ドナルド・トランプ前大統領が直面する訴訟問題と政治的影響について、米国の友人がまとめてくれたので紹介したい。以下引用。
『ドナルド・トランプについてはもう二度と書きたくなかったのですが、これだけ議論を起こしていますので、已むを得ません。来年の大統領選で共和党の最有力候補として指名されるための選挙運動に加え、彼が巻き込まれている著しい数の刑事事件と民事事件の対処に膨大な時間と資金を費やしているのが現状です。以下はそのスナップショットです。
前大統領が直面する法的トラブルは、米国史に前例はないと言っても過言ではありません。先ず、これまでの大統領が刑事訴追されたことはありませんでした。現在、複数の政府機関から提示されている裁判が 3 件あり、4 件目も控えています。これに加えて、彼が被告人である民事裁判事件もあります。それにも拘わらず、これまでのところ、支持者たちは変わらず彼に寄り添っている様子です。
No.1 これから裁かれる反逆罪を犯したのか?
8月 3 日付けの連保政府法務省発刊の起訴状には、2021 年 1 月の事件とその前後の彼の扇動演説に関する訴えはありません。公表されたこの起訴状には、扇動演説は事実であろうとなかろうと憲法上保護される言論の自由であると明記されています。むしろ、起訴状には具体的な刑事犯罪が記述されています。とりわけ、告発要点(サマリー)は次のようです。
2021年 1 月 3 日に議会に提出された選挙結果を無効とすることで覆すよう、上院議長をしていたマイク・ペンス副大統領に繰り返し圧力をかけた。ペンス氏に、トランプの弁護団は、彼が結果を拒否すれば、選挙は各州政府の代表によって決定されることになり、青い州より赤い州の方が多いため、トランプは当選を宣言できることになる、と主張していた。
ペンス氏はそのような行為が倫理に反し、違憲であり、また無意味であることを認識していました。実際、上院議長の役割は、議会が集計する投票統計を確認することだけです。違法行為を拒み、職務を遂行すると返事すると、大勢の波乱者が彼を(反逆者として)絞首刑に処すよう呼び掛けていたため、責任を果たしたら彼は直ちに議事堂から避難しなければなりませんでした。
一部の州を代表する本物の選挙人の替りに偽の選挙人を作ることを画策した。その偽選挙人は、バイデンではなく、トランプがその州で勝利したという結果を議会に提出する企みでした。その偽選挙人からの報告書がペンスの側近に提出されましたが、ペンス氏はそれを受取りませんでした。
ここでもペンス氏は憲法上の義務を正しく果たしました。ペンス氏の政治的見解は多くの点では私と大きく異なりますが、その時、彼が憲法に従い、アメリカの民主主義を守ったことに拍手を送りたいと思います。
つまり、トランプ容疑者は単に知らずに違法行為をしたのではなく、選挙に負けたことを知っていながら、犯罪を成す意図を持って行動したというのが検事の説です。事実上、クーデターを煽ったという当局の主張を裏付ける目撃証言は多数あります。裁判で有罪となれば、終身刑を言い渡される可能性もあります。トランプは違反行為の意図はなく、全ての行為は弁護士に相談した上でと弁論しています。
重罪の疑いで訴追されているため、近々連邦裁判で取り上げられ、選挙前に判決が下される見込みです。本人は「無罪」を主張しており、裁判は現在のところ今秋から予定されています。
トランプ弁護側は、トランプは憲法修正第 1 条の言論の自由を行使していたのみであり、今回の検事告発はバイデン大統領による選挙妨害を図るものだと主張し、被害を食い止めようとしています。しかし、起訴状をよく読むと、検事の告発を裏付ける主要証人の多くが共和党員で、かつてはトランプの支持者だったことが判ります。中には司法省を含むトランプ政権で働いていた者も居ます。一方、元ニューヨーク市長でトランプ個人の弁護士として務めていたジュリア二―のような陣内の何人かは、自分たちが監獄に入れられるのを回避するために検察側に寝返っているようです。被告人トランプに対する当局の立件は非常に強力なようです。
No 2 州の選挙当局への不正圧力の疑惑
2021年 1 月 2 日、トランプ大統領とブラッド・ラフェンスペルガー・ジョージア州事務総長との一時間に及ぶ電話会談が密かに録音されました。ジョージア州当局への 2 ヶ月に亘る圧力の集大成であるその電話の中で、トランプは自分がバイデンを上回るように票数を改ざんするよう強いるのでした。 「11,780 票を見つけたいから」と言われ、事務総長は何度も拒否し、当州の票数の計算は正確であると述べたそうです。それで、現在、同州の検事はトランプを選挙妨害で告発しているところで、 大陪審による起訴は数週間以内に行われる可能性があります。(大陪審とは、裁判を起こす十分な理由があるかどうかを判断する機関です。)トランプは「人に頼むのはどこが悪い?」と主張しています。
アリゾナ州、ミシガン州、ペンシルベニア州、ウィスコンシン州など、
通常共和党が票を投じる州にも票創りを強引に依頼した話があります。
アリゾナ州は同様に起訴することを検討しているそうです。
No 3 機密文書の窃盗・隠蔽事件
日本のユーチューバーが「文献を持ち帰ったくらいで何を騒いでいるんだ」と叫んでいる録画を観たことがあります。「なぜトランプはそんな些細な罪で迫害されるのか?バイデンも、クリントンも、オバマも、みんな家に政府の書類を勝手に持ち帰っていたじゃないか….。」と誇張するのです。
残念ながら、彼らは的外れで、恐らくアメリカの右翼の話筋を呑み込んでいるのではないかと推測します。このような事件でよくあるように、もみ消しは元の犯罪行為そのものより質が悪いのです。従来、他の高官は、持ち帰ってはいけない書類を持ち帰ったとき、そのことを知らされると、「いけない!」と自供して、すぐに返却しました。。悪意は想定されず、「手落ち」事件は解決します。
これに対してトランプは、極秘書類を個人的に尚、意図的に FBI などから隠し、そのために彼の指示でスタッフがその箱をあちらこちら動かしている監視カメラの録画まで消そうとしたとして起訴されています。更に、フロリダの自宅で、中国共産党と繋がりのある中国企業の顧客を持つロビイストを含む一般人にさりげなく極秘文書を見せていることも収録されています。トランプの声で「ペンタゴンからもらったこのイラン戦争の場合の戦略計画書を見てごらん!」と元大統領としての重要性を自慢しているように見えるビデオもあります。 同ビデオの中で、又彼の声で「以前大統領として、機密扱いを解除することもできたが…今はできない」。続いて、「秘密だよ」と付言するのです。
連邦判事はこの裁判を 2024 年 5 月に開始するよう命じています。トランプとその側近は、30 件以上の機密情報管理法違反を含む 37 件の犯行に問われているほどです。トランプは大統領だった頃の文書なので機密解除したつもりでいると弁護しています。
No4 その他まだまだある
その他の事件としては、レイプ被害者のジーン・キャロル氏が起こした名誉毀損事件の再来。先月彼女はトランプに対する民事裁判で勝訴し、500 万ドルの賠償金を授与されたが、判事の指示に従わず、裁判が終わった今もトランプは公然と彼女を中傷し続けているので、彼女は再び告訴している。
非公開のトランプ持ち株会社はまた、虚偽申告と税金の未納を巡ってニューヨーク州から訴えられている。長年の CFO は有罪を認めて、会社も12月に脱税で有罪判決下された。近日中には主要株主のトランプ本人が法廷に出廷する筈。
その傘下会社はまた、様々なマルチ商法(ねずみ講)に手を染め、大勢の人々を騙したとされている。来年早々に集団訴訟 に対応することになっている。
2020 年の選挙キャンペーン中に口止め料として 13 万ドルを不倫相手とされるポルノ女優に支払ったことで、34 件の訴因からなる裁判が起こされている。これは、不道徳さや口止め料の支払いそのものが問題とされず、極個人的な用途に選挙資金を流用し、又それを報告しなかったことの違法性が問題とされている。トランプの主任元弁護士且つ「フィクサー 」(問題解決者)であり、闇の支払いを行ったマイケル・コーエン氏は、検察側のスター証人になると想定されている。
結論:不正は不正を生む
報道によると、トランプの政治活動団体(PAC)セーブアメリカの多額の政治資金はトランプ本人と共同被告の弁護士費用に充てられています。今年上半期だけの弁護士費用は 2,160 万ドル(凡そ三十億円)と見積もられています。これは倫理的にも現実的にも問題があると思われま す。PAC の資金の大部分は、個人の弁護士費用ではなく、選挙運動に対する何千人の少額寄付者(半 数は定年者とされています)から募金された献金によるものです。この弁護費用への資金流出は、選 挙運動資金を枯渇させる恐れがあります。現在 PAC の幹部はこの金を返せと言っているとの報道も あります。
現在、トランプの支持基盤は崩れていませんが、最近のロイター社の世論調査によれば、今彼を支持している共和党員の 45%が、もし有罪が確定すれば見捨てるだろうというのです。さらに二割の人は態度未定になっています。』
長文を紹介したが、多くの日本人にとってよくわかる説明になっていたと思われる。これだけ訴訟を抱えてもしぶとくがめつく生き抜こうとする。さすがに面の皮が厚い「不動産王」だ。
2023年8月13日 日曜日