Excellence, excellence, excellence!

今日は経営のヒントを一つ。

エクセレンスというのは訳しにくい英語だ。普通は「優秀さ」と訳すが「卓越さ」と訳すのが相応しい場合が多い。たまには「卓越さ」について考えてみるのも一興だろう。

『もし仕事に卓越さを求めないのであれば、やらないほうがましだ。

卓越した仕事をするのでなければ、楽しくないし、儲けにもならないからだ。

もし、仕事を楽しみのために、あるいは儲けのためにしているのでなければ、一致全体、何故、何をしているというのだろうか。

What the hell are you doing here?』

私が尊敬する猛烈経営者Robert Townsendの言葉だ。

この姿勢はサラリーマンとして(経営者でも同じだ)仕事へ取り組む際の鉄則だ。

(2020.7.16)

米国がドル決済で中国を締め上げ

米中対立をめぐる今朝(2020.7.15)の日経新聞の記事に関して読者から問い合わせがあったので説明してみます。

これは外国為替の決済の話です。
何故貿易の決済で締め上げることができるのか。
中国とアメリカ間での貿易を考えてみましょう。

今、中国のチャイナ商事(取引銀行は中国銀行)がアメリカのアメリカン社(取引銀行はチェース銀行)に商品を輸出したとします。

アメリカン社は商品代金100万ドルをチェース銀行に振り込みます。
チェース銀行はニューヨークにある中国銀行の口座に100万ドルを振込みます。
中国銀行は取引先であるチャイナ商事の口座に100万ドルを振込みます。こうしてチャイナ商事はアメリカン社への輸出代金を無事回収できました。

世界貿易では現状、ドルがまだ最大の比重を占めています。BISの2019年の統計(ブライト・アセット社資料より引用)によれば、貿易決済における通貨別比重は、ドルが88%, ユーロは32%, 日本16%、ポンド13%の順になっています。人民元はまだ4%に過ぎません。(取引を双方から計算するので合計は200%)

ここで重要なポイントは、
世界中のドルでの決済は米国ニューヨークに集中している点です。世界中の銀行がドル口座をニューヨークに保有(通常は大手米銀の本店に自分の銀行が使うドル口座を持たせてもらうのです)して、ドルの決済はそれらの口座を使ったドルの移動になるのです。実際にお金が動くのではありません。口座から口座に瞬時に振替の取引が記帳されるだけです。

ユーロはフランクフルトやパリ。円は東京に集中して決裁されるのです。円決済をしたい世界中の銀行は日本の大手銀行に円建ての口座を保有しています。ある通貨の決済は、最終的には必ずその通貨の母国の銀行で行われるのです。

米国が中国への制裁対象先として、チャイナ商事や中国銀行を指定した場合、彼らはドル決済から締め出されます。
仮に米国の多くの会社が彼らとの取引を望んだとしても、米ドルでの代金の決済が出来ないため、取引継続は不可能です。こうして米国はドル決済を武器に、中国企業・中国金融機関に強力な制裁を与えることが出来るのです。

日本円は為替取引でのシェアを少しづつ落としていますがまだ16%を維持しています。経済の安全保障の観点からも自国通貨建ての貿易が重要です。

(2020.7.15)

本国志向か現地志向か

我が国の企業にとって国際化は不可避であり、それには海外で子会社・関連会社の経営にあたれる人材の確保・育成が重要な課題だ。

国境を越えてグローバルに展開する企業がどのような視点で経営されているか、米国の経営学者パール・シュミッタ―の説く、3つの視点を紹介する。

1. 本国志向 Ethnocentric
その企業の本社こそが最良の手法を持つ
2. 現地志向 Polycentric
現地(人)の経営者こそが最良の手法を持つ
3. 世界志向 Geocentric
世界中から集めた最良の人材・手法を使う

現地の企業経営にあたる経営者を上記に従って分類すると以下のようになる。
1. Parent Company Nationals (PCNs) 親会社派遣人材
2. Host Country Nationals (HCNs)  現地出身人材
3. Third Country Nationals (TCNs) 第三国出身人材

私自身は、邦銀で、バンコク、ニューヨーク、トロントに勤務したががちがちの本国志向・親会社中心主義であった。ニューヨークの支店では総人員400人のうち、本社からの派遣人員が約1割を占め、部門長はすべて日本人だった。毎朝の連絡会は日本語で行なわれ、米国人の行員には働きにくい環境であったに違いない。

派遣社員を通じた日本本社のグリップが厳しくないと安心できないという考え方の会社が依然多いのが2や3の考えが出来ない理由だ。
一方、近年、海外子会社の不祥事(主に会計不正)が、一流企業でも頻発している。日本人社員を配したからといって不正を見つけることが出来なかったわけで1に固執する理由に乏しい。

製造雹では大幅に現地化が進んでいる企業が多いが、経営幹部へ登用している事例はまだ少ない。現地社員のモチベ―ション向上には、優秀な社員を経営層に登用することが不可欠だが、何処まで出来るのか、用意があるのか判然としない企業が多い。世界の一流企業は殆どが3の状態にある。

コロナ禍で海外への人の移動の自由度が低まり、入国ビザの取得も困難になってきている現在、現地法人を誰が経営すべきかについての最適解を見つける努力が必要だ。解答は企業によって異なるであろうが、シュミッタ―の3つの視点は、考えの整理をするのに役に立つ。

(2020.7.14)

ハイコンテクストとローコンテクスト

またまた文化人類学的な文化の違いの説明をしたい。
日本人はなぜ論理的な議論やディベートが苦手で、以心伝心、腹芸、忖度といったことを得意とするか上手く説明する重宝な考え方だ。

言語はコミュニケーションの主要ツールだが、コミュニケーションの基盤になる「言語、共通の知識、体験、価値観、論理性、嗜好性」は「文化」によって異なる。

「『文化』とは、ある集団(国民・民族・人種等)が当然と考え、その行動様式を形成して行く前提、価値観、信念、あるいは象徴である」と定義したのはアメリカの文化人類学者Edward Hallである。
つまり文化によって「言語が持つコミュニケーションのツールとしての機能は異なる」というのだ。

異文化コミュニケーションの先駆者であった彼が提唱した文化の識別法に「ハイコンテクスト文化」と「ローコンテクスト文化」という考え方がある。

ハイコンテクスト文化(状況依存度が高い文化)とはコンテクスト(文脈)の共有性が高い文化のことで、伝える努力やスキルが無くても、お互いに相手の意図を察しあうことで、何となく通じてしまう環境を指す。日本はハイコンテクスト文化の典型と考えられる。我々は、上からの明確な指示が無くてもやたらに忖度するのが得意だ。

ローコンテクスト文化(状況依存度が低い文化)では、コンテクストに依存するのではなく、あくまでも言語によるコミュニケーションを図ろうとする。

コンテクストによるコミュニケーションに秀でた日本人は一を聞いて十を知ることが可能だ。
かかる能力の欠如した欧米人は言語に対して高い価値を与え積極的な姿勢を示し、コミュニケーションに関する能力(論理的思考力、表現力、説明力、ディベート力、交渉力)を重要視する。

日本人が欧米人の部下を持つとその人事考課の結果を伝えるのに苦労する。彼らの実績の評価を5W1Hを使ってしっかり説明しないと彼らを納得させることは出来ない。日本人にとっては大きなチャレンジだ。

英語でHe is an articulate person. というのは最高の誉め言葉の一つと思われる。が、日本語で「彼は弁が立つ」というのは誉め言葉ではない。ハイコンテクスト文化とローコンテクスト文化の違いが現れている。

(2020.7.13)

情報へのアクセス・制限の仕方

John BoltonのThe Room Where It Happenedを読み始めた。世界中の誰もがKindleで一瞬にして手に入れることが出来る。

国家機密を漏らしているということでトランプが出版差し止めを求めた本だ。国家安全保障担当大統領補佐官に任命した人間が、自分に不利な機密に属する会話をペラペラ漏らすとは考えも及ばなかったことであろう。

機密情報を組織内でシェアする原則がいくつかあるので、主に情報へのアクセスの観点から述べてみたい。

【Need to knowの原則】
ユーザーのアクセス権の範囲を決定する際には、 当該ユーザーがアクセスしても良いデータに対してのみ、アクセスを許可するように設定するすることが肝要だ。

このような、情報は知る必要がある者に対してのみ与え、 知る権利を当然持つ者であっても、知る必要のない者には与えない、という原則を、Need to knowの原則という。

【Least Privilegeの原則】
データへのアクセス権は必要最小限の範囲でのみ認められるべきであり、 これを「Least Privilege(最小特権)の原則」という。

トランプ政権で考えると、
【大統領補佐官に無制限のアクセスを許すと・・】
アクセス権が適切に設定されていないと、 本来そのユーザーには禁止されるべき行為を許してしまうことになる。ボルトンのような秘密を洩らしそうなものには不用意に情報をシェアすべきではない。
【娘や娘婿にのみ特権を与えると・・】
主要閣僚や補佐官に、許されるべき情報アクセスに制限をかけてしまうことになる。やる気を失わせることにもなり、匙加減はとても難しい。

【規定値ゼロの原則】
アクセス権の設定は慎重に行い、 設定後に適切であったか検証することが重要だ。アクセス制御は、まずアクセスがない状態から考え、 その上に構築していくべきだ。この概念を「規定値ゼロの原則」という。

以上、基本的だが、トランプ大統領にも知っておいていただきたい原則だ。

(2020.7.12)