世界の動き 2024年10月9日 水曜日

今日の言葉
「モダリティ modality」
 日銀総裁の会見での表現について聞いた言葉だ。黒田総裁は強力なモダリティ、とか、従来の総裁はあいまいなモダリティとかいう表現が使われていた。
 とても日本語訳しにくいのだがwikipediaの説明は以下だ。
『モダリティ (modality) または法性(ほうせい)、様相性(ようそうせい)とは、話している内容や聞き手に対する話し手の判断や態度(attitude)に関する言語表現の概念体系である。
 例えば、「きっと雨が降るだろう」という文では、「雨が降る」ということに対する話し手の推測が「きっと~だろう」によって表されているので、この部分がモダリティ形式であるといえる。モダリティには「きっと~だろう」で表されるような事柄に対する対事モダリティと「おいしいね」「おもしろいよ」の「ね」や「よ」のような形式で表される聞き手に対する対人モダリティとがある。』
 植田総裁は非常にわかりにくいモダリティを使う方だ、と言うように使うようだ。

ニューヨークタイムス電子版よりTop3記事
1.イスラエル、シリアのヒズボラ幹部を標的に
【記事要旨】
 イスラエルは昨日、シリア首都ダマスカスの住宅ビルに空爆を行ったと、匿名でイスラエル当局者2人が明らかにした。イラン大使館付近に着弾したこの攻撃は、武器密輸に関与するヒズボラ幹部を暗殺しようとしたイスラエル軍の試みだったと当局者は語った。
 シリア国営通信社は、ロケット弾により女性や子供を含む民間人7人が死亡したと伝えた。標的となった幹部が死者の中に含まれていたかどうかは不明。ダマスカスのイラン大使館は、イラン国民の死傷者は出ていないと述べた。この攻撃が、先週イランがイスラエルに向けて約200発のミサイルを発射したことに対するイスラエルの約束した報復措置の一部であるかどうかは、明らかでない。
 レバノン:イスラエルは昨日、南レバノンに兵士を増派したと発表し、地上侵攻を強化する可能性があることを示唆した。
 ガザ地区は廃墟に:イスラエルの執拗な軍事作戦の後、ガザ地区の大部分は廃墟になった。
 イランの核施設:イスラエルではイランの核能力を標的にすべきという声が高まっており、米国でも同様の声が上がっている。しかし、イスラエル当局者の中には、それが可能かどうかさえ疑問視する者もいる。
【コメント】
 今度はシリアで空爆だ。イスラエルは何でもありだ。

2.新刊書によると、トランプ氏はひそかにプーチン大統領と連絡を取り合っていた
【記事要旨】
 ジャーナリストのボブ・ウッドワード氏の新刊書によると、ドナルド・トランプ氏は退任後、ウラジーミル・プーチン大統領と7回も秘密裏に会談した。同書ではまた、トランプ氏がパンデミックの最中の在任中、当時は珍しかった新型コロナ検査機器を個人的にプーチン大統領に密かに送っていたとも報じられている。
 ウッドワード氏の著書「War」で明かされた内容は、米大統領選のわずか数週間前にトランプ氏とロシアの指導者との関係について新たな疑問を提起している。トランプ陣営はウッドワード氏の著書を否定した。
 世論調査:最新のニューヨーク・タイムズ/シエナ大学の世論調査によると、ハリス氏は全国でトランプ氏をわずかにリードしている。有権者はまた、現職副大統領のハリス氏を変革の代表として評価する傾向が強い。同僚のアダム・ナゴーニー氏は、これが続けば大きな影響力を持つと述べた。大統領選挙において、有権者の変化への欲求ほど強力な力はほとんどない。
【コメント】
 タイムズはハリス支持を表明しているから、記事の内容全般についてポジショントークを注意して読む必要があるだろう。それにしてもトランプの「自分ならプーチンの戦争は起きなかった」という自信の根拠はこの辺にありそうだ。ビジネスマンらしいgive and takeの考えがトランプ外交の基礎だ。

3.インドの有権者はモディ氏にさらなる驚きをもたらした
【記事要旨】
 注目された2回の選挙は、ナレンドラ・モディ首相にとって複雑な結果に終わった。北部ハリヤナ州では、野党のインド国民会議派が圧倒的な支持を得ていたにもかかわらず、昨日発表されたモディ氏率いるインド人民党の結果は驚くほど良好だった。しかし、ジャンムー・カシミール州ではインド国民会議派とその同盟が圧倒的勝利を収め、争点となっている地域で優位に立とうとするモディ氏の試みは挫折した。
 この選挙は、今夏の国政選挙で同党が衝撃的な過半数議席の喪失を経験して以来、モディ氏の支持率が初めて試されるものとなった。
【コメント】
 モディの1勝1敗のようだ。国政では強権政治に大きな変化が出て来てはいないようだ。国民会議派は民主的な政党に見えるがどうなのだろうか。インドの報道は日本では殆ど無いので詳細は分からない。

その他の記事
米国:
 フロリダ州の湾岸では、ハリケーン・ミルトンを前に数百万人が自宅から避難した。州史上最大規模の避難となる可能性もある。
科学:
 ジョン・ホップフィールドとジェフリー・ヒントンが、先駆的なAI研究でノーベル物理学賞を受賞した。
中国:
 北京は、ヨーロッパ産ブランデーに一時的な制裁を課すと発表し、ヨーロッパ製品へのより広範な関税を検討している。

石破内閣の記念撮影
 日本の首相官邸は、閣僚の一部が乱れた格好をしていたため、閣僚の写真を少し修正したことを認めた。この出来事は、石破茂首相の批判者たちに政治的な材料を提供したが、日本の服装水準が全体的に高いことを浮き彫りにした。

2024年10月9日 水曜日

世界の動き 2024年10月6日 火曜日

今日の言葉
「リセッションの可能性」
 2期連続の景気減速をリセッションと定義するが、その可能性は意外に高い。以下Bloombergの記事。
 『ゴールドマン・サックス・グループのエコノミストは、米国が今後1年でリセッション(景気後退)に陥る確率を15%と、長期的な平均値と同じ水準まで戻した。先週発表された9月の米雇用統計が良好だったことを受けた。チーフエコノミスト、ヤン・ハッチウス氏は6日遅くの顧客向けリポートで、雇用統計は米金融政策当局が11月に利下げペースを25ベーシスポイントへ減速させるとの「われわれの確信を強めた」と述べた。』
 注目すべきは長期的な確率の平均値は15%ということだ。随分高い。米国の大手証券会社のアナリストは慎重なため(日本の商圏会社アナリストとは大違い)リセッションの確率が高まったということが多いが、平均値は15%だと覚えておくと一喜一憂しなくて済む。

ニューヨークタイムス電子版よりTop3記事
1.イスラエル人とパレスチナ人は、喪失の一年を振り返る
【記事要旨】
 10月7日の攻撃から1年を迎えた昨日、世界中で行われた集会や抗議活動は、怒りと苦痛で満ちていた。イスラエル人は、数百人が殺害された音楽祭の会場であるレイムの森で厳粛な追悼式を開いた。人質の家族は、テルアビブの人質広場として知られる大きな公共広場に集まった。
 ガザでは、パレスチナ人が、家が破壊され、生活が一変し、愛する人が殺された、前例のない喪失の一年を振り返った。
 タイムズ特派員のラジャ・アブドゥルラヒム氏に、過去1年間の彼女の報道と、彼女にとって印象に残った瞬間について話を聞いた。
 「戦争が始まって1年が経ち、ガザの人々と話をすると、戦争がどれだけ長く続いたか、停戦交渉が進展せず終わりが見えないことについての落胆ばかりが聞こえてくる」と彼女は語った。「彼らはまた、この恐ろしい戦争から国際社会の関心が離れてしまったとも話します。この戦争は、小さなパレスチナ領土に想像を絶する死と破壊をもたらしました。」
 1年が経ち、戦争の唯一の勝者である憎悪はイスラエルとパレスチナの二国間平和の灰の上にそびえ立ち、中東全体に広がる恐れがある。
 イスラエル軍は昨日、レバノン南部のヒズボラの標的に大規模な攻撃を行い、さらに部隊を派遣したと発表した。ハマスが珍しいロケット弾攻撃でテルアビブを標的にした後、ガザも攻撃した。
【コメント】
 「憎悪だけが唯一の勝者」。解決は全く見通せない。

2.ミシガン州のアラブ系有権者はハリス氏を拒否
【記事要旨】
 多くのアラブ系アメリカ人は、ガザ、そして現在はレバノンで戦争を繰り広げているイスラエルに対するバイデン政権の支援に憤慨している。アラブ系アメリカ人とイスラム教徒の有権者が多数を占める重要な激戦州であるミシガン州ほど、このことが政治的に重要な場所はない。
 デトロイト地域では、民主党候補への支持がほぼ消え去ったことが、今週末の有権者、活動家、地域リーダーへのインタビューで明らかになった。一部の有権者は、カマラ・ハリス氏ではなく、第三党候補やドナルド・トランプ氏への支持を検討している。「イスラエルには一切関与してほしくない」と、有権者の一人、ファティマ・クライト氏は語った。「でも、トランプ氏なら海外で与えるダメージは少ないと思う」
【コメント】
 激戦州での人種グループの投票動向は選挙戦の結果に影響をおよぼす。大学でデモを繰り広げていた若者はどう投票するのだろうか。

3.人間の寿命はピークに達したのか?
【記事要旨】
 過去1世紀にわたり、医療と技術の進歩により、平均寿命は大幅に延びてきた。しかし、1990年から2019年までのデータを調べた新たな研究では、多くの国で平均寿命は延びたものの、その伸び率は鈍化していることがわかった。
 新たな研究は、70代、80代、90代まで生きる人が増えている一方で、平均年齢をそれ以上に引き上げることは難しいだろうと示唆している。「基本的に、今生きているのと同じくらい長く生きられると示唆している」と、この研究を率いたS・ジェイ・オルシャンスキー教授は述べた。
【コメント】
 うん。だから何ですか?という記事だ。

その他の記事
ノーベル賞:
 ビクター・アンブロス氏とゲイリー・ルヴクン氏は、細胞がどのように発達し機能するかを決定するのに役立つマイクロRNAの発見により、生理学・医学賞を受賞した。
チュニジア:
 カイス・サイード大統領が出口調査で簡単に再選を果たしたことが示され、アラブの春発祥の地に権威主義が戻ってきたことを示す最新の兆候となった。
フィリピン:
 2022年に大統領を退任するロドリゴ・ドゥテルテ氏は、家族の政治的拠点であるダバオ市長に立候補する書類を提出した。

2024年10月6日 火曜日

世界の動き 2024年10月7日 月曜日

今日の言葉
「10月7日」
 ハマスのイスラエル急襲から1年たった。イスラエルはハマスに対し10倍返しをしたが人質約100人が未だに解放されていない。
 ハマスの主張は「イスラエルの圧政と武力行使への抵抗」であり。イスラエルは「イスラエルへの反抗には武力鎮圧」だから、最初から議論の方向が全く噛み合っていない。
「小の虫(人質)は殺しても国是を押し通す」イスラエルの国策は、ヒズボラとの戦争、更にイランとの戦争へと突き進んでいる。戦争の鎮火は見通せない。
 時あたかも、日本では石破政権が誕生した。政策論議よりも、ひな壇での記念写真の服装が取りざたされている。
 平和な国だと思う。

ニューヨークタイムス電子版よりTop3記事
1.10月7日の攻撃以来、戦争は1年
【記事要旨】
 10月7日のハマス主導のイスラエル攻撃から1年が経った。当局によると、この攻撃では1,200人が死亡し、さらに約250人が誘拐された。パレスチナ保健当局によると、その後の戦争で41,000人以上のパレスチナ人が殺害され、その多くは民間人と子供だという。戦闘は3つの戦線に拡大し、停戦に至る道筋は不透明だ。この問題のスペシャリストに聞く。
Q: 昨日、イスラエルでの追悼式の準備に恐怖が広がっているとの記事を書かれましたが、ここ数日の雰囲気について説明していただけますか。
A: 1年を迎えるにあたり、イスラエルの雰囲気は、控えめに言っても暗い。終結の兆しがあるどころか、拡大する戦争は今後さらに困難な日々を予感させる。
Q: 過去 1 年を振り返って、何を思い出しますか?
A: ハマスが率いる 10 月 7 日のイスラエル南部への攻撃の直後、予備役のベテラン大佐が私に、ガザの狭い沿岸地帯におけるハマスに対するイスラエルの反撃には少なくとも 1 年、あるいは 2 年、あるいは 3 年かかるだろうと語りました。
 当時、私はそれを信じることができませんでした。1 年が経ち、その長い戦争は他のいくつかの戦線で拡大し激化しており、終わりは見えず、苦しみの底なしの穴があるだけです。
 生活や仕事で気を紛らわすことは、軽薄で不適切だと感じます。悲しみ、喪失、切望に包まれた地域では、祝う余地はありません。誕生日は祝われ、宗教的な祭りが祝われます。個人的な痛みは相対的であり、常に他人の苦悩の巨大な規模と比較されます。
Q: この紛争に関する過去 1 年間の報道で、何を学びましたか?
A: 戦争は社会の限界を試します。私は、ガザに連れて行かれた人質の親族など、普通の人々の回復力について学びました。一瞬にして人生を一変させられた両親、兄弟、パートナーは、それ以来、世界の指導者と会うために世界中を駆け巡り、愛する人たちのために疲れを知らない抗議活動を国内で行っています。そして、ガザの民間人は、これまで何度も避難を強いられ、雨の多い冬、焼けつくような暑い夏、そしてまた別の秋をテントで過ごしてきました。また、戦時中、どちらの側でも相手に対する共感が乏しいことも学びました。
最新ニュース:
 保健当局によると、ガザ地区でのイスラエルの空爆は、モスクと避難所となっていた学校を標的とし、26人のパレスチナ人を殺害しました。
 イスラエルの新しい地図には、ガザ北部のほぼすべてが「新しい避難地域」として指定されています。
 フランスのエマニュエル・マクロン大統領は、ガザ紛争のためにイスラエルへの武器の輸送を停止するよう各国に要請しました。
【コメント】
 タイムズに珍しい主情的な記事だ。記者にいわれるまでもなく殺戮の連鎖で無辜の住民の地獄の苦しみが続いている。

2.トランプ氏の演説が年齢問題を再燃させる
【記事要旨】
 78歳のドナルド・トランプ氏は、主要政党の大統領候補としては史上最年長であり、当選して次の任期を全うすれば史上最年長の大統領となる。トランプ氏は常に饒舌で、しばしば真実に縛られていないが、公の場での発言や発言を振り返ると、時が経つにつれ、演説は暗く、長く、怒りに満ち、焦点が定まらなくなっている。
 最近の例としては、今月初め、トランプ氏がカマラ・ハリス副大統領との討論会に出席した群衆は自分の味方だと述べたことがある(聴衆はいなかった)。 しかし、トランプ氏が最近混乱したり、物忘れが激しく、支離滅裂だったり、現実から切り離されているように見えたのは、これが初めてではない。実際、最近ではそのようなことが頻繁に起こるため、もはやあまり注目されない。
 詳細:タイムズ紙のコンピューター分析によると、トランプ氏の集会での演説は2016年に比べて2倍近く長くなっている。また、トランプ氏は8年前よりも「常にalways」や「決してnever」といった「全か無かall-or-nothing」という類の表現を多く使用しており、一部の専門家はこれを加齢の兆候とみている。
【コメント】
 バイデンと並ぶとトランプは若々しく見えたが、ハリスと並ぶと「老けて、怒りっぽい」老人に見える。

3.気候変動がアマゾン川を焦がしている
【記事要旨】
 気候変動が引き起こした干ばつに見舞われたアマゾン川は干上がっている。南米を4,000マイル近くも蛇行するこの川のいくつかの区間の水位は、先月、記録上最低となった。
 この危機により、森林地帯のコミュニティを結び、地球上で最も辺鄙な地域を巡って商取引を行う唯一の手段となっているアマゾンは機能不全だ。状況が一向に改善する兆しが見られない中、ブラジルはかつては考えられなかったかもしれない異例の措置に頼った。世界最大の川を深くするというものだ。
【コメント】
 世界最長の大河をどのように深くするのだろうか。周辺の熱帯雨林を保全し雨を確保できなければ「焼け石に水」にしかなるまい。

その他の記事
英国:
 キール・スターマー英首相の首席補佐官スー・グレイ氏が昨日突然辞任した。
パキスタン:
 政府は、同国の強力な軍を長らく批判してきたパシュトゥーン人権利運動を禁止した。
バチカン:
 フランシスコ法王は、よりグローバルで、よりヨーロッパ中心的でない教会というビジョンに沿って、21人の新しい枢機卿を任命した。

2024年10月7日 月曜日

Board 3.0 (その2)

  Board 3.0が上手くいった典型例を紹介したい。

 北九州の飲食チェーンS社に6年半前にファンドが投資を実施。その際トップ経営者を入れ替え、筆者はファンドの指名により監査役に就任した。この度、めでたくファンドから飲食チェーン大手に持株が売却され、Exitが成立した。筆者の監査役もお役御免となった。

 この6年で、A社の内部統制は飛躍的に改善した。
 ・ファンド出資時には実施されていなかった大手監査事務所による会計監査を3年前から実施。
 ・3年前から内部監査室を開設し、業務監査を開始。
 ・監査事務所、内部監査、監査役による三様監査連絡会を適宜実施。
 ・会社規程類の全面的見直し。
 ・内部監査室の社長と監査役へのダブルレポートラインの確立。
 ・内部監査室の経営会議への参加。

 こうした体制整備は、ファンドの後押しと、A社経営陣の受容、A社従業員の意識変化がなしにはできなかった。

 この間、飲食業界にありがちな労働環境を巡る諸問題の解決、セクハラ・パワハラの顕在化による社内での調査等に、筆者は監査役として関与してきた。

 いろいろな問題を解決するごとにA社は内部統制の改善をステップとして企業価値の向上も達成してきた。そして今回の、大手飲食チェーンへの成功裏の売却につながったと言える。

 Board3.0の成功例をその一員として経験できたのは嬉しいことだった。

2024年10月6日 日曜日

Board3.0 (備忘録的メモ)

「Board3.0」はガバナンス改革のパラダイムを変えるのか
           2022年04月01日 山田英司 より

『ガバナンス改革で「監督」機能は強化されたが……
 2015 年以降、日本ではコーポレートガバナンス・コードの施行と、その後に続いた各種の実務指針の公表によって、企業における具体的な取り組みの方向性が示されてきた。これらによる一連のガバナンス改革における重要なポイントの一つは、取締役会の改革にある。具体的には、執行と監督を分離し、取締役会は主に監督を担うという、いわゆるモニタリングモデルへの移行を求めるものである。実際、昨年6 月のコーポレートガバナンス・コード改訂でも、監督機能を果たす独立社外取締役の増員や、スキル・マトリックスの作成・開示を要請するなど、質・量双方の充実を求めている。
 こうしてガバナンス改革が進む一方で、現実にはガバナンス問題が顕在化する企業が後を絶たない。そのため、これまでのガバナンス改革に対しては形骸化の指摘のほか、改革の有効性を疑問視する声さえも上がっている。
 ガバナンス改革は、「監督」および「執行」両機能の強化を図るのが本来の姿である。しかし、近年では「監督」機能の強化に傾きがちであったことが、こうした批判の背景となっている。今後は、監督および執行の両面から、取締役会の機能の在り方への議論を深めることが必要となる。

米国で提唱される「Board3.0」とは
 このような課題は、ガバナンスで先行する米国でも早くから認識されている。ロナルド・ギルソン教授(スタンフォード大学/コロンビア大学)とジェフリー・ゴードン教授(コロンビア 大 学 ) は 、 共 著 の 論 文 「 Board3.0: What the Private-Equity Governance Model Can Offer to Public Companies」において、長期投資家が取締役を選定する形で経営に参画するという「Board3.0」を提唱した。
 この論文では、執行へのアドバイスを主眼とした 1950~1960 年代の取締役会(Board1.0)が、企業の不正・違法行為を察知・抑制する機能を果たせないことから、1970 年代以降、執行から独立して監督機能を果たす「Board2.0」へと転換を遂げた、としている。しかし、事業環境の変化や戦略の複雑化、企業の巨大化などに対し、Board2.0 の独立社外取締役では、情報やリソース、意欲の面で制約があることを指摘した上で、これを克服するものとして「Board3.0」を提唱する内容となっている。
 Board3.0 は、豊富な情報とリソースと意欲を有する社外取締役を長期投資家が選定し、Board2.0 における独立社外取締役中心の取締役会に参画させる形となっている。これによって、取締役会の機能を高め、企業価値の向上を促せるとしている。

日本企業の「Board3.0」は「Board1.0+2.0」で実現
 この「Board3.0」は、今後の日本企業にどこまで浸透し、有効に作用するのであろうか。現在、日本では、コーポレートガバナンス・コードの再改訂によってガバナンス改革が進みつつあるが、現状は業務執行取締役が多数を占めるマネジメントモデルである「Board1.0」から、独立社外取締役が執行を監督するモニタリングモデルである「Board2.0」への転換途上である。そのため、執行の監督を意識する社外取締役と、経営の助言役という認識にとどまる社外取締役が混在する状態となっている。もちろん、グローバルな投資家の要求に応えるためにも、取締役会における監督機能の強化は必要であることから、独立社外取締役の質・量双方での充実は継続して必要となる。しかし、その一方で、日本企業の課題としてかねてから指摘される「稼ぐ力」の強化については、監督機能の強化だけでは対処が困難である。
 そこで日本においては、「Board2.0」から「Board3.0」への パラダイムシフトというよりも、「Board1.0+2.0=Board3.0」と いう形での取締役会の機能強化がより自然な形ではないか。「Board2.0」を否定せず、監督機能を担う独立社外取締役を維持しつつ、中長期視点で企業価値向上に向けての助言を行う社外取締役を迎え入れる。つまり、2 種類の社外取締役によって「攻め」と「守り」のガバナンスを充実させるのである。もちろん、戦略に関与する社外取締役については長期投資家が選出することが唯一の選択肢ではなく、利益相反の回避にも十分な配慮が必要である。しかし、周回遅れのガバナンス改革のスピードを速めるためにも、日本企業の実態に即した「Board3.0」の議論が必要と筆者は考える。』

2024年10月5日 土曜日