーネットへの心理的ハードルが高い。
• 失業率統計上は「雇用されている人」にカウントされるため、表面的に失業率は低く出る。
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3. 労働組合の弱体化
• 戦後すぐは強かった労組も、70年代以降は組織率が低下(現在は約16%)。
• 労働者の権利擁護よりも「雇用の維持」を優先する傾向が強まり、賃上げ要求力が弱い。
• 結果、企業は「雇用を守るが賃金は上げない」バランスを取りやすく、失業率は低く抑えられる。
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4. 社会的・文化的要因
• 「職を失う」ことへのスティグマ(社会的烙印)が強い。
• 家族や地域共同体の中で「仕事をしていること」が強い同調圧力になる。
• そのため、労働者自身も低賃金や非正規職を受け入れやすい。
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5. 統計の仕組み
• 総務省「労働力調査」では「就業者=1週間に1時間でも仕事をした人」と定義。
• 非正規・短時間労働者も含まれるため、実態以上に失業率が低く出る。
• 代わりに「不完全就業率(希望する労働時間を得られない人の割合)」でみると、日本は欧米と差が縮まる。
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まとめると、日本の低失業率は
• 労働市場の流動性の低さ
• 低賃金や不本意就業を受け入れる社会的要因
• 労働組合の弱体化による雇用調整バイアス
• 統計上のカウント方法
などが重なって生じていると言える。
 つまり「失業率が低い=雇用が健全」とは限らず、実質的には「低失業率・低賃金・非正規拡大」というトリオでバランスが取られているのが日本の特徴である。つまり、日本の失業率が米国やEUに比べて恒常的に低いのは、日本の経済が彼らより健全だからだ、とはとても言えない状況だ。
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 さらに言えば、低失業率の副作用というべき状況がうかがえる。日本の「低失業率」自体は一見すると健全に見えるが、その裏側には 企業経営のリスク回避姿勢や構造的な硬直性が潜んでおり、ご指摘の「内部留保の蓄積」「イノベーション不足」ともつながっていると言える。整理すると以下のようになる。
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日本の「低失業率」の副作用と企業行動への影響
1. 雇用維持が最優先になりやすい
• 日本企業は「従業員の雇用を守る」ことを社会的責任として重視。
• 解雇を避けるため、不況時には 賃金抑制や新規投資削減 でしのぐ。
• その結果、内部留保は積み上がるが、成長投資には回りにくい。
 リスクをとって新事業に挑戦するより、雇用維持を優先する構造。
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2. 労働市場の硬直性が競争力低下を招く
• 解雇しづらく、流動性が低いため、人材の新陳代謝が進まない。
• 不採算事業の人員を削減できないので、成長分野にリソースを移せない。
• 企業は「余剰人員を抱えるリスク」を恐れ、むしろ投資を控える。
  人材の流動性が低いと、企業も大胆な投資に踏み切れない。
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3. 内部留保の積み上げと投資不足
• 企業は不測の事態(円高・不況・災害など)に備え「現金・預金」を厚く保持。
• OECD統計でも、日本企業の現預金比率は主要国で突出して高い。
• この「守りの財務姿勢」が、研究開発投資やM&Aなどのリスクマネーを抑制。
  「リスクを取るより貯め込む」経営行動が固定化。
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4. 低賃金・非正規拡大が需要不足を招く
• 失業率は低いが、実質賃金は伸びず、可処分所得も伸びない。
• 企業は賃上げに消極的 → 家計消費は伸びず、需要不足 → 投資インセンティブも低下。
• 結果的に「低失業率・低賃金・低成長」が定常化。
  賃金抑制が国内市場の縮小を招き、さらに投資が減る悪循環。
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5. 世界競争における遅れ
• 米国や欧州の企業は「リストラ+新事業投資」で産業構造を更新。
• 日本企業は「現状維持+内部留保」で競争力強化が遅れがち。
• 例:デジタル産業・EV・バイオ分野で、欧米中に比べ劣後。
 低失業率を維持する社会的圧力が、逆に産業の新陳代謝を妨げている。
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  こうして分析してくると以下のように要約できそうだ。
• 日本の「低失業率」は、企業と労働者の双方が「雇用維持」に強く依存した結果。
• しかしその副作用として
    内部留保の過剰蓄積
    イノベーション不足
    産業転換の遅れ
が進んでしまった。

 つまり、低失業率は一種の「安定の罠」であり、短期的には安心だが、長期的には世界的競争力の低下を招く構造的要因になっているのだ。

 さて、日本の低失業率の副作用を解消するにはどうすればよいのだろうか。外的要因で変化せざるを得なくなりそうだ。トランプ関税、AIの飛躍的な発展でホワイトカラーの職業の多くが不要になること、日本の労働力不足解消のための外国人労働者の流入といった要因で、労働市場は大きく変動しそうだ。内的要因はどうだろうか。日本人がリスクを取ってジョブホッピングをするような心持になるだろうか。中学生に「将来なりたい職業は」と聞くと、会社員や公務員が上位に来るそうだ。外的要因を先取りして、自らが自分の道を切り開いて行ける個人が確立すると良いのだが、どうなるだろうか。

2025年8月31日 日曜日