本国志向か現地志向か

我が国の企業にとって国際化は不可避であり、それには海外で子会社・関連会社の経営にあたれる人材の確保・育成が重要な課題だ。

国境を越えてグローバルに展開する企業がどのような視点で経営されているか、米国の経営学者パール・シュミッタ―の説く、3つの視点を紹介する。

1. 本国志向 Ethnocentric
その企業の本社こそが最良の手法を持つ
2. 現地志向 Polycentric
現地(人)の経営者こそが最良の手法を持つ
3. 世界志向 Geocentric
世界中から集めた最良の人材・手法を使う

現地の企業経営にあたる経営者を上記に従って分類すると以下のようになる。
1. Parent Company Nationals (PCNs) 親会社派遣人材
2. Host Country Nationals (HCNs)  現地出身人材
3. Third Country Nationals (TCNs) 第三国出身人材

私自身は、邦銀で、バンコク、ニューヨーク、トロントに勤務したががちがちの本国志向・親会社中心主義であった。ニューヨークの支店では総人員400人のうち、本社からの派遣人員が約1割を占め、部門長はすべて日本人だった。毎朝の連絡会は日本語で行なわれ、米国人の行員には働きにくい環境であったに違いない。

派遣社員を通じた日本本社のグリップが厳しくないと安心できないという考え方の会社が依然多いのが2や3の考えが出来ない理由だ。
一方、近年、海外子会社の不祥事(主に会計不正)が、一流企業でも頻発している。日本人社員を配したからといって不正を見つけることが出来なかったわけで1に固執する理由に乏しい。

製造雹では大幅に現地化が進んでいる企業が多いが、経営幹部へ登用している事例はまだ少ない。現地社員のモチベ―ション向上には、優秀な社員を経営層に登用することが不可欠だが、何処まで出来るのか、用意があるのか判然としない企業が多い。世界の一流企業は殆どが3の状態にある。

コロナ禍で海外への人の移動の自由度が低まり、入国ビザの取得も困難になってきている現在、現地法人を誰が経営すべきかについての最適解を見つける努力が必要だ。解答は企業によって異なるであろうが、シュミッタ―の3つの視点は、考えの整理をするのに役に立つ。

(2020.7.14)

ハイコンテクストとローコンテクスト

またまた文化人類学的な文化の違いの説明をしたい。
日本人はなぜ論理的な議論やディベートが苦手で、以心伝心、腹芸、忖度といったことを得意とするか上手く説明する重宝な考え方だ。

言語はコミュニケーションの主要ツールだが、コミュニケーションの基盤になる「言語、共通の知識、体験、価値観、論理性、嗜好性」は「文化」によって異なる。

「『文化』とは、ある集団(国民・民族・人種等)が当然と考え、その行動様式を形成して行く前提、価値観、信念、あるいは象徴である」と定義したのはアメリカの文化人類学者Edward Hallである。
つまり文化によって「言語が持つコミュニケーションのツールとしての機能は異なる」というのだ。

異文化コミュニケーションの先駆者であった彼が提唱した文化の識別法に「ハイコンテクスト文化」と「ローコンテクスト文化」という考え方がある。

ハイコンテクスト文化(状況依存度が高い文化)とはコンテクスト(文脈)の共有性が高い文化のことで、伝える努力やスキルが無くても、お互いに相手の意図を察しあうことで、何となく通じてしまう環境を指す。日本はハイコンテクスト文化の典型と考えられる。我々は、上からの明確な指示が無くてもやたらに忖度するのが得意だ。

ローコンテクスト文化(状況依存度が低い文化)では、コンテクストに依存するのではなく、あくまでも言語によるコミュニケーションを図ろうとする。

コンテクストによるコミュニケーションに秀でた日本人は一を聞いて十を知ることが可能だ。
かかる能力の欠如した欧米人は言語に対して高い価値を与え積極的な姿勢を示し、コミュニケーションに関する能力(論理的思考力、表現力、説明力、ディベート力、交渉力)を重要視する。

日本人が欧米人の部下を持つとその人事考課の結果を伝えるのに苦労する。彼らの実績の評価を5W1Hを使ってしっかり説明しないと彼らを納得させることは出来ない。日本人にとっては大きなチャレンジだ。

英語でHe is an articulate person. というのは最高の誉め言葉の一つと思われる。が、日本語で「彼は弁が立つ」というのは誉め言葉ではない。ハイコンテクスト文化とローコンテクスト文化の違いが現れている。

(2020.7.13)

情報へのアクセス・制限の仕方

John BoltonのThe Room Where It Happenedを読み始めた。世界中の誰もがKindleで一瞬にして手に入れることが出来る。

国家機密を漏らしているということでトランプが出版差し止めを求めた本だ。国家安全保障担当大統領補佐官に任命した人間が、自分に不利な機密に属する会話をペラペラ漏らすとは考えも及ばなかったことであろう。

機密情報を組織内でシェアする原則がいくつかあるので、主に情報へのアクセスの観点から述べてみたい。

【Need to knowの原則】
ユーザーのアクセス権の範囲を決定する際には、 当該ユーザーがアクセスしても良いデータに対してのみ、アクセスを許可するように設定するすることが肝要だ。

このような、情報は知る必要がある者に対してのみ与え、 知る権利を当然持つ者であっても、知る必要のない者には与えない、という原則を、Need to knowの原則という。

【Least Privilegeの原則】
データへのアクセス権は必要最小限の範囲でのみ認められるべきであり、 これを「Least Privilege(最小特権)の原則」という。

トランプ政権で考えると、
【大統領補佐官に無制限のアクセスを許すと・・】
アクセス権が適切に設定されていないと、 本来そのユーザーには禁止されるべき行為を許してしまうことになる。ボルトンのような秘密を洩らしそうなものには不用意に情報をシェアすべきではない。
【娘や娘婿にのみ特権を与えると・・】
主要閣僚や補佐官に、許されるべき情報アクセスに制限をかけてしまうことになる。やる気を失わせることにもなり、匙加減はとても難しい。

【規定値ゼロの原則】
アクセス権の設定は慎重に行い、 設定後に適切であったか検証することが重要だ。アクセス制御は、まずアクセスがない状態から考え、 その上に構築していくべきだ。この概念を「規定値ゼロの原則」という。

以上、基本的だが、トランプ大統領にも知っておいていただきたい原則だ。

(2020.7.12)

Brooks Brothers(BB)の破綻

米国のアパレル業界の老舗であるBBが7月8日に連邦法11条による破産申請(日本の民事再生法申請に相当)を行った。

日経新聞等我が国のメディアでも大きく報じられているが筆者の感想を述べてみたい。

BBは特に男性用の衣類の老舗だった。アメリカンカジュアルのおしゃれさと、歴代大統領45人中40人が愛用していたトラッドさがあり、ビジネスにもレジャーにもふさわしいブランドだった。
ソニーの盛田昭夫さんが愛用していたブランドでもある。オーダースーツよりBBのつるしのほうがずっとカッコ良く見えるので、好んで着ていたそうな。
有名ブランドにしては極端に高い価格帯でないので、筆者にも手が出た。店舗のつくりはどこも似ており、気軽に店に入ることが出来た。

米国で240店、世界で424店舗を展開し4000人の従業員がいたそうだがその4分の3は休職中とのことだ。日本の店舗は引き続き営業されるらしい。

倒産の原因は、コロナ禍による販売不振だが、小売業のデジタル化に遅れ近年低迷していたという見方もある。
この1年以内に、JC Penny, Neiman Marcus, J Crewといった有名小売業の倒産が相次いでいるが、これらに共通するデジタル化の遅れを指摘する声は多い。

もっと基本的な業界特性を言おう。
米国の小売業は景気の波の影響を受けやすく、連邦法11条申請の常連だ。以下のステップの繰り返しだ。
・連邦法11条で既存債務を減免してもらう。
・収益が回復し数年で再上場する。
・信用力が回復し社債発行や銀行借り入れの拡大する。
・事業の急拡大する。
・景気後退により売上減少して赤字化する。
・連邦法11条の申請により債務減免を目指す。

日本の小売業もコロナ禍で大きく傷んでいるが民事再生法の申請はまだ出ていない。日本では、不況下の解雇や雇止めの件数はまだ数万件というレベルだ。
米国では小売業の連邦法11条申請は一般的だ。失業保険の申請者はすでに10百万人を超えている。

不況下のresilienceは経営の大きなテーマだ。
企業がつぶれず失業者も少ない日本は米国よりresilienceが大きいのだろうか。
それとも、文字通り「ご破算に願いまして」で進める米国のほうがresilienceがあるのだろうか。

(2020.7.9)

米国ではRVのリースが好調だ

RVはrecreational vehiclesを指す。キャンピングカーや宿泊可能な車でけん引するトレーラーなどを指す。

米国では、旅行の一形態として、長い夏休みに大型のキャンピングカーに乗ってオート・キャンプ場に停車し好きな観光地を巡るのが、昔からポピュラーだった。
アメリカをドライブしてのろのろ走る大型のRVを抜くことが出来ずにいらいらした経験をお持ちの方も多いだろう。

さて、RVを買うのは値が張るが、リースは簡単だ。RV ShareというRVのリースを手掛ける企業の調べでは、今年のRVのリース需要は前年の3倍。4月以降は実に16倍になっているそうだ。

人気の高まりには2つの理由がある。
一つ目は、従来からある旅行の需要。飛行機で移動したり、ホテルに宿泊するのはまだコロナが心配だという人たちが、RVを運転し、気に入った場所で宿泊している。
二つ目は、ミレニアル世代(通常、1981年から1995年に生まれた世代を指す)の縮み志向だ。この世代は、金融危機の経験があり消費も堅実だ。大きな家を持ちたいという欲求は低く、むしろ、RVを住まいに使用するという合理的な考えの持ち主が多い。RVに住むというのは一昔前なら貧乏人の代名詞だったが、ミレニアル世代は気にしないらしい。

RVリース需要急増の背景には、ミレニアル世代の消費行動があるのだ。日本のミレニアル世代への示唆はどうだと思いますか?

追伸:今日、初めてひぐらしの声を聴いた。梅雨明けまえに秋が来た気分だ。

(2020.7.8)