バイデン政権を待ち受ける「難題」

バイデン政権の「課題」として具体的には以下が挙げられている。

1.ヘルスケア
・新型コロナ対策
・オバマケアの改善と浸透、薬価のコントロール
2.税制改革
・法人税率の28%への引き上げ(トランプ減税の半戻し)
・40万ドル以上の個人所得税率を39.6%に引き上げ
・リタイアメント準備へのクレジット付与
3.科学技術
・5G,AI,Biotechへ3000億ドルの予算計上
・巨大IT企業への独占禁止法の適用
4.外交政策
・貿易戦争の継続、特に対中国
・同盟関係の強化、イランとの関係改善
5.エネルギー
・再生可能エネルギーの強化、太陽光、風力
・フラッキングと排ガスの制限
6.インフラ整備
・1-3兆ドルを投入
・道路、橋、パワーグリッドの修理改善

これを見ると骨太の方針が見て取れる。
我が国の「骨太の方針」のスカスカぶりとは好対照だ。

さて、上記は「課題」であって、「難題」ではない。
「難題」は、一体なんだい、とダジャレで聞くと、
・極度に拡大した貧富の差
・中央銀行の国債引き受けにより膨れ上がった
政府債務
・予見されるインフレーションと財政の破綻
・バブル状況にある株式市場の崩壊による市民生活の混乱
ということになる。

これらは米国だけの難題ではなく先進国のすべてが抱える難題だ。  解決策は無い。が、これらに備えて、個人としては知恵を絞って対策を講じておくべきだ。

(2020.11.18)

Lame-duck shenanigans

上記の言葉は、大統領職の最後に、退任の決まっている大統領が行う隠れた不正直・不誠実な行為を指す。

例えばトランプ大統領は、バイデン氏が新大統領に就く1月20日までは、大統領の地位にとどまっているわけで、それまでは、イタチの最後っ屁ではないが、自分や自分の身内のためになるような大統領令を出すことが可能だ。

典型的な例は、恩赦だ。

清廉潔白な印象を与えるオバマ大統領も例外ではなく、任期の最終期に恩赦を連発したという調査結果がある。(FiveTirtyEight, April1 2015)

トランプ大統領は、敗戦が明白になったらペンス副大統領に大統領職を譲り自らが訴えられている訴訟に関する恩赦をかちとる挙に出ることを考えている、という驚くべき見方がニュースレターに記されていた。(SIGNAL, Nov6 2020)

トランプ大統領が最後にどう幕引きするのか注視したい。

(2020.11.8)

Sunflower Bias 又はアメリカン忖度

McKinseyの最近のニュースレターでプロジェクトを評価し進める方法についてFour ways to assess projects and keep them on trackという記事があった。

その中で、CEOや経営層の考えに部下が影響されるのをSunflower Biasとして述べている部分あるので紹介したい。

Sunflowers always face the sun, right? Similarly, individuals are always trying to guess the CEO’s or the most senior person’s point of view. Accordingly, you have to take active steps to overcome people’s reluctance to stick their necks out if the CEO has a particular perspective on a decision. You need to reward executives for bringing up objections even if in the end you go a different way.

Tim KollerというMcKinseyのパートナーの発言だ。アメリカでも忖度が働くことがわかる。

(2020.11.1)

Jean-Marc Gilson

日本語ではジョンマーク・ギルソン氏と言われるこの人わかりますか?
10月24日の日経一面の「三菱ケミカルHD新社長にギルソン氏」という記事が躍っていたが、そのギルソン氏だ。

記事で特に興味深かったのは以下。
・社外取締役が委員長を務める指名委員会が選考を主導した
・選定の基準は4つのP:Performance. Potential, Passion, Personality
・橋本指名委員会委員長によれば、社内で3人、社外で4人(すべて外国人)の候補が残ったが4Pではギルソン氏がダントツだったという。

外部者には随分保守的な日本の会社というイメージがある三菱ケミカルHDがいきなり外国人を社長にするという決断はかなり大きなステップだったと思われる。

今回越智社長が退任し小林喜光会長は留任のようだがギルソン新CEOとの関係が気になるところだ。

個人的には、実務的に、サクセションプランで重視する要素として4つが明示されていたことは参考になった。

更にいろいろ調べていたら経済同友会の「経営者及び社外取締役による CEO 選抜・育成の改革 」2019年公表が見つかりこちらも参考になった。

海外で戦う企業には外国人の経営層が不可欠だが、日本は遅れているのは確か。それに一石を投じた今回の動きは、閉鎖的な氷を破るのか注視していきたい。

(2020.10.25)

第一生命の詐欺事件

事件の概要を把握するために日経新聞(2020.10.12)の記事を読んでみていただきたい。
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第一生命保険の元社員が顧客から約19億円を不正に集めていた問題で、金融庁が同社に対して保険業法に基づく報告徴求命令を出したことが12日、分かった。金融庁は、不正を長期にわたって見逃し、被害額が拡大したことを問題視。詳細な経緯や再発防止策について報告を求めた。
同社は2日、山口県周南市で営業を担当していた元社員が少なくとも10年以上にわたり、架空取引を持ち掛けて顧客21人から総額約19億円の資金を不正に取得したと発表。警察が捜査している。
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いやはや、金融機関をめぐる詐欺事件で最も基本的なものがまだ存在していることにまず驚いた。
メガバンクでも地方銀行でも信用金庫でも同様の事件は起きてきた。

本件の特徴は以下だと思う。
・金額が大きい(19億円というのは既存事件と一桁ちがう)
・長期(一部報道では10年以上)にわたっている
・被疑者がトップクラスの成績を上げてきて
特別調査役とかいう肩書をもらっている89歳という
老齢の女性である

多分、被疑者の営業実績と年齢が顧客を詐欺話を容易に信じ込ませた重要な要素だろう。

不正が起きる際には不正の3要素が背景にあると言われるので本件での3要素を考えてみたい。
1.動機:この女性は人生の終盤になぜ19億円もの
大金を詐取しようと思ったのだろうか?

贅沢をしたかったのか?ほかの理由があったのか?

2.機会:自分の信用力がとても大きくて、顧客が簡単に信じて
お金を自分に預けてくれる。
第一生命には自社内を通さないお金の動きを
確認する統制手段がない。

3.正当化:自分がこれだけ会社に貢献したのだから
これくらいの不正は良いだろうという
自分への言い訳。

もし、被疑者が自分のために詐取したお金を湯水のごとく使っていたら、生活が非常に派手になるので周りで気が付く可能性が高い。これをYellow FlagとかRed Flagという。
気の利く上司なら見逃さないはずだ。19億円の豪遊を見逃すとしたら生命保険会社の管理職の目は節穴だ。

ここからは私の個人的な推論だ。
・この女性は今までの実績を維持するための資金として
使ったのではないか。
・会社のためという言い訳で、被疑者は良心の呵責なく詐取を続けることが出来た。
・こうして80歳台になってもトップクラスの営業成績を上げ続けることが彼女にとっての人生の意義になっていたのではないか。

この推論は全く間違っているかもしれないが、現在わかっている状況をよく説明できる推論と思われる。

管理職への教訓は、Yellow Flag/ Red Flagに気を付けることだ。

(2020.10.13)