自由で開かれたインド太平洋の幻

菅首相や茂木外相が得意とするのが「自由で開かれたインド太平洋」という言葉だ。この言葉は安倍首相が2007年のインド訪問時に使い始めた言葉で、その後、強権化する中国の台頭を防ぐ意味合いで日本およびトランプ政権下の米国でも使われるようになってきた。

中国包囲網としてのQuad(日本、オーストラリア、インド、米国のソフトな連携)は日本では好意的に報道されている。

最近号のForeign Affairsで、防衛網としての「開かれたインド太平洋」が米国には愚策だとする興味深い論文を見つけたのでご紹介したい。
America’s Indo-Pacific Folly by Van Jackson

論文の主旨は、米国のアジア戦略は、東アジアと太平洋に軸足を置いてきて、これまで地域の安定に成功を収めてきた。戦略をインド洋にまで拡大するのは愚で大失敗に終わるだろう、というショッキングなものだ。

理由は以下だ。
・インド洋には米軍の拠点は無く大兵力を急速に派遣することは困難だ。
・現在の危急の問題は台湾の防衛であり、Quadに参加することは役に立たない。
・日本・韓国といった同盟国と協力し、グアム、沖縄基地を有効に使えば東アジアでの紛争を防ぐことが出来る、
・インドは中国と紛争を抱えているがそれはカシミールでありインド洋ではない。インド洋でのインドとの協力は考えられない。
いずれもなかなか説得力のある論点だと思われる。

したたかな中国に対抗するには「自由で開かれたインド太平洋」という概念は美しい。ただ、その理念を我が国が標榜するからには、防衛面で効果のある協力体制を描いて、築いて行く必要がある。日本にはとても荷が重い。

米国が東アジア重視と言っても、日本の尖閣列島防衛にはどれほど効くのか疑問が残る。米国は尖閣は日米安保の適用対象と言っているが尖閣諸島の所有権の判断は留保したままだ。

ここ数年は日本の浮沈がかかる重要な時期だ。日本の賢明なかじ取りが今のリーダーたちに出来るだろうか。また、我々に何が出来るのだろうか。

京都大学の藤井聡教授は「抗中(中国にあらがう)」という言葉を打ち出している。軍事、政治、経済で強権化を隠さない中国に対して、こうした考え根底に我が国も動くことが必要な時期に来ているのかもしれない。

(2021.3.14)