世界の動き 2025年7月9日 水曜日

今日の一言
「日本も韓国も25%」
日本は赤沢大臣が足しげく米国詣でをした。この間韓国は大統領選挙もあり対米交渉を熱心にしていたようには見えなかった。
結果的には両国ともに25%という通知をトランプ大統領から受け取った。
とても無力感のある交渉結果だ。日本は「自動車」と「米」を聖域視して交渉し、自縄自縛に陥ったように見える。トランプ氏の関心は、自身のエゴの満足。自身と親族の経済的利益にあることを再確認し、譲るべき内容を検討する時期だ。
トランプ大統領からの不躾な手紙を受け取った後、関税が25%より急増する恐れが取りあえず消えて、東京の株式市場が値上がりしたのはご愛敬だった。

ニューヨークタイムズ電子版より
(今日はレアアースについての特集記事だ)
【記事内容】
世界は中国産以外のレアアースを、代償を払えば手に入れられる。
レアアースについて私が知っていると思っていたのは、次の点だ。1つは、レアアースは重要だということ。(スマホにも使われている!スマホなしでは生きていけない!)2つ目が、レアアースは希少だということ。3つ目が、レアアースのほとんどが中国から来ているということ。中国では、レアアースを汚染物質を排出し、倫理的に問題のある方法で採掘・加工している。
レアアースは確かに重要だ。スマホだけでなく、自動車、半導体、医療用画像診断薬、ロボット、洋上風力タービン、そして幅広い軍事装備にも必要とされている。
しかし、実際にはそれほど希少なわけではない。世界中に存在している。ただ、非常に広範囲に分布していて、精製が難しいだけだ。
そして、実は世界はレアアースを中国に頼る必要もないのだ。先週、同僚が書いたレアアースに関する2つの記事(1つは中国、もう1つはフランス)を読んで学んだように、戦略的に重要な資源を中国に頼ることは、西側諸国にとっては汚染のアウトソーシングであり、すべての人にとって生産コストの抑制につながる選択だった。
しかし、レアアースは別の方法で生産できるはずである。よりクリーンな方法で生産できるはずである。中国以外の産地から調達できるはずである。しかし、これらすべてには代償が伴う。

包頭(Baotou) vs. ラ・ロシェル
今年、同僚のキース・ブラッドシャーは、中国内モンゴル自治区にある人口200万人の平坦な工業都市、包頭を訪れました。この都市は、自らをレアアース産業の世界的首都と称している。包頭の空気は、2010年に訪れた際に感じたような刺激臭とかすかな金属臭はもはやないが、有毒廃棄物と放射性廃棄物の巨大な湖は浄化されていない。彼はまた、中国中南部にあるもう一つのレアアース生産地、隴南市も訪れました。そこで彼は、鉱山の前にある小川を見つけた。彼の言葉を借りれば、「鮮やかなオレンジ色で、神秘的に泡立っていた」。
これらの光景とは対照的に、同僚のジャンナ・スミアレクが訪れたラ・ロシェルの倉庫がある。ラ・ロシェルは絵のように美しい港町で、長年フランスで最も住みやすい都市の一つに数えられている。そこにある新しい希土類元素製造ラインは、リサイクル材料を使用し、「静かに回転するモーターが上部に取り付けられた巨大な金属タンク」を用いて、磁石の材料となる2種類の主要鉱物を蒸留している。(豆知識:希土類元素磁石は、同じ重さの鉄磁石の15倍の磁力を持つ。)
問題は?中国から直接希土類元素を輸入するよりも約20%コストがかかることです。

低コスト、高リスク
安価な中国産レアアースの輸入には大きなリスクが伴う。4月、トランプ大統領の関税措置を受け、中国は7種類のレアアースのほぼ全て、そしてそれらから作られる強力な磁石の一部の輸出を一時停止した。
その結果、米国と欧州の自動車工場でレアアースの供給不足が発生し(シカゴのフォード・エクスプローラー工場は一時閉鎖を余儀なくされた)、これらの戦略的鉱物のアウトソーシングに伴う真のコストが浮き彫りになった。
そこで疑問となるのは、各国はよりクリーンなレアアースのためだけでなく、自国の戦略的独立のためにも、さらなる支出をする覚悟があるかどうかだ。
答えが「イエス」であるかどうかは明確ではない。例えば、欧州は長年にわたり安価なロシア産ガスに依存し、軍事抑止力への投資を避けてきた。中国は2010年に初めて日本へのレアアース供給を停止したが、その後、供給多様化に向けて実質的な措置を講じた国はほとんどない。
しかし、この二つの記事を併せて読むと、同じ産業の二つの異なる形態の際立った対比に驚かされる。レアアースの生産は比較的クリーンであり、産業支配を武器とする国がほぼ独占的に生産する必要はない。しかし、この種のレアアースはより高価になるだろう。果たして、支払う意思のある者はいるのだろうか?
【コメント】
フランスのレアアース工場のコストが20%しか高くないという説明は事実だろうか。都市鉱山を使って製造しているようだが、日本でも、電気製品を再生しレアアースを採集しているようだが生産量とコストはどうなのだろうか。
レアアースの分布については以下のようだ。
『レアアースの主な分布地域は中国であり、世界埋蔵量の約37%を占める。その他、ベトナム(18%)、ブラジル(18%)、ロシア(10%)、インド(6%)にも比較的多く分布しています。また、日本近海、特に南鳥島周辺の排他的経済水域(EEZ)の海底には、「レアアース泥」と呼ばれる高濃度のレアアースを含む海底堆積物が存在し、その資源量は世界需要の数百年分に相当するとも言われている。』
精製に伴う汚染を削減しつつ、中国以外の産出国を支援することが可能だ。南鳥島の海底資源開発は最優先の国家課題として進めるべきだ。

その他の記事
ウクライナ:トランプ大統領は、ウラジーミル・プーチン大統領に「満足していない」と述べ、「あまりにも多くの人々を殺した」と非難した。キエフでは、米国がさらなる軍事援助を行うというトランプ大統領の発表は歓迎されたが、一部には懐疑的な見方もあった。
テキサス:壊滅的な洪水による死者数は少なくとも109人に上り、行方不明者の捜索は5日目に入った。
ガザ:イスラエルとハマスはガザ停戦合意の条件をめぐって争ったが、すぐに打開策が見つかる兆しはなかった。

貿易:アジア諸国は主に西側諸国への供給を経済基盤としていた。トランプ大統領の新たな関税脅威は、こうした関係を変えなければならないという宣言に等しい。

2025年7月9日 水曜日

世界の動き 2025年7月8日 火曜日

今日の一言
「何より金利」
 トランプ大統領の不動産業者としての資質については何回か指摘してきた。
 今回の関税でもそれがよくわかる。
 ・減税は米国民(特に家を買ってくれる富裕層)の購買力を高める。
 ・関税の上乗せ分は輸出国の努力で解消される。
 ・関税による株式市場の混乱は知ったことではない。不動産ビジネスは銀行からの借入に依存しているからだ。
 ・なにより金利を下げなければならない。自分のビジネスにも国民生活にもプラスの影響が大きいからだ。
 トランプに染み付いた不動産業者としての思考を考えると彼の行動はわかりやすい。

ニューヨークタイムズ電子版よりTop3記事
1.トランプ大統領、日本と韓国への25%関税を発表
【記事要旨】
 トランプ大統領は昨日、日本と韓国の輸出品に8月1日より25%の新たな関税を課すと発表した。また、明日発効予定だった他の数十カ国に対する高関税の一時停止を8月1日まで延長した。
 このニュースを受け、投資家は米国の主要貿易相手国である両国にとって、この関税率はあまりにも高すぎると受け止めたようで、株価は下落した。
 トランプ大統領はまた、他の国々への関税引き上げの詳細を記した複数の書簡をソーシャルメディアに投稿した。ミャンマーとラオスには40%、南アフリカには30%、カザフスタンとマレーシアには25%の関税が課される。
 背景:過去90日間、政権は12カ国以上と貿易協定の締結を目指してきた。これまでのところ、米国が暫定合意に至ったのは英国とベトナムのみである。
 背景:日本および韓国との交渉は、両国で選挙が実施されたこと、そしてトランプ大統領が自動車、鉄鋼、電子機器といった主要輸出品への追加関税の発動、あるいは追加関税の脅しを続けていることが一因となり、他の国々との交渉よりも進展が遅れている。日本と韓国は、将来的にさらなる関税の影響を受けることを懸念し、トランプ政権との合意に躊躇している。
【コメント】
 トランプの手紙についてのBloombergの記事は以下。
『トランプ米大統領は日本の輸入品に25%の関税を賦課すると発表した。4月に発表した税率を1ポイント上回る水準だ。発効日は8月1日で3週間ほどの猶予期間が与えられた。また「セクター別の関税はこれとは別になる」と説明。日本が報復すれば関税を引き上げる考えも示した。一方で、日本や日本企業が米国で生産する決定を下すなら関税はなくなるとも述べ、当局の承認も数週間で完了させる考えを示した。発表を受けて円は対ドルで下げを拡大し、146円台に突入。トヨタ自動車や任天堂など、日本企業の米国預託証券(ADR)にも売りが波及した。』
 5%で割り切れるわかりやすい数字が使われた。根拠は依然として不明だ。

2.テキサス州の救助隊員と生存者にとって、悲惨な48時間
【記事要旨】
 テキサス州の洪水は、過去100年間で米国で最も多くの死者を出した洪水災害の一つとなった。死者数は昨日までに少なくとも95人に上りました。女子限定のキリスト教サマーキャンプであるキャンプ・ミスティックは、高潮に巻き込まれたキャンプ参加者と職員のうち少なくとも27人が死亡したと発表した。
 捜索活動が4日目に入り、さらなる雨の予報が出された。過去48時間の救助活動は、多くの悲惨なものだった。キャンプ・ミスティックで165人を救助した沿岸警備隊の救助隊員に話を聞いた。22歳の女性は、一晩中木にしがみついて救助された。少女は、マットレスの上で何時間も浮かんでいた後に発見された。
 当局は、川周辺の地域への警報発令や避難について、もっと多くの対策を講じるべきだったのではないかという疑問に直面している。テキサス州選出のテッド・クルーズ上院議員は、「何が起こったのかを慎重に調査する」と述べた。最も被害の大きかったカー郡は2017年に水位計とサイレンの購入を検討したが、費用が高すぎるとして却下された。
 洪水は急速に増水した。タイムズ紙の分析によると、豪雨によりグアダルーペ川は10時間足らずで小さな川から猛烈な破壊力を持つ川へと変貌した。毎秒約12万立方フィートの水が下流に流れ込んだ。これはナイアガラの滝の平均流量を上回る。
【コメント】
 後知恵だが、洪水に弱い危険な地形だったようだ。米国でもこんな水害が起きるのかと驚いた。

3.イスラエルとハマスは2日目の停戦協議を行った。
【記事要旨】
 ネタニヤフ首相がトランプ政権との協議のため昨日ワシントンを訪問する中、イスラエルとハマスはガザでの停戦に近づいているように見えたが、人質解放を含む合意条件をめぐっては依然として対立が続いている。
 イスラエルとハマスの関係者は、カタールのドーハで戦争終結に向けた協議を行った。ハマスは、いかなる合意も戦闘の完全かつ永続的な終結への道筋を示すものでなければならないと主張している。ネタニヤフ首相は数時間以内にホワイトハウスでトランプ大統領と会談する予定だ。
【コメント】
 さあ、どうなるのだろうか。痛めつけられたハマスはイスラエルからの条件の多くを呑まざるを得ないだろうが。

その他の記事
ウクライナ:軍はドネツク地域における最後の主要防衛拠点への玄関口であるコスティアンティニフカの確保に苦戦しており、ドローンを捕獲するために漁網を使用している。
エネルギー:カナダは、米国への貿易依存度を下げるため、韓国に初めて天然ガスを輸送した。
イラン:イラン政府はアフガニスタン難民の大量追放を進めており、ここ数週間で数十万人が国外追放された。

政治:イーロン・マスク氏が「アメリカ党」という政党を設立すると発言したことを受け、トランプ大統領はマスク氏を「常軌を逸している」「大惨事だ」と非難した。テスラの株価も下落した。

2025年7月8日 火曜日

世界の動き 2025年7月7日 月曜日

今日の言葉
「移転価格」
 米国から日本車に25%の関税が掛けられたら、日本から米国への輸出価格を引き下げて米国での価格上昇を抑制すればよいという議論をする人がいる。
 本来100の輸出価格を80にして輸出。米国での25%の関税がかかっても100で売れるので、米国での販売は落ち込まない、という議論だ。
 日本の輸出企業は本来100で売れるものを80で売ることになり、日本での利益は大幅に減少する。日本から米国への製品の「移転価格」の操作をしたことになり、国税の許すものではない。注意が必要だ。

ニューヨークタイムズ電子版よりTop3記事
1.テキサス州の洪水で79人が死亡、うち28人は子供
【記事要旨】
 昨日、激しい降雨によりグアダルーペ川が鉄砲水に見舞われた。数百人の捜索隊がテキサス州中部の広範囲を捜索したが、死者数は79人に上り、行方不明者が数十人に上る中、予報官は被災地域でさらなる降雨と鉄砲水の発生を警告しました。
 犠牲者のうち少なくとも28人は子供であり、サマーキャンプに参加していた10人の少女は依然として行方不明だ。
 発生状況:豪雨による最初の鉄砲水警報は木曜日の深夜直前に発令されました。金曜日の午前4時頃、グアダルーペ川の水位が3時間で22フィート(約6メートル)上昇したことを受け、郡当局は住民とキャンプ参加者に対し「今すぐ高台に避難!」と呼びかけた。
 疑問:国立気象局の地方事務所では重要なポストが空席となっており、一部の専門家は、人員不足が気象局と地方の緊急管理者との連携を困難にしているのではないかと疑問を呈している。
 気候:科学者によると、化石燃料の燃焼による地球温暖化に伴い、テキサス州で致命的な洪水を引き起こしたような集中豪雨が世界​​中でより頻繁により激しく発生している。
【コメント】
 中央政府のコストカットの影響で国立気象局の上級人材の多くが削減されたのが警報が遅れた理由だという批判がメディアから多く出ている。

2.ネタニヤフ首相がホワイトハウスへ
【記事要旨】
 イスラエルのネタニヤフ首相は本日、ワシントンでトランプ大統領と会談し、ガザ地区の停戦合意について協議する予定だ。トランプ大統領は、今週中に最初の停戦合意が成立することを期待していると述べた。
 停戦合意により、ハマスは人質を解放し、10月7日のハマス主導によるイスラエルへの攻撃をきっかけに始まったパレスチナ自治区におけるイスラエルの戦争を最終的に終結させる可能性がある。イスラエルは昨日、ハマスとの溝を埋めるため、交渉官をカタールに派遣した。ハマスは60日間の停戦交渉に入ることで合意した。
 イスラエルでは、ガザ地区での戦争への反対が高まっている。軍によると、過去1か月で20人以上の兵士が殺害されており、多くの人々が軍はなぜまだそこで活動しているのかと疑問を抱いている。ガザ地区の保健当局によると、これまでに5万5000人以上のパレスチナ人が殺害された。

その他の中東ニュース:
・イランの最高指導者、アリー・ハメネイ師は、先月イスラエルとの12日間の戦争が始まって以来初めて公の場に姿を現し、シーア派のアシューラ祭に出席した。
・アナリストたちは、イランが昨日ブラジルで始まったBRICS首脳会議を、イスラエルと米国の軍事攻撃後の支持基盤を強化する機会として利用すると予想している。
・一部の米国当局者は、中国、ロシア、イラン、北朝鮮による「枢軸」構想を示唆していたが、米国とイスラエルによるイランとの戦争は、その構想の限界を露呈させた。
【コメント】
 ネタニヤフ首相の訪米は何度目だろうか。トランプとは(同じ刑事被告人経験者として)非常に馬が合う感じだ。首相はこれまで米議会で4回も演説してきたそうだ。

3.ダライ・ラマの後継問題が複雑な理由
【記事要旨】
 昨日90歳を迎えたダライ・ラマは、後継者選出プロセスにおいて中国は発言権を持たないと約束した。しかし、中国の指導者たちが後継者選出に異議を唱え、独自のダライ・ラマを任命する兆候がある。
 タイムズ南アジア支局長はこのプロセスが中国との緊張を高める可能性がある理由を説明しています。中国はチベットを支配しておりそもそも宗教の自由も認めていない。中国の認定するダライ・ラマと二人のダライ・ラマが併存する恐れが大きい。
 チベット人の文化的アイデンティティを守るためにインド・ヒマラヤに設立された亡命政府は、ダライ・ラマの後継選定において試練を受けるだろう。
【コメント】
 中国は当然亡命政府の選ぶダライ・ラマを決して認めない。以前認定された幼児が行方不明になったことがある。どうなるか注目だ。

その他の記事
米国:イーロン・マスク氏は、来年の選挙で積極的に活動する新政党「アメリカ党」を設立すると述べた。
オーストラリア:メルボルンで発生した2件の暴力事件(シナゴーグとイスラエル料理レストランでそれぞれ1件ずつ)を受け、国内の多くのユダヤ人が神経をとがらせている。
原油:サウジアラビア、ロシア、その他OPECプラス加盟国6カ国は、8月から原油生産量を増やすことで合意した。この増産は原油価格の下落につながる可能性がある。

貿易とテクノロジー
・AI:ディープシークとアリババの本拠地である杭州は、中国のAIブームの中心地となっている。
・関税:スコット・ベセント財務長官は、火曜日の期限までに一部の国とさらなる合意が成立する見込みだと述べた。
・メキシコ:多くのメキシコの工場にとって、アジアのサプライヤーへの依存はもはや安全な選択肢ではない。企業は変革を急いでいる。

さらに詳しく
・スクリーン:オーストラリアは12月までに100万人以上の10代の若者をソーシャルメディアから排除したいと考えている。これは成功するだろうか?
・兵器:欧州は軍事費をほぼ倍増させる計画だが、米国企業が製造する一部の先進的な装備に代わる選択肢がない。その一つがF-35だ。

2025年7月7日 月曜日 (七夕です)

本が読めない

「なぜ働いていると本が読めなくなるのか」と言う本が2024年の新書で一番売れた本だそうだ。

本の内容をAmazonで調べてみると以下のようだ。
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【人類の永遠の悩みに挑む!】
「大人になってから、読書を楽しめなくなった」「仕事に追われて、趣味が楽しめない」「疲れていると、スマホを見て時間をつぶしてしまう」……そのような悩みを抱えている人は少なくないのではないか。
「仕事と趣味が両立できない」という苦しみは、いかにして生まれたのか。
自らも兼業での執筆活動をおこなってきた著者が、労働と読書の歴史をひもとき、日本人の「仕事と読書」のあり方の変遷を辿る。
そこから明らかになる、日本の労働の問題点とは?
すべての本好き・趣味人に向けた渾身の作。

【目次】
まえがき  本が読めなかったから、会社をやめました
序章  労働と読書は両立しない?
第一章  労働を煽る自己啓発書の誕生―明治時代
第二章  「教養」が隔てたサラリーマン階級と労働者階級 ―大正時代
第三章  戦前サラリーマンはなぜ「円本」を買ったのか?―昭和戦前・戦中
第四章  「ビジネスマン」に読まれたベストセラー―1950~60年代
第五章  司馬遼太郎の文庫本を読むサラリーマン―1970年代
第六章  女たちのカルチャーセンターとミリオンセラー―1980年代
第七章  行動と経済の時代への転換点―1990年代
第八章  仕事がアイデンティティになる社会―2000年代
第九章  読書は人生の「ノイズ」なのか?―2010年代
最終章 「全身全霊」をやめませんか
あとがき  働きながら本を読むコツをお伝えします
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本のタイトルから想像される内容とは違い、随分と真面目な社会学的に日本人の読書習慣を分析した本のようだ。

この本のタイトルは「働いていると本が読めなくなる」というものだが、最近常勤の仕事がなくなり外に出ることが少なくなった自分の印象は、「働かなくなると本が読めなくなる」と言うものだ。

通勤電車で新書や文庫は月に数冊は簡単に読めた。最近は面白そうだと思って買った本を持て余している。

最近一気に読んだ本は、小川洋子の「サイレント・シンガー」だけだ。この本の文芸春秋の広告は以下のようだ。
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内気な人々が集まって暮らすその土地は、“アカシアの野辺”と名付けられていた。野辺の人々は沈黙を愛し、十本の指を駆使した指言葉でつつましく会話した。リリカもまた、言葉を話す前に指言葉を覚えた。たった一つの舌よりも、二つの目と十本の指の方がずっと多くのことを語れるのだ。
やがてリリカは歌うことを覚える。彼女の歌は、どこまでも素直で、これみよがしでなく、いつ始まったかもわからないくらいにもかかわらず、なぜか、鼓膜に深く染み込む生気をたたえていた。この不思議な歌声が、リリカの人生を動かし始める。歌声の力が、さまざまな人と引き合わせ、野辺の外へ連れ出し、そして恋にも巡り合わせる。果たして、リリカの歌はどこへと向かっていくのか?
名手の卓越した筆は、沈黙と歌声を互いに抱き留め合わせる。叙情あふるる静かな傑作。
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ストーリー展開が最後まで見通せず、最後に二重の落ちが用意されている。読者を震撼とさせる真の傑作だ。

今は、平野啓一郎「マチネの終わりに」を読んでいるが、なかなか読み進めるのが難航している。元々は毎日新聞に長期連載されていた小説で、ストーリー展開の段差のようなものが気になるのだ。自宅で机に向かって読むのも「なんだかななー」と言う印象なのだ。

小説に関して言えば、最近の芥川賞受賞作は最後まで読了可能なものが殆ど無い。以下の2作も途中でギブアップした。
172回(2024年下半期)安堂ホセ DTOPIA
172回(2024年下半期)鈴木結生 ゲーテはすべてを言った

読者に満足感を与えられる小説が減ったことが、人が本を読まなくなってきた小さな理由ではないかと思う。
大きな理由は、スマホだ。電車に乗ると、本を読んでいる人は極めて少数で、ほぼ全員がスマホとにらめっこしている。何を見ているかと言えば、TV/漫画(男性)TV/服飾広告(女性)だ。

デジタル収入をグーグル、アマゾン、FB、アップルと言った米国資本に流出させるだけでなく、スマホの利用時間に応じて日本政府が税金をかけてはどうだろうか。米の値段が高い高いと言いながら、スマホには文句が出ない。横断歩道を渡る際にもスマホを手放せないスマホ中毒者から上前をはねても良いころだろう。読書の減少にも歯止めがかかろう。

2025年7月6日 日曜日

サイバーセキュリティ監査 (備忘録的メモ)

 2025年7月4日に金融庁から、「金融分野におけるサイバーセキュリティに関するガイドライン(以下、ガイドライン)」の一部改正について、が公表された。

 これは、「サイバー対処能力強化法整備法」の施行に伴い、内閣官房「内閣サイバーセキュリティセンター(NISC)」が令和7年7月1日付で「国家サイバー統括室」に改組されたことに伴うガイドライン上の使用語句の変更に過ぎない。

 これを機会にガイドラインで内部監査がどのように言及されているか確認しておこう。以下ガイドラインで内部監査(監査)に言及されている部分だ。

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1.2.2. 経営陣の関与・理解
 サイバーインシデントによる業務の中断は、顧客に大きな影響を与え、金融機関等ひいては金融システムの信頼に大きな影響を与えかねない重大なリスクである。こうしたリスクの性質に鑑みれば、サイバーセキュリティは、IT・システム部門の問題に止まらないことは明らかであり、経営責任が問われかねない問題である。また、サイバーイ
ンシデント発生時に、顧客、金融システムへの影響を最小化し、極力早期の復旧を目指すためには、各業務所管部、企画、広報、コンプライアンス、リスク管理、監査などの
各部門間の連携が不可欠であるし、また、現場担当者に止まらず、経営陣の主体的な関与が求められる。さらに、顧客、法執行機関、情報共有機関、当局等との連携も求めら
れる。こうした組織全体としての対応を実現するためのガバナンスの確立が必要であり、そのためには経営陣のリーダーシップが不可欠である。

 経営陣は、サイバーセキュリティに関する監査の結果や、関係主体等(顧客、地域社会、株主、当局等)からの要求事項や、法規制等の内外環境を踏まえ、サイバーセキュリティ管理態勢の継続的改善を行うこと。

 経営陣が適切な経営判断を行うための前提として重要なサイバーセキュリティに係るガバナンスの確保のため、サイバーセキュリティに関する十分な知識を利用(外部専門家の利用を含む)できるようにしておくこと。これには、一般的な3線防衛態勢(業務部門、リスク管理部門及び内部監査部門)の下、サイバーセキュリティに関する各部門の役割分担の明確化や外部専門家を利用した検証の仕組みを構築することを含む。

 経営陣は、少なくとも1年に2回、以下の報告を担当部署等に求めること。
・ サイバーセキュリティにかかるパフォーマンス指標(KPI)及びリスク指標(KRI)
   KPI の例:標的型メール訓練の報告率、脆弱性対応率、情報資産棚卸進捗率、トレーニング受講率等。
   KRI の例:サイバー攻撃試行件数、監査指摘件数、インシデント件数、未対応の脆弱性件数等。

 人材の育成については、例えば、以下のような人材を外部人材の活用も含めて計画的に確保していくこと。
 ・ 新たなデジタル技術の導入に際し、生じ得るサイバーセキュリティに関するリスク評価を行う人材
 ・ サイバーセキュリティ戦略・計画の企画・立案を行う人材
 ・ サイバーセキュリティに関する研修や人材育成を行う人材
 ・ サイバーセキュリティの観点からシステムの設計・開発を行う人材
 ・ サイバーセキュリティ脅威、脆弱性に関する情報収集やシステムへの脆弱性対応を行う人材
 ・ ログの監視・モニタリングを行う人材
 ・ サイバーインシデント発生時に対応を行う人材
 ・ フォレンジック調査等を行う人材
 ・ 脆弱性診断やペネトレーションテストを行う人材
 ・ サイバーセキュリティ監査を行う人材

2.1.5. 内部監査
【基本的な対応事項】
① 内部監査部門は、必要に応じて外部専門家を利用しつつ、独立した立場から、リスクベース・アプローチに基づき、サイバーセキュリティに係る内部監査計画を策定し、サイバーセキュリティ(整備状況・運用状況、対応・復旧、法規制の遵守状況、サードパーティリスク管理を含む)をテーマとする内部監査を実施すること。
② 内部監査部門は、内部監査で指摘した重要な事項について遅滞なく代表取締役及び取締役会等に報告するとともに、指摘事項の改善状況を的確に把握すること。
【対応が望ましい事項】
a. 内部監査部門にサイバーセキュリティに係る適切な知識及び専門性等を有する職員を配置すること。

継続的な改善活動
 演習・訓練、脆弱性診断及びペネトレーションテスト、監査、リスク評価、及び実際のインシデントから得られた推奨事項、発見事項、教訓については、関連手続等に従って改善すること。

クラウドサービス利用時の対策
 情報公開等の設定にミスがないか確認すること。設定の妥当性の確認においては、必要に応じて、専門家によるシステム監査や誤設定の自動検知等の診断サービス等を利用すること。

サードパーティリスク管理
 サードパーティが遵守すべきサイバーセキュリティ要件を明確化の上、重要度に応じ、サードパーティ等との契約や SLA(サービスレベルアグリーメント)等において、例えば、以下の項目を明記すること。
 ・ サードパーティとの役割分担・責任分界
 ・ 監査権限
 ・ 再委託手続
 ・ 実施すべきセキュリティ対策
 ・ サードパーティの役職員が遵守すべきルール
 ・ インシデント発生時の対応及び報告
 ・ 脆弱性診断等の実施及び報告
 ・ 深刻な脆弱性が判明した場合の対応及び報告
 ・ サイバーセキュリティに係る演習・訓練の実施(共同演習・訓練への参加を含む)
 ・ データの所在・保管・保持・移転・廃棄に関する取決め
 ・ 契約終了の条件及び契約終了時の取決め
 ・ 外部評価等の実施(第三者保証報告書の提出、第三者認証の取得を含む)

・・・・・・・・・・

 内部監査について一節が割り振られており、サイバーセキュリティ分野での内部監査の重要性がわかる。

 経営層のリーダーシップと管理のツボの中にも監査が適宜引用され、重要さが理解できる。それにしてもサイバーセキュリティを作る、運用する、管理する、監査するといった能力のある人材確保は非常に困難だ。

2025年7月5日 土曜日