米中対立をめぐる今朝(2020.7.15)の日経新聞の記事に関して読者から問い合わせがあったので説明してみます。
これは外国為替の決済の話です。
何故貿易の決済で締め上げることができるのか。
中国とアメリカ間での貿易を考えてみましょう。
今、中国のチャイナ商事(取引銀行は中国銀行)がアメリカのアメリカン社(取引銀行はチェース銀行)に商品を輸出したとします。
アメリカン社は商品代金100万ドルをチェース銀行に振り込みます。
チェース銀行はニューヨークにある中国銀行の口座に100万ドルを振込みます。
中国銀行は取引先であるチャイナ商事の口座に100万ドルを振込みます。こうしてチャイナ商事はアメリカン社への輸出代金を無事回収できました。
世界貿易では現状、ドルがまだ最大の比重を占めています。BISの2019年の統計(ブライト・アセット社資料より引用)によれば、貿易決済における通貨別比重は、ドルが88%, ユーロは32%, 日本16%、ポンド13%の順になっています。人民元はまだ4%に過ぎません。(取引を双方から計算するので合計は200%)
ここで重要なポイントは、
世界中のドルでの決済は米国ニューヨークに集中している点です。世界中の銀行がドル口座をニューヨークに保有(通常は大手米銀の本店に自分の銀行が使うドル口座を持たせてもらうのです)して、ドルの決済はそれらの口座を使ったドルの移動になるのです。実際にお金が動くのではありません。口座から口座に瞬時に振替の取引が記帳されるだけです。
ユーロはフランクフルトやパリ。円は東京に集中して決裁されるのです。円決済をしたい世界中の銀行は日本の大手銀行に円建ての口座を保有しています。ある通貨の決済は、最終的には必ずその通貨の母国の銀行で行われるのです。
米国が中国への制裁対象先として、チャイナ商事や中国銀行を指定した場合、彼らはドル決済から締め出されます。
仮に米国の多くの会社が彼らとの取引を望んだとしても、米ドルでの代金の決済が出来ないため、取引継続は不可能です。こうして米国はドル決済を武器に、中国企業・中国金融機関に強力な制裁を与えることが出来るのです。
日本円は為替取引でのシェアを少しづつ落としていますがまだ16%を維持しています。経済の安全保障の観点からも自国通貨建ての貿易が重要です。
(2020.7.15)