ESGファンドの欠陥を、インドのアダニグループへの無節操な投資を例にとった記事が11月26日のBloombergに記載されていたので以下記録する。
『ESG(環境・社会・企業統治)ファンド運用者は、インド新興財閥アダニ・グループを巡る市場の混乱で、再び打撃を受けることになった。
アダニ・グループの創業者ゴータム・アダニ氏が贈賄の罪で米検察当局に起訴されたことを受け、グループ傘下の再生可能エネルギー会社アダニ・グリーン・エナジーの株価は約25%下落した。同社株を保有しているESGファンドは世界で約770本に上る。
ESGに基づくスクリーニングを通過した同社は、ニュースを聞いた投資家から投げ売りされる結果となった。
再生可能エネルギーに関する同社の主張について財務面の矛盾を以前から指摘していたアクティビスト(物言う投資家)、スノーキャップ・リサーチの共同創設者ヘンリー・キナズリー氏は、「アダニ・グリーンのガバナンスのひどさは誰の目にも明らかだった」と指摘する。
空売り投資家ヒンデンブルグ・リサーチは2023年初め、アダニ・グループについて、株価操作や不正会計を何十年も続けているとリポートで指摘していた。それから2年近くを経た先週、米検察当局は、インドの政府高官に2億5000万ドル(約380億円)強の賄賂を渡すとともに、その事実を米投資家に隠した罪で、アダニ氏らを起訴した。
アダニ・グループは今回の起訴ついて、根拠がないものだとコメントしている。だが投資家がニュースに注目する中、同グループの時価総額は計約270億ドル減少した。同グループが市場に影響する情報の開示義務に違反したかインドの規制当局が調査中とされている。
アダニ・グリーン株を保有するファンドの大半は、欧州連合(EU)のルールの下で、ESG指標を「促進」するかESGを明確な「目的」とするカテゴリーで販売されている。
欠陥指摘する好機との見方
770のファンドの運用資産は計約4000億ドルに上り、世界最大級の運用会社が手掛けているものもある。アダニ・グリーン株の保有比率は平均で純資産額の1%未満にとどまる。
ESGファンドの運用者はESGリスクから投資家を守るため特別なスクリーニングを実施すると想定されており、そのために手数料が通常よりも高くなる場合が多い。それにもかかわらず、ESGラベルは何度も期待を裏切っている。
ブルームバーグはロシアのプーチン大統領がウクライナに侵攻した際、ESGファンドがロシア資産を保有していると報じた。 保有資産は国債や国営石油・ガス会社に及んだ。 ESGファンドはまた、ガバナンスリスクの高まりに対応できず、昨年前半に米シリコンバレー銀行(SVB)が破綻した際も判断を誤った。
シンガポールのSGMCキャピタルのポートフォリオマネジャー、モヒト・ミルプリ氏は、数百本のESGファンドが今もアダニ・グリーンに投資している事実は「驚くべきこと」だと指摘する。同氏は、レバレッジに過度に依存している懸念から22年末にアダニ・グリーン社債を売却したと言う。
ミルプリ氏はアダニ・グリーンについて「現時点で株式を保有する理由はない」とし、ESGファンドによる同社株の保有について、ガバナンスリスクを適切にスクリーニングする能力を「疑わせる」と語った。
ESGと長年距離を置いてきた投資家らは今回の事例を、欠陥を指摘する好機と捉えている。
英ヘッジファンド、アルゴノート・キャピタル・パートナーズの創設者兼最高投資責任者(CIO)のバリー・ノリス氏はアダニ・グリーンの事例について、ESGムーブメントに「不正、ごまかし、悪巧み」が潜み、「道徳の衣」でそうした行為を覆い隠していることを示すと話した。』
ESG投資には米国の保守派が強硬に反対し、共和党の知事がESG投資の差し止めを要求している。この辺りの事情を記したキャノングローバル研究所の論考を引用する。杉山大志研究主幹 『米保守が「ESG」拒否する理由』 産経新聞 2023年4月19日付「正論」に掲載
『「ESGは、米国の存立基盤である経済と自由を脅かす。だからフロリダでは誕生させない」
ESGとは環境(E)、社会(S)、企業ガバナンス(G)を考慮した投資や事業を行うことだ。これまで日本では、ESGは今後「世界の潮流」になると喧伝(けんでん)されてきた。それを真っ向から批判する。
何と強烈な言葉だろうか。これを述べたのは誰かといえば、いま最も注目を浴びている政治家であるフロリダ州知事、ロン・デサンティス氏である。トランプ前大統領に次ぐ人気を誇る、共和党の有力な大統領候補だ。そのデサンティス氏が強力に反ESG運動を率いている。
経済と自由が損なわれる
ESGとは、要は「良い」会社や事業に投資しましょうということなのだが、その「良い」とはいったい何か、それを誰が決めるのか、といった問題が生じる。
民主党のバイデン政権は、投資アドバイザー、投資ファンド、年金基金、金融機関などに対し、投資に際しESGの視点を織り込むよう、ルールを整えてきた。例えば労働省は、年金を運用するに際し、ESGを考慮するよう関係機関に求めるようになった。
これに対し、デサンティス氏は3月16日に「バイデン氏のESG金融詐欺と闘う」という18の州知事との連名での声明を発表した。名を連ねたのはいずれも共和党の州知事たちである。いわゆる米国のレッド・ステートだ。
声明のポイントは2つだ。第1は経済的なもので、運用の在り方がESGによって歪(ゆが)められ、環境などの目的が優先される結果、国民の利益を損なうことだ。第2は自由に関わるもので、選挙されたわけでもない高級官僚や金融機関が、自分たちエリート好みの特定の価値観に沿った投資を強制するのはおかしい、ということだ。
米国ではここ数年、民主党政権の下、性的少数派のLGBT、人種・移民問題、銃規制、そして環境などの様々な問題について、左翼リベラル的な価値が相次いで制度化されてきた。その対象は経済活動にも及び、ESGは最前線で具現するものだった。
まるで「社会主義」と反発
だが、かかる動きは「覚醒した資本主義」と揶揄(やゆ)され、まるで社会主義だとして反対が起こった。伝統的価値を重んじる保守層と軋轢(あつれき)を起こし、党派的な分断が深まった。
デサンティス知事はフロリダ州において州政府のみならず、民間企業の業務からも徹底的にESGを排除するよう、禁止を規定した法案を提出している。この法案が成立すれば、先の声明に名を連ねた18州も類似の法律を制定してゆくとみられ、影響は大きくなるだろう。
ESGへの反対にはもう1つの側面がある。それは州民のお金を預かるほか、州内で事業をしておきながら、ESGを理由に州内の産業に投資をしないことは不適切だ、ということだ。
これまでも石炭、石油、天然ガスの採掘や、それを燃料にして事業を営む企業が、ESGを理由に投資や融資を受けられなくなり、事業の売却を余儀なくされるといった圧力を受けてきた。
だが米国には化石燃料に関連する産業で潤っている州は多い。石油、天然ガスの生産量、石炭の埋蔵量も世界一である。
このため共和党は、バイデン政権の進めるグリーンディール(日本で言う脱炭素)や、その推進手段であるESGの強化には強固に反対してきた。
のみならず、民主党の議員であっても、ウェストバージニア州選出のマンチン上院議員らを筆頭に、化石燃料産業への抑圧には反発がある。
民主党から造反者が出たため、この3月の初めには、米連邦議会で上下両院とも、「労働省の年金基金運用はESGを考慮する」という規則を否定する決議が通ってしまった。結局これはバイデン大統領が拒否権を行使したので無効になったが、米国ではいかにESGが不人気なのかよく分かる。
日本もESG再考の時
それでは気候変動はどうなるのか、と読者は思われるかもしれない。実は米共和党は、気候危機説は誇張が過ぎ、極端な脱炭素は不適切だと認識している。トランプ氏だけが例外なのではなく、デサンティス氏も含めて、共和党の重鎮はみな同じだ。
さて日本はどうするか。経済と安全保障の基盤として、化石燃料利用への投資は必須であり、またいま防衛産業の強化も急務だ。だがESGはこういった産業を投資対象から外す傾向にある。
しかもこれが国民の意見が全く届かないところで、海外の左翼リベラルによる価値の押し付けという形で決定されてゆく、ということで果たしてよいのだろうか。
フロリダ州の経済はデサンティス知事の下で絶好調である。起業が相次ぎ、失業率は低く、世界から投資がなされている。日本もESG一辺倒をやめ、自らの経済と自由を守るべきではないのか。』
投信家の立場から言うと、運用対象についての制限はない方がパフォーマンスが上がるのが普通だから、投資有対象としてESGにこだわるのは得策とは思えない。
議論の行方に注目したいが、ESGの波を起こしたのが米国であり、それを消そうとする波も米国から出て来ているところにダイナミズムを感じる。
2024年11月30日 土曜日