『孫子』再読

『孫子』は紀元前500年頃(春秋戦国の時代)の軍事思想家孫権が著したと言われる兵法書で、現在でも世界各国で広く読まれている。岩波文庫のKindleなら無料で読める。

【孫子の戦争観】
 「兵は国の大事にして、死生の地、存亡の地なり。察せざるべからず」(戦争は国家の大事であって、国民の生死、国家の存亡がかかっている。よく考えねばならない)
 戦争は、戦争という一事象のみから考察するのではなく、国家の運営と戦争との関係を俯瞰する政略から導き出されたものである。
「国を全うするを上と為し、国を破るは之に次ぐ」
「百戦百勝は善の善なるものに非ず」むしろ戦わずして敵を屈服させる方が優れている。
 偉大な戦略家は最も効果的なところで力を使う策略の名手でなければならない。「敵の兵力の優秀なところは避け、敵の備えが手薄なところを攻撃する」
 「上兵(最上の戦い方)」とは、敵の戦略を打ち破る、あるいは「謀を討つ(敵の計略を未然に防ぐ)」ことだ。さらに「交(敵と連合国の外交関係)」を絶つこと。さらにその次が「兵(敵の軍)」を攻撃することだ。稚拙なのは敵の城を包囲することだ。
 戦争長期化によって国家に与える経済的負担を憂慮する。と述べている。

【感想】
 紀元前500年頃にこのような国家戦略を述べた書物が著されたとは驚きだ。
 孫子の考えが、現在のウクライナ情勢に完全に当てはまるのがよくわかる。プーチンもバイデンも、もう一度、頭を冷やして戦いを避ける工夫をしてほしいものだ。

(2022.2.17 Thursday)

世界の動き 2022.2.17 Thursday

N.Y. Times 電子版より

1.西側はロシアの撤退を確認せず
【記事要旨】
 米とNATOは、プーチン大統領の、外交努力の継続と一部兵力の撤退、との表明の実行を見ているが、いまだ兵力の撤収は確認されていない。
 ブリンケン国務長官は、Unfortunately there’s a difference between what Russia says and what it does. And what we’re seeing is no meaningful pullback. On the contrary, we continue to see forces. と語っている。NATOも同様の見解で中欧での大規模戦闘に備えている。
 ロシア国防省は一部撤兵のビデオを発表した。
 プーチンが海外首脳との会談に使った巨大な白いテーブルが話題に。二つのメーカーがわが社製だと発表。
【感想】
 お互いにどこまで相手の状況を把握しているかは情報戦の一種で双方の発表をどこまで信用できるか注意が必要。
 言行不一致は国際政治ではよくある話だが、外交的解決に一歩進んでいるのは確実とみる。

2.香港でコロナ感染が拡大
【記事要旨】
 香港での急拡大を受け、習主席はあらゆる手段を講じるように指示。
 過去2年、香港はコロナを上手くコントロールしてきたがオミクロン株の拡大でコントロール不能になってきたと香港長官は語った。
 中国本土のゼロコロナ政策で、香港ではコロナとの共存政策は取れない。
 夏までに1000人以上の死者が出る恐れがありこれは過去二年の死者総数の4倍との予想が出ている。
【感想】
 「一国一制度」下の香港は、中国本土での感染拡大の糸口になりかねないと思われる。香港と接する、深圳や珠海での感染に注目したい。

3.日本の組合の変化を起こす女性
【記事要旨】
 性差別、賃金差別、セクハラが無視されてきた日本の労働組合では、多くの女性が組合活動を断念してきた。日本最大の労働組合組織である連合の会長に芳野友子が就任し、それらを変えようとしている。最初の課題は賃金の上昇を目指す春闘だ。
 男女間の平等を目指す方針は大きな支持を集めており、傘下の組合に結果を出すように圧力をかけていると芳野は語っている。
 ワールドエコノミックフォーラムによれば日本の男女平等は世界の156か国中120位で、先は長い。
【感想】
 N.Y. Timesに大きく取り上げられたのはGood!
 私がカナダの銀行でCOOをしていたころJob Equityに取り組んだことがある。1995年頃の昔の話だ。全ポジションに点数をつけて、同じ点数の人は同じ給料にするという大掛かりな作業だった。男女間の差別は当然許されなかった。
 日本は随分遅れている。政府のせいもあるが労働組合の怠慢も大きいと思う。そうした怠慢と、大企業労働者・官庁労働者としての特権維持活動が、結果的に20%を下回る組合の組織率につながっている。
 芳野氏指導下の連合の政府協調路線がどう実を結ぶか見守りたい。労働者が割を食わないように頑張ってもらいものだ。

その他:
トップもワークライフバランス?ボーナスもらって辞める言い訳でしょ。
The Great Resignation has reached the executive level, with leaders of companies quitting over burnout and work-life balance issues.
アジア系の俳優の悲哀。老兵は皆同じですな。
Older Asian American actors have often been limited to playing frail grandparents. “Older people in the theater exist. We’re here, we’re underused and we have experience.”

(2022.2.17 Thursday)

Nine Lies About Work 「仕事に関する9つの嘘」を読んで

昨年末に買い、積ん読していたが、先週末から読み始め、読了した。

【著者のアプロ―チ】
 著者は9つのウソ(誤解)を説明し、ホント(正解)は何かを示す。
 例えば、
ウソ#1 「どの会社」で働くかが大事
ホント#1 「どのチーム」で働くかが大事
  何故なら、そこが実際の仕事が行われる場所だから
ウソ#6 人は「他人」を正しく評価できる
ホント#6 人は「自分の経験」なら正しく評価できる
  何故なら、それしか頼れるものがないから
という具合だ。
 9つの「ウソ」と「ホント」を手っ取り早く知りたい人は、https://www.youtube.com/watch?v=V_mR5k8vuFc を見ると、英語だが、わかりやすいだろう。

【筆者が得たもの】
 他人を正しく評価できないとすれば、自分の経験に置き換えて考えられるような質問を評価者に対してすべきなのだ、と著者は説く。
 例えば、
・並外れた成果をあげたい場合、あなた(評価者)はこの人(評価対象者)の力を借りますか?
・この人にはあなたが対処しなくてはならないパフォーマンス上の問題がありますか?
というような質問で、評価者の「自分の経験」を聞き出すのが可能だ。
 また、部下が動くのは「意味」と「目的」を理解した時だけだ、というのも箴言だ。

【結論】
 著者の、9つのウソとホントは平板でありきたりの結論に思えるが、全編にわたり使えそうなアドバイスに富んでおり、一読を進めたい。

(2022.2.16 Wednesday)

 

世界の動き 2022.2.16 Wednesday

N.Y. Times 電子版より

1.プーチンはロシア軍の一部撤収を表明
【記事要旨】
 プーチン大統領は軍の一部撤収を決定したと表明した。しかしバイデン大統領は、戦争の危機が去ったわけではなくロシア軍は依然強大で侵攻の可能性が遠のいたのではない、と表明。
 プーチンの発言前に会談した独ショルツ首相は、ロシアの主要な要求は変わっていないと表明。どれだけの兵力が撤収されるかは不明でありNATOは事態の鎮静化の兆候はないと語る。
 米はウクライナの27億ドルの軍事支援をしているが、かかる軍事力はロシアの大規模な侵攻に対しては不十分。
 プーチンはこの間ラテンアメリカ諸国に個人外交を展開。
【感想】
 米政府はまだ危機感をあおっているが市場は一安心の様相。
 今後はプーチンの思惑ではなくバイデンの思惑に注意する必要がある。何度も言ってきたが、それぞれのポジショントークを解読することが重要。

2.オタワの警察長官が国家緊急事態発令下辞職
【記事要旨】
 彼の対応は遅く不十分だったとの批判を受け、トルドー首相が国家緊急法を発令してから24時間以内に辞任した。
 50年来はじめて発令されたこの法律は連邦政府に事態解決に強大な権限を与えるもの。
【感想】
 今回の騒動は、穏健で、遵法的で、極端に走らないというカナダについての印象を大いに変えるものだった。日本にも何かの示唆にならないのでしょうかね。

3.習主席は冬のスポーツへの熱狂を約束し実行した
【記事要旨】
 7年前に2022年の冬季五輪を招致した際に殆ど雪の降らない中国での冬のスポーツブームを約束した。
 今は、全国にスキーリゾート、スケートリンクがオープンし、大ブームになっている。西部の青海省はカーリングの一大拠点になった。2025年までに、中国では1570億ドルのウィンタースポーツの市場が予想されている。
 オリンピックの間、中国のSNSで大きく取り上げられたのは二人の女性。 One is the 18-year-old skiing star Eileen Gu; the other is a mother of eight who was found chained by her neck to the wall of a doorless shack.(筆者:ここはN.Y.Timesらしい嫌味)
【感想】
 20兆円弱の市場創設とは中国の力はすごい。日本の高度成長期のスキーブームを髣髴とさせる。北海道のリゾートに中国人スキーヤーが大挙押し掛ける事態もありうるかもしれない。ちょっといやですがね。

その他:
日本のGDP
Japan’s economy grew by an annualized rate of 5.4 percent during the fourth quarter of 2021, a major surge likely to be followed by an Omicron-linked contraction.
 日経の官製報道のまま紹介されており、海外には良い影響か。

ワクチン拒否の信念つよい
 Novak Djokovic said he was prepared to miss the French Open and Wimbledon over possible vaccine requirements.

4回目が一般化か
Sweden recommended a fourth dose of the coronavirus vaccine for people 80 and older.

(2022.2.16 Wednesday)

食べ物が人間を規定する

Dis-moi ce que tu manges, je te dirai ce que tu es.
「君が食べているものを私に言いなさい。私は君がどんな人かを言ってあげよう。」19世紀フランスの美食家ブリア=サヴァランの有名な言葉だ。

 階級社会の色彩が強い西欧では、階級により食べ物が異なるので、何を食べているかは身体だけでなくその人の人格も形成することになる。何を食べているか聞けば、その人の出自や階級がわかるのだ。
 フランスのまっとうな中学の給食をTVで見たことがあるが、前菜とメインが二品、デザートありで、彼我の給食の違いに愕然とした。

 日本ではどうか。
 以前、伊集院光のラジオ番組で、彼が「給食でクジラベーコンを食べ、家の夕食でクジラベーコンを食べ、自分の身体の多くがクジラベーコンで出来ている」と言っていた記憶がある。1970年頃の高度成長から一億総中流の時代は、皆同じような食生活で満足していたと言えるのかもしれない。

 現在の日本では子供の7人に一人が相対的貧困にあると言われ、子供食堂でしかまともな食事が出来ない子供たちがいる。一方、高級レストランが大流行りだ。大いなる格差社会の現在、日本でもブリア=サヴァランの言葉が説得力を持つようになってきた。

 自分はどうか。
 20年以上前、ニューヨークの勤務していたころ、毎朝ベーグル+クリームチーズとコーヒー(合計3ドル)を地下鉄の出口で買ってオフィスに持ち込んでいた。いまは大分と高くなっているのだろうか。
 伊集院氏の言い方をすれば、当時の自分の3分の一はベーグルとコーヒーで出来てたのだ。多くのインベストメントバンカーたちもそんな感じだったはずだ。

(2022.2.15 Tuesday)