米国の対中貿易が大幅に減少しているという発表が今週あったが、フェンタニルは憂慮すべき例外である。数千の中国企業(ほとんどが国営企業)は、フェンタニル粉末の作り方の説明書とともに、この薬の製造に必要な原料を製造し、西側諸国とくに米国に輸出する能力がある。
フェンタニルは、鎮痛剤として使用される非常に強力な合成オピオイドである。フェンタニルは、他の薬物と一緒に、麻酔に使用される]。集中治療室においても、鎮痛・鎮静に使用されている。術後鎮痛や癌性疼痛の鎮痛にも適応がある。
アメリカ合衆国では、ヘロイン、コカイン、ベンゾジアゼピン、メタンフェタミンなどと混合され、娯楽用麻薬として違法に使用されることもよくあり、過剰摂取は死に至る可能性がある。フェンタニルは、μ-オピオイド受容体を活性化することで作用する]。その強さはモルヒネの約100倍、ヘロインの約50倍である。
フェンタニルは米国における薬物過剰摂取の最大の原因となっており、 メキシコの麻薬カルテルの関与とコロンビアでのフェンタニル生産拡大の可能性により、これは米国にとって国家安全保障上の懸念にまで高まっている。
フェンタニルを巡る事故は日本でも発生している。
以下Wikipediaの事例によると、
愛知県の麻酔科医師が、必要の無い患者に処方箋を書き、患者には渡さずに自分で使用して摘発された事例がある。
2013年8月23日、東京都立墨東病院にて麻酔用鎮痛剤フェンタニルの紛失があった。同日夕方、薬剤科の職員が処方せんと施用票をチェックしたところ、同病院病棟で保管していたフェンタニル0.5mg/10mlの未使用2本、および使用済2本のアンプルが返却されておらず、所在が不明となっていることが判明した。ただちに関係する職員の聴取や、院内捜索を実施したものの、発見にいたらなかったため、26日に東京都福祉保健局健康安全部に報告するとともに、本所警察署に紛失届を提出した。
2016年4月21日の早朝に、アメリカのミュージシャンであるプリンスが、アメリカ合衆国ミネソタ州にあるペイズリー・パーク・スタジオで亡くなった。同年6月2日にミネソタ州の検視当局により、死因はフェンタニルの過剰投与による中毒死であるという報告書が公表された。
2019年7月1日にロサンゼルス・エンゼルスの投手であるタイラー・スキャッグスが遠征先のテキサス州ダラス近郊のホテルで亡くなった。死因は自身の嘔吐物をつまらせた窒息死で、検死で体内からアルコールの他にフェンタニル、オキシコドンが検出された。フェンタニルを含む薬剤をその実態を知りながら意図的に投与したとしてエンゼルスの球団職員がテキサス州連邦当局によって起訴された。
2023年6月、俳優のアダム・リッチがフェンタニル過剰摂取で1月に亡くなっていた事が報じられた。
中国からの輸入制限については、2019年8月23日、ドナルド・トランプ大統領が、米中貿易戦争が激化する中で、乱用が問題となっているフェンタニルが中国から流入することがないようフェデックスやユナイテッド・パーセル・サービス、アマゾン、アメリカ郵政公社に対し配達を拒否するよう指示した。
キューバでの軍事拠点設置をはじめ、中国は米国の裏庭での活動を活発化している。フェンタニルの中国からの流入も米国にとって脅威だが、米国へのフェンタニルの違法流通を阻止するための米国の介入は、米国とラテンアメリカの関係を改善するプラットフォームとしても機能するとも考えられる。
中国はアヘン戦争の意趣返しのつもりかもしれないが、中国の加わった麻薬戦争の行方が注目される。
2023年8月12日 土曜日