The Next 5000 Days 「5000日後の世界」を眺める

Wedge2月号は「テクノロジーの新潮流 変革のチャンスをつかめ」が特集だ。記事の中のコラムに標記の本が載っていた。英文の原書を捜そうとして驚いたのだが、原書は存在せず、Kevin Kelly氏(著者)に大野和基氏がインタビューをしてそれをまとめた本だった。

 YouTubeで捜して、またしても驚いたのだが、Kellyは12年前にThe Next 5000 Days in WEBという考えを広めたFuturist だった。今年70歳でかなり年配の人だ。TEDでの彼の講演をTouTubeがアップしているので邦訳付きで見ることができる。

 さて、「5000日後の世界」は序文を眺めるだけでとても刺激的で得るところの多い本だ。Amazonを見ると、序文は誰でも読めるので、少し長いが引用しよう。
(引用)
「ビジョナリー(予見者)」。本書の著者、ケヴィン・ケリーはしばしばこう称される。テック文化を牽引する雑誌・米『WIRED』の創刊編集長を務めた著者は、GAFAなど巨大企業による「勝者総取り」現象など、テクノロジーによって起こる数多くの事象を予測し、的中させてきた。

著者によれば、インターネットが商用化されてから5000日後(約13年後)にソーシャルメディア(SNS)が勃興を始めた。そして現在は、ソーシャルメディアの始まりからさらに5000日が経ったところだ。いまやインターネットやSNSは、われわれの暮らしに欠かせないものとなっている。

では、これからの5000日には何が起きるのだろう?
著者はすべてのものがAI(人工知能)に接続されたAR(拡張現実)の世界「ミラーワールド」が訪れると予測する。
各国に住む100万人単位の人がバーチャルな世界で協働することが可能になる世界だ。SNSに続く新たな巨大プラットフォームの誕生である。

新たなプラットフォームは、働き方や政府のあり方にも大きな影響を与える。地球のどこにいても誰とでも仕事ができる世界になれば、会社とは異なる形態の組織が生まれる。また、製造業や金融、流通、交通、観光、農業、教育……といった産業も、大きな変化を余儀なくされるだろう。

新たなプラットフォームは、何万もの新たな勝者の誕生にもつながる。この巨大潮流を知り、変化が加速する時代をサバイブせよ。
(引用終わり)

 序文を読んだだけで読み終わった気になりませんか?
 この変化の激流を、自分は、社会は、国家は、どう泳ぎ切って行けるのだろうか。

(2022.2.23 Wednesday)

世界の動き 2022.2.23 Wednesday

N.Y. Times 電子版より

1.西側はロシアへの制裁を発動
【記事要旨】
バイデンはロシアの行動は国際秩序への悪意のある挑戦であり許せないとして、ロシアの2金融機関、富裕個人との取引禁止とロシアが国際市場で債券発行をできなくする制裁を発動した。
英は分離2州とのあらゆる取引を禁止。ドイツはNord Stream2を停止する。EUは資産凍結と人的交流の禁止を含む制裁を検討中。
ロシア上院は国外での武力承認を可決。ロシア内ではウクライナ侵攻を正当化するプロパガンダが活発。
原油価格は1バレル100ドル近くに値上がり。大手銀行は危機に備える。株価は下落。
【感想】

記事が出るころには新しい事態が現出している。

記者会見するバイデン大統領の目力が無いのが気になった。ロシアの先制攻撃にあたふたしてる印象は否めない。

2.香港住民の大規模検査
【記事要旨】
700万人の住人に3月の短期間に3回の検査を実施する。検査能力を現在の一日20万回から3月には100万回にする。と行政長官が語る。
これは北京政府からの強い圧力によるものだが、人員不足と中国本土で使われているコロナ追跡アプリが無い香港では達成が疑問視されている。
香港では1日平均37000人の陽性者。病院では患者があふれ新しい隔離施設を建設中。
【感想】
2100万回の検査を短期間でするというのはすごい。意欲、実施能力、完遂力、いずれも我が国も参考にしてほしい。

3.パキスタンはタリバンとの距離を測る
【記事要旨】
アフガンでのタリバンはパキスタンのタリバンの動きを活発化させテロも起こっているが、パキスタン政府は、パキスタンの安定にはアフガンの安定が不可欠であり、タリバン政府が倒されてもより良いアフガンになる保証は無い、と言っている。
米国が撤退し不安定なアフガンを見るとこの見解は楽観的過ぎる。事実、2021年にパキスタンでのテロ攻撃は前年比42%増加。ほとんどがカブールの陥落後だ。
【感想】
パキスタンでのテロや微妙な立ち位置は知らなかった。日本ではこの辺りのニュースはとても少ない。
ところで、インドではオミクロン株のコントロールに見事に成功したらしい。人口当たりでは、陽性者、入院患者、死者ともに日本を大きく下回っているそうだ。日本のメディアでは、大流行時の悲惨な映像しか流さない。報道の片手落ちぶりが目に余る。

その他:
チャイナマネーが豪政界を揺るがす
Accusations of shadowy Chinese financing, failures to report large donations and other dark-money issues are dominating Australia’s May election.
ラテンアメリカのカトリック国でも
Colombia decriminalized abortion in the wake of similar actions in Mexico and Argentina.

(2022.2.23 Wednesday)

外交交渉とゲームの理論

ウクライナの情勢を理解するための古典を求めて探し回った。
 ”The Strategy of Conflict”(「紛争の戦略」邦訳)は1963年にThomas Schellingによって著された古典だ。国際紛争・国際交渉の専門家である彼は2005年にノーベル経済学賞を受賞している。

 Youtubeで、Game theory of conflict by Thomas C Schelling を見つけた。
 https://www.youtube.com/watch?v=Tnys7k8c7uU Oxford大学で2016年に行われたセミナーのVideoだ。この年の12月にSchellingは95歳で亡くなっているから最後の講演ではないだろうか。

 この40分間の講演で、彼はゲームのセオリーの中で「囚人のジレンマ」について長い時間をかけて説明している。「囚人のジレンマ」は、二人の囚人が自白しなければ無罪。一人が自白すれば自白した人は3年。しなかったものは10年の刑期。二人とも自白すれば二人とも7年、という皆さんよくご存じの話だ。

 彼は、「二人とも自白しない」という最善の結果をもたらす行動をとるには、互いの信頼が必要だと説明する。牢屋に収監された後はお互いに意思疎通が出来ないが、それまでの積み重ねが大事なのだ。同じ国からの移民グループ、同じ教会の信者、幼馴染、同じスポーツチーム、というバックグラウンドを共有する人は他の囚人を信頼し口を割ることはない、とSchellingは説く。

 このたとえをウクライナ情勢に当てはめてみるとどうだろうか。米露ともに意思疎通は疎で、これまで信頼の醸成される関係もなかった。国際紛争を回避する、あるいは起きても深刻化させないためには、たゆまぬ意思疎通が重大なのがわかる。日本の外交でも心すべきポイントだと思われる。

(2022.2.22 Tuesday)

世界の動き 2022.2.22 Tuesday

N.Y. Times 電子版より

1.ロシアはウクライナの2州の独立を承認し緊張を強める
【記事要旨】
 プーチン大統領は月曜に歴史的な怨嗟に満ちた演説でロシア支持勢力が支配するドネツク州とルハンスク州の独立を承認した。
 プーチンは米欧がウクライナを対立の場に選んでいると非難。ウクライナ高官はロシアが独立支援を口実に軍を東部に侵攻させることを懸念。
 ロシアはウクライナ側からの攻撃を非難。ウクライナは否定。米は露の攻撃の偽装を警戒。
 バイデン大統領はプーチンとの会談は可能だがロシアの侵攻がないことが条件だと発言。
 2州の軍事勢力はウクライナ他州にも浸透しており、ウクライナは2州の独立を認めれば事実上ロシア軍の侵攻と判断。ウクライナは国連の安保理にウクライナの安全保障と事態の拡大を防ぐことを議論することを要求。
【感想】
 日本の識者には「ウクライナ内に2州をとどめウクライナ政府をけん制できるミンスク合意を露は狙っている」という見方が多かったが、プーチンは独立支持ときた。露にすれば、悪くてもミンスク合意は取れるということだろう。
 西欧は「制裁」をどう課すのだろうか。「軍事侵攻」はしていないのだが。

2.アラブの支配者はスイスの銀行に資産隠し
【記事要旨】
 クレディスイスから流出した情報がアラブの支配者が多額の資産を隠蔽していたことを明らかにした。個人と国家の資産が分別されていないことも。
 情報に載っている現存する指導者はヨルダン国王のアブドラ2世。ヨルダンには米国から220億ドルの軍事援助がされていたが、2.24億ドルのアブドラ国王の資産がスイス口座に2015 には存在した。
 アラブの春で失脚したエジプトのムバラク大統領一族も2003年に2億ドルをスイス銀行に預けていた。
 クレディスイスはこのような預金者との取引の危険性を無視して取引してきた。
【感想】
 温家宝前首相一族の資産をN.Y. Timesがすっぱ抜いたことがあった。
 経済制裁には、スイスやタックスヘイブンが加わらないと指導者個人には効かない。

3.オーストラリアは2年来初の観光客受け入れを祝う
【記事要旨】
 豪は2020年3月以来初の観光客を受け入れた。ゼロコロナからwithコロナに政策変更のため。
 豪州各地の空港でお祝いがされたが、中国客はどれほど戻るか不明。米とニュージーランドは豪で感染者が増えているので豪への渡航は奨励していない。
【感想】
 この記事からだと、入国時の条件が不明。
 ゆるければ是非行きたいですね。

その他:
中国のリトアニア制裁
China has been blocking imports with Lithuanian parts after the Baltic nation sought closer ties with Taiwan.
日本の佐渡金山
An effort to memorialize gold and silver mines in Japan is the latest flash point with South Korea over Japanese colonial abuses during World War II.

(2020.2.22 Tuesday)

「上流思考」を読まずに読む

今朝の日経で、『上流思考』ダン・ヒース著がAmazonで第一位の人気だというダイヤモンド社の広告に目が行った。”Upstream” by Dan Hearthの翻訳本であろう。

 このブログで再三説明してきたように、まず、Youtubeで著者が話しているvideoが無いか探す。あった。https://www.youtube.com/watch?v=Edoj7cF5QKs わずか4:37の長さだ。しかも日本語訳もある。

【Videoの要旨】
 我々は日常生活で多くの問題に直面する。問題を解決してくれる、消防士、警察官、Lifeguardは重要だ。が、もっと重要なのは、燃えないビルを作る、若者が犯罪に走るのを食い止める、救命胴衣を準備する、といった、問題が起きないように「上流」ですることだ。そのためにはUpstream Heroが重要だ。

 問題の解決を上流で行おうとするUpstream Heroは目立たず時に理解されない。
 Darshak Sanghaviという連邦政府の役人のケースを見よう。彼は「糖尿病予防プログラム」を提案した。人々の健康を増進し、コストが削減できる計画だ。ところが、連邦アクチュアリー(保険数理士)はこのプランに反対した。人々が長生きするとメディケアが立ち行かなくなるというのだ。
 Sanghaviとその上司の再三の申請で、「メディケアを維持するためには病人が死んでもよい」という連邦アクチュアリーの考えは改められた。このプログラムは2015年にやっと承認された。

 このように、問題の根本を解決しようとする努力は目立たない。が、この例では、連邦のルールブックのわずかな改訂が、糖尿病の発生を抑えることにつながったのだ。Upstream Heroを見つけたたえる努力が大切だ。

【感想】
 リスク管理の世界では、予防的統制は発見的統制よりも、コストがかからず有効だと一般的に言われる。
 「今そこにある問題」がはっきりしているなら、後手に回らず先手を打ち、場当たり的に問題に対処するのではなく根本原因(はやり言葉で「真因」という)をつぶすのが正しい対処法だ。
 本書の結論は常識的だ。わかっちゃいるけど「あたふたと毎日忙しく」働かざるを得ない状況をどう解決するか、踏み込んだ分析がされているのだろうか。

 コロナ対応で、厚生労働省の医系技官、政治家、地方の組長等の思惑が異なり我が国では病院・保健所の対応の有効化・効率化が2年経過しても出来ていない。著者はこうした状況にどうコメントするだろうか。

(2022.2.21 Monday)