休暇は要らない?

 ベガバンクのニューヨーク支店で内部監査の責任者として8人のアメリカ人の部下を率いた経験がある。全員が、年2週間の特別休暇は取得し、最低20日以上の有給休暇はすべて消化したうえに、病気欠勤も年数回取得する、という人たちの集まりだった。支店全体では300人ほどのアメリカ人が働いていたが、ほとんどの人が、そんな感じだった。

 ニューヨークタイムズに、そうでもない記事が載っていたので紹介したい。

 NY Times Deal Book May 27,2023 より
『休暇の終わり?
 夏休みの季節がやってきたが、驚くほど多くのアメリカ人と同じように、あなたもおそらく有給休暇をある程度残しているだろう。 ピューの最近の調査によると、雇用主が有給休暇や休暇制度を提供している労働者の46%は、提供されている休暇よりも短い休暇を取っている。 その理由は次のとおりだ。

・さらに休暇をとる必要があるとは感じない (52%)。
・仕事で遅れが出るのではないかと心配する (49%)。
・同僚に追加の仕事を引き受けさせるが申し訳ない(43%)。
・休暇を取るとキャリアアップの可能性が損なわれる可能性がある (19%)。
・仕事を失う危険があるかもしれない (16%)。
・上司が休暇をとることをやめさせる (12%)。

 リーダーが職場文化に関して下す決定が、報復への恐怖や昇進を逃す恐れなどの理由に影響している可能性が高くなる。また、管理が不十分で、人員が不足している職場では、同僚に余分な仕事を任せることについての不安が強くなる可能性がある。

 同時に、利用可能な有給休暇をすべて取得しない最も一般的な理由は、労働者がその必要を感じていないことだ。

 多くの人は、「オフ」のときでも仕事を続ける。 回答者の 55% は、勤務時間外に仕事の電子メールやメッセージを「非常に頻繁に」、「頻繁に」、または「時々」チェックすると回答した。

 ただ、従業員は有給休暇が取得できることを重視しているようだ。 ピューの調査では、全労働者の89%が、仕事上、休暇、医師の診察、軽度の病気のために有給休暇を提供することが「非常に」または「非常に」重要であると回答しており、健康保険や退職プログラムの整備よりも「非常に重要」を選択した人が、雇用者の回答と比べても多いのだ。 』

 これは、私のニューヨークでの約25年前の経験と比べると大きな変化だ。
・コロナ下での職業の選択の自由度の減少。
・普及したリモートワークの影響。
・(多分)安定した仕事へのロイヤリティの高まり。
といった点が、米国人労働者に変化をもたらしたのだろう。

 日本では、以前は、「有給の消化は悪」「皆が多忙な時期に有給を取るとは何事か」と言う風潮があり、有給の消化率は極めて低かったが、現在はどうなっているのだろうか。

 仕事へ前向きに取り組んでいるかどうかを調べるエンゲージメント調査がある。組織と従業員、従業員と仕事、組織と顧客などの結びつきをエンゲージメントと言い、信頼関係のもと自ら意欲的に捉えている状態を「エンゲージメントが高い」と表現する。

 世界比較では日本の従業員のエンゲージメントは極めて低い。米調査会社ギャラップが2022年に実施した調査によれば、日本は熱意あふれる(従業員エンゲージメントの強い)社員の割合は5%で、調査対象129カ国中128位であった。米国カナダの33%から大きく引き離され、韓国の12%より低くOECD諸国では最低だ。

 私が関与している会社を見ると、有給の取得率はいまだに低いようだ。エンゲージメントが低ければ、どんどん有給を消化する従業員が増えるような気がするのだが、そうなっていないようだ。周囲に忖度し、自己を押し殺す傾向が有給の未取得を増やし、それがエンゲージメントを低める悪循環に陥っているのだろうか。

 数年前に日本を代表する優良企業の品質不正問題が頻発した。神戸製鋼、東レ、日産と言った企業だった。最近はトヨタ自動車傘下の日野自動車、ダイハツで品質不正が明るみに出ている。「外見だけを取り繕うやっつけしごと」がまるで日本企業の本質のようにさえ思える。

 「エンゲージメントの高い優秀な現場力」が日本の競争力の源泉だったと思うが、どこに行ってしまったのか。失われた30年を脱却するのは至難の業に思える。

2023年5月28日 日曜日