解雇すること・されること(2)

前回、解雇するのはつらい仕事だということを書いた。しかし、解雇されるのはもっとつらい。

私は銀行に勤務した後何度か転職をしているが、明確に解雇されたことは幸いなことに無かった。
ただ、自分がもう期待されていない、あるいは、自分が出来ると思う仕事につけてもらえない、ということは、はっきり言われなくても空気を読める大人であればだれでもわかるものだ。

そこでうじうじしても始まらない。
自分の能力(実は自分が自分のことは一番わからないので、客観的に自己評価することが絶対に必要だ。親しい友人を話してみるのも良い)を十全に果たせていないと感じたら、転職を考えるべき時期だ。

ただし、隣の芝生はいつも青く見えるから、Job hoppingはお勧めできない。給料は良くても人間関係がとげとげしい職場は論外だ。会社の社風というのもあまりあてにならない。接するチームのメンバーの考え方・仕事への取り組み方、チームワークが最も大事だ。(これも会社に入ってみないとなかなかわかりませんがね。)

自分に人的ネットワークや資金力があれば自分で会社を始めるのが一番気楽だろう。但し、個人企業であれば大きくなるには限度がある。会社を大きくすれば、経営者としての苦労が大きくなり、勤め人の気安さになれた人にはお勧めできない。

2010年のアメリカ映画The Company Menは歴史ある造船会社を舞台に、業績悪化による人員整理を扱った映画だ。
Ben Affleck, Kevin Costner, Tommy Lee Jonesという芸達者がそれぞれが置かれたポジションでの苦悩と努力を表現している。アメリカ映画らしく最後は全体としてはHappy Endになるが、行員からたたき上げで部長になった人が職が見つからず自殺したり、解雇に直面した心のひだが描かれている。

困難な時に支えてくれる家族(先ほどの部長は理解のない家族に支えられず自殺した)や心を許せる友人のありがたさを思い起させる秀作だ。

(2020.6.30)

解雇すること・されること(1)

ダイヤモンド・プリンセスを運営するカーニバル社の日本法人であるカーニバル・ジャパンが70人の正規社員のうち24人を解雇する通知を出したと報道されている。
解雇される社員の一部はユニオンを結成し対抗するらしい。

コロナ禍による業績不振で致し方のない解雇と思われる。
アメリカでの経験ではPosition closedというのが(解雇する側にもされる側にも)最もまっとうな解雇であった。
朝言われて夕方までに荷物をボックス一つに整理して退社する。ニュースや映画で良く見ますよね。

例えばコンサルティング業界では「給料の最低3倍稼げ」というのが最低限の目標だ。為替のディーラーなら「最低5倍」とか高給になるほどバーが高くなる。間接部門であれば自分が組織に持たらす価値はいくらか公平な目で自己評価するのだ。

自分の稼ぎ・価値より報酬が低ければ転職を考えるほうが良いかもしれないし、万一、解雇されそうなら、転職の用意を怠りなくするべきだ。もちろん、報酬は仕事の一面であり、チームの人間関係が報酬に優先するという考え方もある。

さて、解雇する側に回るのは楽しい仕事ではないが、解雇の対象者が常に自己評価をして自分の競争力を磨いている人だと気が楽だ。こういう人は転職が容易で、解雇前より良いポジションにつくことも多いからだ。(この項、つづく)

(2020.6.29)

目詰まりを防ぐには(2)

「一利を興すは一害を除くに如かず。一事を生かすは一事を省くに如かず」(利益となる事を一つ始めるよりは、従来からの害になることを一つ除いた方がよい)

この言葉は大平正芳元首相の言葉とばかり思っていた。彼が座右の銘としていたからだ。
今日、調べて見ると、チンギス・ハーンのブレーンであった耶律楚材の言葉だということが分かった。

さて、現在はコロナ不況もあり採用が容易だ。
滞留して遅れがちな業務、手付かずだった新規業務、等々を解決するために人員を増員する企業が多い。一利を起こすにはまず人材からという考えだ。

新規に人を採用する際にはその人のもたらすROIを検証し(フロント以外はROIの計算ができないというのは言い訳だ)基準を満たさない人材は決して採用すべきではない。

業務については、Eliminate, Automate and Delegate Tasksという方針を確立したい。要らない業務は減らし、なるべく自動化し、しかる後に業務を委譲する。
「一事を省くに如かず」CEOにとって重要な心構えだ。

(2020.6.28)

目詰まりを防ぐには(1)

日本のPCR検査数が増えない理由を安倍首相は記者会見で「目詰まりしていた」と言っていた。

保健所が中心となったコロナの防疫体制では、
・問い合わせが集中して保健所に連絡が取れない。
・37.5度以上の発熱が4日つづかないとまともに対応してもらえない。
・保健所で検査する能力が乏しい。
・保健所から採取した検体を検査機関に破棄部人員が不足している。
・保健所から区・都への連絡が悪い。
・文書の転記に誤りが起こる。
といったいろいろな欠陥が挙げられてきた。これらが目詰まりを起こした原因だろう。

欠陥解消のために保健所の人員数を抜本的に拡大すべしという議論がなされていたが、誤った対応だ。
その後目詰まりがどう解消してきているのかTV報道もほとんどないのでわからない。

卑近な例だが、我が家の2台の洗濯機を例にあげよう。
東京の家ではPANASONICのドラム式を使用している。
湿気を吸収するタイプだという説明であまりしっかりと乾かない。しかも、乾燥するたびに綿埃がたまり「埃を除去してください」というサインがでる。
那須の家では東芝のドラム式を使用している。
温風を噴き出して乾かすタイプだとかでしっかり乾く。生地が縮むきらいがあるが乾くほうが重要だ。
さらに、
この洗濯機には綿埃がたまる機構がない。
従って綿埃はたまりようがない。

我々が目指すべきは、目詰まりを防ぐために人海戦術で対応するのではなく、目詰まりしないシステムを作り上げることなのだ。(この項続く)

(2020.6,27)

Nobody does it better!

レンタカー大手のHertzがChapter 11(日本の民事再生法に相当)を5月22日に申請し(日本流に言うと)倒産した。

私が昔UCLAのビジネススクールに留学していたころ(1978-1980)当時アメリカンフットボールのスーパースターだったOJ Simpsonをコマーシャルに起用し、業界No.1のブランドを確立していた。空港につくとHertzの駐車場との間をひっきりなしに専用のバスが結び、駐車場では待たないですぐに車を借りることが出来るサービスはHertzが確立した。
私が貧乏学生の時はなかなかHertzでレンタカーは出来ず(値段が若干高かったので)、BudgetとかThriftyとかいう2nd tierでレンタカーをしたものだ。

Nobody does it better.というのはその背景に流れていた曲で、1980年ごろ中学生以上のアメリカ人であればほぼ100%の人が知っていることだろう。

Wikipediaで調べていくつか驚いたことが有る。
・Hertzは1918年の創業で最初は10数台のT型フォードから事業を始めたこと。T型フォードの時代からレンタカーは米国にはあったのだ。
・2012年にはDollarとThriftyという会社を吸収して業界大手の地位を確立した。これらがHertz傘下とは全く知らなかった。
(因みに私が愛用したBudgetはやはり業界大手のAvisに買収されていた。)
・このように規模の競争が進んだ業界だったがコロナ禍でレンタカー需要が激減し、倒産に至った。

規模を拡大し、コストを下げ、ブランドイメージを高め他社より若干高めの価格設定をし、より良いサービスを提供し顧客満足度を高める。これは優良企業の定石だ。

このように定石通りの事業展開をしていても倒産することはあるというのが今回のコロナ禍がもたらす痛手だ。

エアーラインや旅行業界に比べ話題にならないが、我が国のレンタカー会社はサバイブできるのだろうか。

(2020.6.26)