世界の動き 2024年12月4日 水曜日

今日の一言
「一流金融機関での不祥事」
野村証券の社員のとんでもない犯罪が起きた。
以下Bloombergの記事
『野村証券の奥田健太郎社長は3日に都内で記者会見を開き、元社員が顧客に対する強盗殺人未遂などの罪で起訴されたことに関して「被害者の皆さま、多くの関係者の皆さまに多大なるご迷惑とご心配をおかけしたことを深くおわび申し上げます」と謝罪した。経営責任を明確化するため、奥田社長やウェルス・マネジメント部門を統括する杉山剛専務ら5人が役員報酬の3割を3カ月間自主返上するほか、その他の代表取締役5人も同2割を同期間返上する。奥田氏は辞任は考えていないとも述べた。』
先日は三菱UFL銀行で貸金庫からの窃盗があった。以下Yahooより
『大手メガバンク「三菱UFJ銀行」の行員による巨額窃盗事件が発覚した。
11月22日、同行は元行員による「窃取事件」を公表した。リリースによれば、事件が発覚したのは、2024年10月31日。舞台は、練馬支店(旧江古田支店を含む)と玉川支店の2支店だという。
2020年4月から2024年10月までの約4年半にわたり、支店の貸金庫の管理責任者だった行員が、契約者およそ60人の貸金庫から時価10数億円程度の金品を盗んだという。』
内部管理体制の不備が招いた事件だが、証券と銀行業界のトップ企業で起きた事件は衝撃だ。
収益重視、顧客軽視の企業体質が根底にあると思う。根は深い。

ニューヨークタイムス電子版よりTop3記事
1.韓国大統領が戒厳令を撤回
【記事要旨】
韓国の尹錫烈大統領は、昨日発令した非常事態宣言の戒厳令を閣議で解除すると約束した。この決定は、国会が戒厳令の解除を決議した数時間後に下された。
尹大統領の戒厳令に対して、与党も批判し、野党は「違法」だと非難した。何千人もの抗議者がソウルの路上に出て大統領の辞任を要求した。韓国労働組合総連盟は、尹大統領が辞任するまで「無期限ゼネスト」を宣言した。
非常に支持率の低い尹大統領は、野党の「反乱」が自由民主主義を転覆しようとしている」として、政治活動を禁止し、報道機関を統制する戒厳令を出した。
背景:2022年に接戦の末に当選した尹氏は、国会を支配する野党とほぼ絶え間なく政治的対立を続けてきた。1980年代後半の軍事独裁政権の終焉後、40年以上ぶりの戒厳令宣言は短時間で終わった。
【コメント】
この報道には驚いた。本気で戒厳令を出すなら、軍部を動員しすぐに国会を閉鎖すべきだったと思うのだが、尹大統領は何を考えていたのだろうか。日本と関係の良好な尹大統領の今後が心配だ。

2.中国は米国への希少鉱物の輸出を禁止
【記事要旨】
中国は米国へのいくつかの希少鉱物の輸出を禁止し始めると発表し、世界の二大大国間の技術戦争が激化している。超硬質材料であるガリウム、ゲルマニウム、アンチモンの米国への販売は直ちに停止されると中国商務省は発表した。グラファイトの輸出も厳しく審査される。
​​分析:この禁止措置は、武器や半導体などに使用される素材の輸出を阻止する北京の意思を示している。中国は多くの素材のグローバルサプライチェーンの中心だが、トランプ政権第1期中は自国の輸出を締めることを概ね控えていた。
【コメント】
半導体の主な原材料のうち、ガリウムの生産量においては中国が世界全体の98%、ゲルマニウムや インジウム、フェロシリコン、レアアースは同70%弱、アンチモンは同50%弱を占める。(丸紅)

3.ウクライナの子どもの強制養子縁組に関する報告書
【記事要旨】
イェール大学の報告書によると、ロシアのプーチン大統領とクレムリンの高官らは、ウクライナ戦争中にウクライナの子どもの強制的な養子縁組と里親制度を「意図的かつ直接的に」承認した。これは戦争犯罪の立証に強力な新たな証拠を提供している。
調査では、ウクライナの子ども314人が「強制的な養子縁組と里親制度の組織的プログラム」に置かれ、プーチン大統領を含むロシアの高官らが、これを実行するよう直接命令した証拠が示されている。
ウクライナの高官とイェール大学の研究チームのメンバーは、本日、国連安全保障理事会の特別会議で調査結果を説明する。
戦争中:NATOのルッテ新事務総長は、西側諸国がキエフの立場を強化するのに十分な軍事援助を送ることができるまで、ウクライナはロシアとの和平交渉を延期すべきだと示唆した。
【コメント】
北大西洋条約機構(NATO)のルッテ事務総長は、トランプ次期米大統領がロシアのウクライナ侵攻を巡り意欲を見せる早期和平の危険性を警告した。トランプの性急な和平計画への懸念だ。

その他の記事
テクノロジー:
アマゾン、アドバンスト・マイクロ・デバイセズ、およびいくつかの新興企業が、特にAI開発において、NVIDIAのチップに代わる信頼できる代替品を提供し始めている。
中東:
ベンヤミン・ネタニヤフ首相は、10月7日の攻撃で捕まった人質を就任前にガザから解放するというトランプ大統領の要求を称賛した。
米国:
トランプ大統領は、買収者が外国企業であるため、就任後、日本製鉄によるUSスチールの買収を阻止すると述べた。

(コメント:日本製鉄はすぐ手を引くべきだ。高値掴みの上、政治に翻弄される愚は避けたい。)

2024年12月4日 水曜日

世界の動き 2024年12月3日 火曜日

今日の一言
「ふてほど」
「2024ユーキャン新語・流行語大賞」が2日、発表され、年間大賞には、今年1~3月にTBS系で放送された連続ドラマ「不適切にもほどがある!」の略称「ふてほど」が選ばれた。
このドラマは見たことが無く、この言葉も聞いた事が無かった。同作の全10話の視聴率は7・4%だったそうだ。この程度でいまはヒット作ということになるのだろうか。
流行語大賞ではあまり流行らない言葉が選ばれるような気がする。流行らなかった言葉が候補になり、再発掘されたり、一年を振り返る機会にはなるようだ。
私の一押しは「オルカン」だったが候補にも選ばれなかった。

ニューヨークタイムス電子版よりTop3記事
1.バイデン、息子を恩赦
【記事要旨】
バイデン大統領は、これまで何度も恩赦はしないと主張していたのに、日曜の夜、息子ハンターに完全かつ無条件の恩赦を出した。ハンターに対する税金と銃の容疑は政治的動機によるものだったため、この決定を下したとバイデン氏は述べた。
「私は司法制度を信じているが、この問題では、生々しい政治がこのプロセスに浸透し、それが冤罪につながったと考えている」とバイデンは述べた。
息子を恩赦するにあたり、バイデン氏は選択的起訴と政治的圧力に不満を述べ、司法制度の公平性に疑問を呈するなど、後継者(トランプ)とよく似た発言をした。
司法行政に決して介入しないという考えのもとに大統領職と50年間のキャリアを築いてきた彼にとって、これは驚くべき方向転換だった。
恩赦と、それを許可したバイデン氏の理由は、政局を混乱させるだろう。次期大統領は、司法省とFBIを利用して政敵に対する「報復」を図る計画を公然と表明してきた。トランプ氏は長い間、司法制度が自分に対して「武器化」されており、自分は選択的訴追の被害者であると主張してきた。

トランプ氏関連:
・トランプ氏がカシュ・パテル氏をFBI長官に任命した決定は、ワシントンの抵抗にひるんでいないことを示している。
・レバノン系アメリカ人の大物実業家でトランプ氏の顧問であるマサド・ボウロス氏とは誰か?
・保健当局が腐敗していると考える有権者の中には、ロバート・F・ケネディ・ジュニア氏とトランプ氏が約束した大変革こそが唯一の解毒剤だと確信している者もいる。
【コメント】
バイデンもトランプと同じ論理で自分の息子を救った。とんだ親バカぶりだ。これで民主党はトランプのやりたい放題を牽制する手段を一つ失った。

2.ロシアとイランがシリア指導者への支援を約束
【記事要旨】
ロシアとイランはシリアのアサド大統領への無条件の支援を約束し、反政府勢力を撃退しようと軍に戦闘機を派遣した。
シリア国営メディアとシリア人権監視団によると、シリアとロシアの戦闘機は昨日、反政府勢力が占領したシリア北西部の領土を攻撃し、民間人と戦闘員の両方が死亡したと述べた。
反政府勢力は、かつてシリア最大の都市だったアレッポとその周辺地域を進撃し、アサド支持派と戦っている。
アサドを支援すると約束しているものの、ロシアとイランのどちらも軍隊を派遣することを約束していない。ロシアはウクライナへの長期侵攻で兵力が消耗しており、イランはこの1年間、イスラエルに対抗するヒズボラを支援してきた。
【コメント】
今度はシリアが大国の代理戦争の場となってきた。火種を消すよりも風を送り炎を起こす勢力が多い。

3.フランスで不信任投票を求める声
【記事要旨】
フランスのミシェル・バルニエ首相は昨日、予算案を採決なしで下院で可決した。
これに対しフランスの左派政党とマリーヌ・ル・ペンの極右政党である国民連合はそれぞれ不信任動議を提出すると述べており、明日にも採決が行われ、政権崩壊の可能性は高い。
今後の展開: 3か月前にエマニュエル・マクロン大統領によって任命されたバルニエ首相と彼の内閣の運命は不透明だ。
政治の 混乱により投資家はフランスの株式と債券を売却し、国の借入コストが急騰した。
【コメント】
Bloombergの記事より
『フランスのバルニエ首相は不人気の予算案の一部を採決なしで議会を通過させるため、憲法上の手段を行使した。これに対し左派政党が、まもなく不信任動議を提出すると発表。極右政党の国民連合(RN)のルペン氏も、これを支持すると表明した。野党側は、今後24時間以内に不信任動議を提出しなければならない。左派の不信任動議を議会内最大勢力のRNが支持すれば、可決する可能性が極めて高い。ユーロは対ドルで一時1%超下落。10年物のフランス債とドイツ債のスプレッドは拡大した。』

その他の記事:
ガザ:
イスラエル軍は軍事基地を強化し、パレスチナ人の建物を破壊しており、この飛び地を長期にわたって支配する計画を示唆している。
ルーマニア:
議会選挙では中道左派政党が最多票を獲得したが、強い民族主義勢力の支持により、安定した西側志向の政権樹立が困難になる可能性がある。
ウクライナ:
キエフで米国の援助が枯渇するのではないかとの懸念が高まる中、ドイツのオラフ・ショルツ首相がウクライナを電撃訪問し、自国の支援を再確認した。

2024年12月3日 火曜日

世界の動き 2024年12月2日 月曜日

今日の一言
「100%関税」Bloomberg記事より
 『トランプ次期米大統領は主要新興国で構成される「BRICS」諸国に対し、貿易などで米ドルの代わりに使用する新たな通貨を創設しないという確約を求めた。「新たなBRICS通貨を創設せず、強大な米ドルに取って代わる他の通貨を支持することもしないと約束するようこれらの国々に求める。さもなければ100%の関税に直面し、素晴らしい米国経済への売り込みに別れを告げることになると覚悟すべきだ」とトゥルース・ソーシャルに投稿した。』
 これは無理な要求だ。強要すれば人民元の国際化に拍車をかけるだけだと見る。

ニューヨークタイムス電子版よりTop3記事
1.反政府勢力が進撃し、シリアで戦闘が激化
【記事要旨】
 反政府勢力は激しい戦闘の中シリアで進撃し、アレッポの空港と陸軍士官学校を占領し、西部都市ハマの郊外を攻撃した。アサド大統領に忠誠を誓う政府軍は援軍を急行させたとシリア人権監視団は述べた。
 反政府勢力は前日アレッポの大部分を占領し、現在、シリア西部と北西部のハマ、イドリブ、アレッポの各県にまたがる広い地域を支配している。
 監視団によると、政府軍はハマと近隣の都市の周囲を防衛するために援軍送り、政府軍戦闘機が反政府勢力が支配する地域を爆撃し、数十人の民間人が犠牲になったと監視団は述べた。
 反政府勢力同盟は、かつてはアルカイダと関係があったが、現在は関係を絶ったグループが率いており、トルコが支援する反政府グループも参加している。

中東の動き:
・イスラエルの元国防相が、イスラエルがガザで戦争犯罪と民族浄化を犯したと非難した。
・イスラエル軍は土曜日、レバノンのヒズボラ拠点数か所を攻撃したと発表し停戦は不安定だ。
・トランプ次期大統領は、娘ティファニーの義父でレバノン系アメリカ人実業家であるマサド・ボウロス氏をアラブ・中東問題担当上級顧問に任命すると発表した。
・イスラエルは、昨年10月7日の攻撃に関与したとされる援助団体「ワールド・セントラル・キッチン」の職員を殺害したと発表した。イスラエルによる同団体の職員殺害は2度目となる。
【コメント】
 今度はシリアで戦火が上がった。しっかり鎮火しなので、風が吹けばすぐ火が燃え盛る。

2.共和党はトランプ氏のFBI長官指名を支持
【記事要旨】
 トランプ氏がFBI長官にカシュ・パテル氏を指名したと発表後、共和党議員数名が同氏を称賛した。同氏はその地位を利用してトランプ氏の敵対者に復讐すると宣言している。
 トランプ氏が土曜日、10年の任期のうちまだ3年残っている現FBI長官クリストファー・レイ氏を交代させる意向を発表したことは、多くを驚かせた。パテル氏はFBI捜査官、ジャーナリスト、その他に対する徹底的な報復キャンペーンを開始すると述べている。
 テキサス州共和党のテッド・クルーズ上院議員は、パテル氏を、FBI内部の党派主義と自分や他のトランプ氏の同盟者が主張する問題に対処できる人物と評した。パテル氏は承認公聴会で、FBIが政治的干渉を受けないままでいられるかどうかについて厳しい質問を受ける可能性が高い。
【コメント】
 レイ氏はトランプが任命した人物だが、自分の思い通りにならないとみてパテルに切り替えるのだ。米国のTVを見ると、FBIと地方警察の捜査力に大きな差があるようだが、犯罪捜査は今後どうするのだろうか。

3.虐殺から80年、セネガルはフランスに事実の解明を求める
【記事要旨】
 1944年、フランス植民地軍は第二次世界大戦で戦った後にフランスから帰還した西アフリカの兵士を虐殺したが、それは秘密に包まれたままである。
 虐殺から80年を迎え、セネガル政府はフランスに対し、このティアエロ虐殺事件について完全に説明するよう求めた。これは、アフリカの政府から、旧植民地との関係を再考すべきだという最新のシグナルである。
【コメント】
 ティアロエ虐殺(ティアロエぎゃくさつ、英語:Thiaroye massacre、フランス語: Massacre de Thiaroye)は第二次世界大戦中の1944年12月1日にフランス軍によって行われた西アフリカのセネガル兵に対する虐殺である。セネガル兵達はフランス解放のために戦ったにも関わらず35人から300人以上が殺害された。

その他の記事
気候:
 韓国の釜山で開かれた国連会議に出席した外交官らは、プラスチック汚染に取り組む世界初の条約で合意に至らなかった。
台湾:
 頼清徳総統は、縮小しつつある島嶼国の同盟国との関係を強化するため、マーシャル諸島、ツバル、パラオの歴訪を開始した。
中国:
 米国の動物園はパンダの飼育権を得るために数千万ドルを集め、中国に送金した。資金の多くは、約束された環境保護活動には使われていない。

2024年12月2日 月曜日

Thanksgiving holidays

 米国では収穫祭の祝日で今年もあと1か月。今年を振りかえり来年に思いを致す時期だ。

 WSJのコラムではAndy KesslerはThe Market’s Mixed Signals:Stocks are winning the cage match, but bonds may have the last laugh. と言う記事を書いている。

 何がMixed Signalsかと言えば以下だ。
 ・株価は上昇しており、経済ブームの兆候を示している。
 ・石油は、景気後退に向かっているかのように下落している。
 ・住宅価格は、金利引き下げが続くかのように上昇している。
 ・金は上昇しており、インフレが戻ってきたことを示唆している。
 ・ドルは、ヨーロッパ、カナダ、中国が苦しんでいるかのように強い。
 ・コアインフレは上昇しており、2021年4月以来3%を超えている。
 ・長期債は、FRBが金利引き下げを停止する必要があることを示している。
 ・パランティアの株価は、人工知能の誇大宣伝により、今年250%以上上昇し、現在約1450億ドルの価値がある。素晴らしい会社だが、先走りすぎている。株価は、税引き後営業利益の483倍、売上高の55倍だ。

 彼の株式市場に対する見方は以下だ。
 「なぜこんなことが起こるのか?市場の配管が壊れているのではないかと心配している。かつては取引所に人間のトレーダーがいた。現在、取引は不透明な高頻度取引組織とクオンツファンドによって支配されている。機関投資家は個人取引に後れを取り、誇大宣伝家が株に息を吹きかけると、株価は上がりる。健全ではない。」

 彼の株式市場の見方は尤もだ。株式市場は本来の、企業による資金調達と投資家の資金提供の場から、投機的なマネーゲームの場に変容したのだ。このような株式市場から距離を置こうとするのはウォーレンバフェットが債券投資にシフトしているという動きと重なる。

 さて、どうするか。
 トランプ相場にのって、楽団が演奏している間(しばらくは続きそうだ)はダンスに興じるタイタニックの乗客のようにするか、それとも守勢のポジションを取るのか。考え所だ。

2024年12月1日 日曜日

ESGファンド 備忘的メモ

 ESGファンドの欠陥を、インドのアダニグループへの無節操な投資を例にとった記事が11月26日のBloombergに記載されていたので以下記録する。

『ESG(環境・社会・企業統治)ファンド運用者は、インド新興財閥アダニ・グループを巡る市場の混乱で、再び打撃を受けることになった。

  アダニ・グループの創業者ゴータム・アダニ氏が贈賄の罪で米検察当局に起訴されたことを受け、グループ傘下の再生可能エネルギー会社アダニ・グリーン・エナジーの株価は約25%下落した。同社株を保有しているESGファンドは世界で約770本に上る。

  ESGに基づくスクリーニングを通過した同社は、ニュースを聞いた投資家から投げ売りされる結果となった。

  再生可能エネルギーに関する同社の主張について財務面の矛盾を以前から指摘していたアクティビスト(物言う投資家)、スノーキャップ・リサーチの共同創設者ヘンリー・キナズリー氏は、「アダニ・グリーンのガバナンスのひどさは誰の目にも明らかだった」と指摘する。

  空売り投資家ヒンデンブルグ・リサーチは2023年初め、アダニ・グループについて、株価操作や不正会計を何十年も続けているとリポートで指摘していた。それから2年近くを経た先週、米検察当局は、インドの政府高官に2億5000万ドル(約380億円)強の賄賂を渡すとともに、その事実を米投資家に隠した罪で、アダニ氏らを起訴した。

  アダニ・グループは今回の起訴ついて、根拠がないものだとコメントしている。だが投資家がニュースに注目する中、同グループの時価総額は計約270億ドル減少した。同グループが市場に影響する情報の開示義務に違反したかインドの規制当局が調査中とされている。

  アダニ・グリーン株を保有するファンドの大半は、欧州連合(EU)のルールの下で、ESG指標を「促進」するかESGを明確な「目的」とするカテゴリーで販売されている。

欠陥指摘する好機との見方
  770のファンドの運用資産は計約4000億ドルに上り、世界最大級の運用会社が手掛けているものもある。アダニ・グリーン株の保有比率は平均で純資産額の1%未満にとどまる。

  ESGファンドの運用者はESGリスクから投資家を守るため特別なスクリーニングを実施すると想定されており、そのために手数料が通常よりも高くなる場合が多い。それにもかかわらず、ESGラベルは何度も期待を裏切っている。

  ブルームバーグはロシアのプーチン大統領がウクライナに侵攻した際、ESGファンドがロシア資産を保有していると報じた。 保有資産は国債や国営石油・ガス会社に及んだ。 ESGファンドはまた、ガバナンスリスクの高まりに対応できず、昨年前半に米シリコンバレー銀行(SVB)が破綻した際も判断を誤った。

  シンガポールのSGMCキャピタルのポートフォリオマネジャー、モヒト・ミルプリ氏は、数百本のESGファンドが今もアダニ・グリーンに投資している事実は「驚くべきこと」だと指摘する。同氏は、レバレッジに過度に依存している懸念から22年末にアダニ・グリーン社債を売却したと言う。

  ミルプリ氏はアダニ・グリーンについて「現時点で株式を保有する理由はない」とし、ESGファンドによる同社株の保有について、ガバナンスリスクを適切にスクリーニングする能力を「疑わせる」と語った。

  ESGと長年距離を置いてきた投資家らは今回の事例を、欠陥を指摘する好機と捉えている。

   英ヘッジファンド、アルゴノート・キャピタル・パートナーズの創設者兼最高投資責任者(CIO)のバリー・ノリス氏はアダニ・グリーンの事例について、ESGムーブメントに「不正、ごまかし、悪巧み」が潜み、「道徳の衣」でそうした行為を覆い隠していることを示すと話した。』

 ESG投資には米国の保守派が強硬に反対し、共和党の知事がESG投資の差し止めを要求している。この辺りの事情を記したキャノングローバル研究所の論考を引用する。杉山大志研究主幹 『米保守が「ESG」拒否する理由』 産経新聞 2023年4月19日付「正論」に掲載

『「ESGは、米国の存立基盤である経済と自由を脅かす。だからフロリダでは誕生させない」

ESGとは環境(E)、社会(S)、企業ガバナンス(G)を考慮した投資や事業を行うことだ。これまで日本では、ESGは今後「世界の潮流」になると喧伝(けんでん)されてきた。それを真っ向から批判する。

何と強烈な言葉だろうか。これを述べたのは誰かといえば、いま最も注目を浴びている政治家であるフロリダ州知事、ロン・デサンティス氏である。トランプ前大統領に次ぐ人気を誇る、共和党の有力な大統領候補だ。そのデサンティス氏が強力に反ESG運動を率いている。

経済と自由が損なわれる
ESGとは、要は「良い」会社や事業に投資しましょうということなのだが、その「良い」とはいったい何か、それを誰が決めるのか、といった問題が生じる。

民主党のバイデン政権は、投資アドバイザー、投資ファンド、年金基金、金融機関などに対し、投資に際しESGの視点を織り込むよう、ルールを整えてきた。例えば労働省は、年金を運用するに際し、ESGを考慮するよう関係機関に求めるようになった。

これに対し、デサンティス氏は3月16日に「バイデン氏のESG金融詐欺と闘う」という18の州知事との連名での声明を発表した。名を連ねたのはいずれも共和党の州知事たちである。いわゆる米国のレッド・ステートだ。

声明のポイントは2つだ。第1は経済的なもので、運用の在り方がESGによって歪(ゆが)められ、環境などの目的が優先される結果、国民の利益を損なうことだ。第2は自由に関わるもので、選挙されたわけでもない高級官僚や金融機関が、自分たちエリート好みの特定の価値観に沿った投資を強制するのはおかしい、ということだ。

米国ではここ数年、民主党政権の下、性的少数派のLGBT、人種・移民問題、銃規制、そして環境などの様々な問題について、左翼リベラル的な価値が相次いで制度化されてきた。その対象は経済活動にも及び、ESGは最前線で具現するものだった。

まるで「社会主義」と反発
だが、かかる動きは「覚醒した資本主義」と揶揄(やゆ)され、まるで社会主義だとして反対が起こった。伝統的価値を重んじる保守層と軋轢(あつれき)を起こし、党派的な分断が深まった。

デサンティス知事はフロリダ州において州政府のみならず、民間企業の業務からも徹底的にESGを排除するよう、禁止を規定した法案を提出している。この法案が成立すれば、先の声明に名を連ねた18州も類似の法律を制定してゆくとみられ、影響は大きくなるだろう。

ESGへの反対にはもう1つの側面がある。それは州民のお金を預かるほか、州内で事業をしておきながら、ESGを理由に州内の産業に投資をしないことは不適切だ、ということだ。

これまでも石炭、石油、天然ガスの採掘や、それを燃料にして事業を営む企業が、ESGを理由に投資や融資を受けられなくなり、事業の売却を余儀なくされるといった圧力を受けてきた。

だが米国には化石燃料に関連する産業で潤っている州は多い。石油、天然ガスの生産量、石炭の埋蔵量も世界一である。

このため共和党は、バイデン政権の進めるグリーンディール(日本で言う脱炭素)や、その推進手段であるESGの強化には強固に反対してきた。

のみならず、民主党の議員であっても、ウェストバージニア州選出のマンチン上院議員らを筆頭に、化石燃料産業への抑圧には反発がある。

民主党から造反者が出たため、この3月の初めには、米連邦議会で上下両院とも、「労働省の年金基金運用はESGを考慮する」という規則を否定する決議が通ってしまった。結局これはバイデン大統領が拒否権を行使したので無効になったが、米国ではいかにESGが不人気なのかよく分かる。

日本もESG再考の時
それでは気候変動はどうなるのか、と読者は思われるかもしれない。実は米共和党は、気候危機説は誇張が過ぎ、極端な脱炭素は不適切だと認識している。トランプ氏だけが例外なのではなく、デサンティス氏も含めて、共和党の重鎮はみな同じだ。

さて日本はどうするか。経済と安全保障の基盤として、化石燃料利用への投資は必須であり、またいま防衛産業の強化も急務だ。だがESGはこういった産業を投資対象から外す傾向にある。

しかもこれが国民の意見が全く届かないところで、海外の左翼リベラルによる価値の押し付けという形で決定されてゆく、ということで果たしてよいのだろうか。

フロリダ州の経済はデサンティス知事の下で絶好調である。起業が相次ぎ、失業率は低く、世界から投資がなされている。日本もESG一辺倒をやめ、自らの経済と自由を守るべきではないのか。』

 投信家の立場から言うと、運用対象についての制限はない方がパフォーマンスが上がるのが普通だから、投資有対象としてESGにこだわるのは得策とは思えない。

 議論の行方に注目したいが、ESGの波を起こしたのが米国であり、それを消そうとする波も米国から出て来ているところにダイナミズムを感じる。

2024年11月30日 土曜日