「命の経済 パンデミック後新しい世界が始まる」ジャック・アタリ 

読まなかった本の感想文(第一回)

この本はずっと枕元に置いていたが、年末年始の時間にやっと読むことができた。

印象:博覧強記の政治家であり作家、当代きっての文化人の謦咳に触れることができる。

表題の命の経済とは:

 著者の説く「命の経済」の概念を要約するのはとても難しい。
 パンデミック禍に株式市場ではStay at home銘柄が注目されたが、命の経済の大宗は市場の外にあるエッセンシャルな人的サービスによりもたらされるものだ。
 社会的/国際的な弱者を含む人の命を守ることを優先した経済システムを確立すべきであり、そのためには、教育は死活的に重要であり、食生活の改善や、環境保護も重要だ。
 こうした動きは営利追求型経済から非営利型経済への変化をもたらすことになる。こうした動きは、従来の資本主義とそれを支える人と物の狂った発展にその限界を見出させることになるかのようだ。

利他主義:

 著者の根底には、限られた地球の中で利己主義では生きて行けない、Altruism is the most rational form of selfishness. という考えが透徹している。こうした考えこそがポストコロナの時代に希望を持たせることになる。

 

結論:

専制主義に打ち勝つ「闘う民主主義の5原則」や、米中の覇権争いの行方への洞察等々、全編にわたり目からうろこの連続の良書。一読をお勧めします。

(2022.1.1)

年々や猿に着せたる猿の面

ブログの更新をさぼっていたので読者の皆さんから「何しているんだ」というお叱りを時々頂いた。

今日は大晦日。
うっとうしかった2021年も大団円である。
年の終わりにあたり、意を強くして、久しぶりに更新する次第だ。

題名は、正月を読んだ芭蕉の句だ。
アメリカの友人が年末の挨拶メールで引用していたので
久しぶりに思い出した句だ。

解釈は簡単ではない。
「年々猿回しが正月になると家にやってくる。
猿に猿の面をかぶせても中身は猿のままで変わりはしない。
人間も同じで新年だと言って改まって見せても変わりはしない。」
という意味だ。

久保田万太郎の名句。「去年今年 貫く棒の 如きもの」でも変わらない歳と人間が述べられており、こうした考えは我々の好みなのかもしれない。

コロナ禍で心も身体も鈍ってきており、このままではちょっと不甲斐ない。
今年は今年の抜け殻として、
来年はより良き年にするために少し歩を進めたい。

(2021.12.31)

内部統制が機能しないという言い訳(2)

前回の記事で最も気になるのは、「カンタツ内部の問題とともに、グループ内部統制の機能が奏功せず、親会社としての管理が不十分であった」というシャープの説明だ。

内部統制が機能しなかったので不正会計事象が発生した、という説明は、東芝(利益かさ上げのための不正会計事件)でも、商工中金(全店を挙げて顧客の資料を改ざんしてまで災害融資を拡大)でも、日本郵政(かんぽで顧客を無視した保険の継続や解約によるノルマの達成)でも見られたことだ。

この「内部統制が機能していないから事件が起きた」という説明は一流大企業で使われ、わが国では広く受け入れられているように思われる。しかしながら、これは「試験勉強が出来なかったからテストの出来が悪かった」というようなもので、説明になっていない点を認識すべきだ。何故試験勉強が出来なかったを説明すべきなのだ。

内部統制が機能しなかったとすれば、何故機能しなかったのか、そもそもまともな統制が整備されていたのか、曲がりなりにも整備されていたとすると、内部統制のどこに不備があったか、なぜ機能していなかったかを分析しなければならない。

こうした分析の第一歩は、我が国の金融商品取引法における内部統制整備において求められる≪内部統制の基本的要素≫が組織に具備され有効に機能しているか確認することだ。

内部統制の基本的要素は以下の6つだ。
統制環境
リスクの評価と対応
統制活動
情報と伝達
モニタリング
IT(情報技術)への対応

今回はここまで。
次回は、これらの基本的要素の勘所を説明したい。

(2021.3.14)

内部統制が機能しないという言い訳(1)

シャープの子会社であるカンタツをめぐる不正会計事件が発生した。シャープの当該事件に対する説明は、日本の大企業によくある典型的な説明になっているのでどこが問題か指摘したい。

事件について詳しくPHILE WEBの記事(2021.3.12 徳田ゆかり氏による)を引用して説明したい。
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 シャープ(株)は、本日の2020年度3Q決算説明会において、「調査委員会の調査報告書の受領に関するお知らせ」として発表された、同社の連結子会社であるカンタツ(株)の不適切な会計処理についての説明と謝罪を行った。

 カンタツはスマートフォン等に搭載されるカメラのマイクロレンズユニット分野で有数の企業と説明されている。シャープでは、従前から同社が製造するレンズユニット製品を仕入れ、これを組み込んだカメラモジュール等の製造・販売を行い、カンタツへの出資も行っていたが、2018年1月、仕入れから製造販売まで一気通貫のグループ体制を構築すべく、カンタツが発行した新株予約権付社債を普通株式に転換することにより子会社化したもの。

 シャープでは、カンタツにおいて多額の売掛金の滞留があったことからその経過・原因について調査を実施した結果、2018年度から2020年度まで取引先からの注文がないままに売上が計上されていること(架空売上)などの複数の不正や誤謬の事象を確認したという。これらによるシャープの連結決算への影響額は、売上高で75億円、調整前当期純利益で76億円と報告された。

 こうした背景として、シャープの執行役員 管理統轄本部 管理本部長 榊原聡氏は、「カンタツ内部の問題とともに、グループ内部統制の機能が奏功せず、親会社としての管理が不十分であった」と説明。「2度と起こさないため、会計基準の遵守等のコンプライアンスに関する意識の醸成や会計知識の強化などの再発防止策を講じる必要がある」とした。

 シャープの代表取締役社長 兼 COO 野村勝明氏は、「皆様にご迷惑とご心配をおかけしておりますことを非常に重く受けて止めております。株主や投資家の皆様をはじめ、関係者の皆様に深くお詫び申し上げます。再びこのような問題を起こさないよう、再発防止策を確実に実行し、継続的にさらなるガバナンスの強化に取り組んで参ります」と謝罪の言葉を述べた。
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長くなるので、論考部分は、次回で説明させてください。

(2021.3.14)

自由で開かれたインド太平洋の幻

菅首相や茂木外相が得意とするのが「自由で開かれたインド太平洋」という言葉だ。この言葉は安倍首相が2007年のインド訪問時に使い始めた言葉で、その後、強権化する中国の台頭を防ぐ意味合いで日本およびトランプ政権下の米国でも使われるようになってきた。

中国包囲網としてのQuad(日本、オーストラリア、インド、米国のソフトな連携)は日本では好意的に報道されている。

最近号のForeign Affairsで、防衛網としての「開かれたインド太平洋」が米国には愚策だとする興味深い論文を見つけたのでご紹介したい。
America’s Indo-Pacific Folly by Van Jackson

論文の主旨は、米国のアジア戦略は、東アジアと太平洋に軸足を置いてきて、これまで地域の安定に成功を収めてきた。戦略をインド洋にまで拡大するのは愚で大失敗に終わるだろう、というショッキングなものだ。

理由は以下だ。
・インド洋には米軍の拠点は無く大兵力を急速に派遣することは困難だ。
・現在の危急の問題は台湾の防衛であり、Quadに参加することは役に立たない。
・日本・韓国といった同盟国と協力し、グアム、沖縄基地を有効に使えば東アジアでの紛争を防ぐことが出来る、
・インドは中国と紛争を抱えているがそれはカシミールでありインド洋ではない。インド洋でのインドとの協力は考えられない。
いずれもなかなか説得力のある論点だと思われる。

したたかな中国に対抗するには「自由で開かれたインド太平洋」という概念は美しい。ただ、その理念を我が国が標榜するからには、防衛面で効果のある協力体制を描いて、築いて行く必要がある。日本にはとても荷が重い。

米国が東アジア重視と言っても、日本の尖閣列島防衛にはどれほど効くのか疑問が残る。米国は尖閣は日米安保の適用対象と言っているが尖閣諸島の所有権の判断は留保したままだ。

ここ数年は日本の浮沈がかかる重要な時期だ。日本の賢明なかじ取りが今のリーダーたちに出来るだろうか。また、我々に何が出来るのだろうか。

京都大学の藤井聡教授は「抗中(中国にあらがう)」という言葉を打ち出している。軍事、政治、経済で強権化を隠さない中国に対して、こうした考え根底に我が国も動くことが必要な時期に来ているのかもしれない。

(2021.3.14)