日本海海戦を勝利に導き死後は神となった東郷平八郎元帥の言葉だ。
たしか連合艦隊司令長官を辞める際に、訓練の重要さを説いた言葉とされている。
この言葉が最初に言われた時には、そりゃおかしいという声を上げた海軍士官が多かったと聞く。敵が百門の砲に一発づつ砲弾を持っていて一斉射撃すれば、こちらの一門の大砲は最初の数回の一斉射撃を生き延びたとしても、ほどなく破壊されるだろうという論理的な考えだ。それが太平洋戦争に近づくにつれて批判の言葉は消え「月月火水木金金」の猛訓練に支えられた帝国海軍は無敵という精神主義神話化していったと聞く。
今回のコロナ感染についての日本の対応も似ている。
日本では今でもクラスター感染を押さえて関連する感染者をつぶそうという考えだ。少数の砲撃の精度を高めよう。夜の海戦に備えて監視員の視力を極限まで高め敵を早く発見しようという考えだ。このやり方は昭和17年初めまでは良かった。
17年半ばになると、米軍はレーダーを装備しORに基づいて沢山の砲弾をつぎ込んで日本軍の艦艇を殲滅した。PCR検査の件数を飛躍的に増やし(レーダーの装備)感染者の動きをAIでフォローする(ORの活用)ことで感染の経路の殆どがつかめるようになったのとそっくりだ。
日本の保健所のあり方や、都の感染者の把握の仕方、感染者病棟の準備のあり方を見ると、人力に依存し、デジタル化の遅れに唖然とすることばかりだ。
そのような現象の根本には、戦前から続く、「百発百中の砲一門は百発一中の砲百門に相当する」という精神主義があると思われる。
(2020.5.21)