世界の動き 2024年8月28日 水曜日

今日の言葉
「ウェルスマネジメント」
 以前はプライベートバンキングと言う言葉が一般的だったが今はウェルスマネジメントという言い方が広がっている。
 以下はMUFGのウェルスマネジメントについての説明だ。
 『ウェルスマネジメント(Wealth Management)とは、個人が保有する資産を包括的に管理するサービスの総称です。欧米で主に富裕層向けとして行われてきたサービスで、近年は日本でも富裕層や経営者を中心に提供されています。
ウェルスマネジメントは、富裕層が抱える資産管理に関する課題に向き合うために、専門の知識と経験を有した金融機関とその専門家チームが担います。
顧客が受けられるサービスは、資産運用や資産・事業の承継、M&A、不動産の売買・有効活用、資金調達など、さまざまな領域におよびます。』
 メガバンクと大手証券はこの分野でサービスを拡充している。野村証券の動きについてのBloombergの記事を紹介する。
 『野村ホールディングス(HD)が富裕層に的を絞って改革を進めてきた国内リテール事業が軌道に乗り始めた。資産管理型ビジネス重視の経営方針が実を結んだ形だが、今後も着実に収益を拡大していけるかどうかが焦点となる。同社は4月に営業部門を「ウェルス・マネジメント(WM)部門」に改称。同部門長の杉山剛氏はブルームバーグのインタビューで、「大きな体制変更は一段落した」と述べ、今後は外部経験者を中心に営業担当者を増強するほか、事業拡大のため他社の買収も排除しない考えを示した。』
 証券会社やメガバンクからのアプローチには、手数料をカモられないように注意が必要だ。

ニューヨークタイムス電子版よりTop3記事
1.ハリス氏の世論調査リードを見る
【記事要旨】
 カマラ・ハリス候補は、選挙戦への参入から民主党全国大会まで、全国的な注目を集め、全国および激戦州のほとんどでリードしたが、この政治的な高揚感を維持できるだろうか?
 今後数週間で明らかになる。有権者はハリス氏に対する見方を固めていないが、ドナルド・トランプ氏は彼女にマイナスイメージを与えるのに苦労している。ハリス氏は選挙戦でこれまで障害に直面していないが、普通は直面する時期が来る。
 ハリス陣営とトランプ陣営に共通しているのは、アメリカの製造業と労働者を保護する方法として関税を受け入れていることだが、そのアプローチは大きく異なる。
 トランプ氏は、特に中国に対して高い関税を課すなど、世界の輸出品に一律に上乗せする案を提起しています。ハリス氏は詳細を明らかにしていないが、ターゲットを絞った戦略的な関税を採用するという。
 トランプ氏は、ロバート・F・ケネディ・ジュニア氏とトゥルシー・ギャバード氏を政権移行チームの名誉共同議長に任命する予定だと、顧問が語った。
 R・F・K・ジュニア氏はかつて環境保護の擁護者だったが、気候変動をでっちあげとしているトランプ氏をなぜ支持することになったのだろうか?
【コメント】
 あと70日だ。トゥルシー・ギャバードは聞きなれない名前だが、2020年に民主党の大統領候補を争った女性だ。
 ハワイ第2区選出のアメリカ合衆国下院議員(4期)。2012年初当選、米国議会初のサモア系アメリカ人議員であり、同時に米国議会初のヒンドゥー教徒でもある。本来バニーサンダースに近い急進左派だったのだが、現在は民主党を離党しトランプに接近している。
 トランプは「はぐれ民主党」を集め、支持率をかさ上げする戦術のようだ。

2.ガザで人質救出
【記事要旨】
 イスラエル軍は、ガザ南部でイスラエルのアラブ人市民(アル・カディ氏52歳)を救出したと発表した。同氏は同国の少数派ベドウィンで、10月7日の攻撃以来、イスラエルのアラブ人人質として初めて生還した。
 イスラエル軍兵士と特殊部隊は、ハマス戦闘員を探してトンネル網を捜索していたところ、地下約25ヤードの部屋に1人でいる同氏を発見した。
 アル・カディは、ほぼ完全な暗闇の中で何カ月も監禁されていた。彼の目は、光を見るのに慣れていなかった。
【コメント】
 ちょっと不思議な人質発見だ。他の人質発見にもつながると良いのだが。

3.米国の最高幹部が中国を訪問
【記事要旨】
 ジェイク・サリバン氏は昨日、米国と中国が相違点をうまく乗り越えられることを示すための会談のため北京に到着した。中国の外交政策担当トップである王毅氏との会談は18カ月足らずで5回目となる。話し合うべきことはたくさんあるが、おそらく合意できる内容はほとんどないだろう。
 米国はフェンタニルの拡散防止と高官級軍事交流の拡大、そして中国のロシア支援について話し合いたいと考えている。双方とも台湾問題を持ち出す予定で、北京は米国に技術輸出規制の緩和を求めていることを示唆した。
【コメント】
 1年半の間に5回も会談しているとは驚きだ。日本の外交パイプはどうなっているのだろうか。中国機の領空侵犯が初めて起きている状況で、パイプの細さが懸念される状況だ。

その他の記事
日本:
 台風シャンシャンが南西部に豪雨と強風をもたらし、航空便の欠航を余儀なくさせ、高速鉄道網を混乱させた。
ブラジル:
 世界最大の熱帯湿地帯で、地球上で最も生物多様性に富んだ地域の一つであるパンタナールで山火事が猛威を振るっている。
メキシコ:
 アンドレス・マヌエル・ロペス・オブラドール大統領は、司法改革に対する批判を受けて、自国政府が米国との外交関係を「一時停止」していると述べた。

2024年8月28日 水曜日

世界の動き 2024年8月27日 火曜日

今日の言葉
「原子力発電」
 政府も電力会社も原子力発電所の再稼働を熱心に進めている。原油や天然ガスの輸入によるインフレへの対抗策として有効だと考えられているからだ。短期的にはそうかもしれないが、10年先を見れば、この政策は破綻していると思う。
 なぜか。人材の問題だ。現在日本の大学に原子力工学科は一つもない。私が大学生だったころは花形学科だった。今では学生が集まらないし教えられる教授も枯渇している。
 原子力発電所では初歩的なミスによる事故や火災が頻発している。普通の企業の設備投資では40年と言うのは天文学的に長い時間だから、老朽設備に事故が起きるのは止むを得ない。ところが、電子力発電所では40年経過した発電所をだましだまし再稼働しようとしている。そして、それを支える人材と技術はお寒い限りだ。
 国家全体の事業ポートフォリオとして、原子力からは撤退し再生可能エネルギーに転換すべきだが動きが鈍い。1960年代のエネルギー革命の時代に、日本は石炭から石油へのエネルギー転換を世界に先駆け実施し、その後の高度成長を実現させた。炭鉱の閉山に伴う大きな労働争議を克服して成し遂げた。
 原発の再稼働は電力業界の強い意向とも言われる。電力業界の意向に配慮し、政府は果断な政策を取れないという見方がある。一部業界から政治資金や票に、国の進路を誤らせることがあってはならない。

ニューヨークタイムス電子版よりTop3記事
1.ロシア、ウクライナのエネルギーを標的に全面攻撃
【記事要旨】
 ロシアは昨日、ウクライナの広範囲に200発以上のミサイルとドローンを発射した。この攻撃を30か月に及ぶ戦争における「最大の攻撃の一つ」とゼレンスキー大統領は非難した。
 キエフとウクライナ西部の都市リヴィウの地方当局は、攻撃に関連して停電が発生したと報告した。当局によると、4人が死亡し、30人以上が負傷した。
 「これまでのロシアの攻撃のほとんどと同様に、今回の攻撃も同様に卑劣で、重要な民間インフラを標的にしている」とゼレンスキー大統領はテレグラムの投稿で述べた。
 ウクライナ軍は、3週間前に開始したロシアのクルスク地域での攻勢を引き続き進めようとしている。ウクライナ軍がさらに2つの集落を制圧したと大統領は述べた。
【コメント】
 ロシアの反復攻撃は粘着質が強く執拗だ。原子力発電所への被害が懸念される。核兵器を使わずに核攻撃を実施することが出来るからだ。

2.トランプ氏は討論会から撤退する可能性を示唆
【記事要旨】
 来月予定されている大統領選討論会の司会を務めるABCニュースの司会者と幹部が自分に対して偏見を持っていると日曜に言いトランプ氏は討論会からの撤退を示唆した。
 月曜日、カマラ・ハリス副大統領の陣営は、両候補のマイクが放送中ずっと生放送であることを許可するための合意済みの規則を変更するように働きかけた。「トランプ氏が1人で90分間大統領らしく振る舞えるとは彼の取り巻きが思っていないため、ミュートされたマイクを好んでいると理解している」と広報担当者は述べた。
 トランプ氏の広報担当者は、ハリス陣営が方針転換したのは、これまでの彼女の討論会準備に「明らかに懸念している」ためだと示唆した。トランプ氏はその後、マイクがミュートされているかどうかは自分にとって問題ではないと記者団に語った。
 討論会は9月10日に予定されている。
: 2020年の副大統領候補討論会でハリス氏が際立った瞬間の1つは、マイク・ペンス氏がライブマイクでハリス氏に話しかけ、ハリス氏が「私が話している」という印象的なセリフを言ったときだった。
 両候補とも貧困率を下げた実績を主張できるが、彼らの計画はここ数世代で最も激しい貧困対策の衝突を表している。
 トランプ氏の副大統領候補であるJD・ヴァンス上院議員は、経済学者が記録しているように、関税が米国人のコストを増大させたことを否定した。また、トランプ氏が連邦法による中絶禁止を拒否するだろうと信じていると述べた。
【コメント】
 ハネムーン時期が過ぎ、ハリス旋風が落ち着くのをトランプ陣営は待っている。ハリスは経済金融に強くない印象で、そこをトランプは突こうとしているようだ。

3.パキスタン南西部を揺るがす暴力の波
【記事要旨】
 バルチスタン州全域でのバルチスタン解放軍(B.L.A)による作戦で38名以上が死亡した。同軍は中央政府からの独立を要求してきた数ある軍の1つである。
 襲撃は日曜日に軍の基地を襲撃した爆発から始まり、武装した男たちが少なくとも4つの警察署を襲撃し、警官に銃弾を浴びせた。過激派は橋も破壊し、主要鉄道の通行を妨害した。その後、武装した男たちが高速道路を占拠し、20人近くを射殺したと当局は述べた。
 背景:米軍がアフガニスタンから撤退し、タリバンが権力を握って以来、パキスタン全土でテロが急増している。タリバン主導によるイスラム国(IS)の地域支部に対する取り締まりにより、IS戦闘員がパキスタンに押し寄せているからだ。
【コメント】
 パキスタンは南アジアの大国の一つだ。一時期、イムラン・カーン元首相を巡る政変の記事がタイムズで多かったが、中央政府の状況はどうなっているのだろうか。

その他の記事
ミャンマー:
 中国は今週、ミャンマーとの国境付近で軍事演習を行う。アナリストらは、北京はミャンマーの軍事政権指導者に、同地での反政府勢力との紛争を緩和するようメッセージを送りたいと考えている。
日本:
 中国の偵察機が日本の領空を侵犯した。日本の防衛省は、中国軍による空中侵犯はこれが初めてだと述べた。
気候:
 メタとグーグルは、データセンターの電源を確保するための斬新な解決策、地表のはるか下のクリーンな熱を利用することを検討している。

2024年8月27日 火曜日

世界の動き 2024年8月26日 月曜日

今日の言葉
「ジャクソンホール会議」
 カンザスシティ連邦準備銀行が米国ワイオミング州のジャクソンホールで毎年8月に開催する経済政策シンポジウムのこと。世界各国から中央銀行総裁や政治家、学者などが参加し、世界経済や金融政策について議論を交わす。
 米連邦準備制度理事会(FRB)のパウエル議長は、23日に、主要政策金利を引き下げる時が来たと述べた。ここ数十年で最悪となったインフレを鈍化させるという仕事の完了を目指しつつ経済の力強さ保持に取り組む中、連邦公開市場委員会(FOMC)が9月に利下げを開始するとの見通しを裏付けたほか、労働市場のさらなる冷え込みを防ぐ意図を明確にした。
 それにしても風光明媚なところだなと感嘆する。ブレトンウッズには行ったことがあり、環境の素晴らしさに驚いたが、映像で見るジャクソンホールはそれ以上だ。植田総裁も参加されればよかったのにと思う。

ニューヨークタイムズ電子版よりTop3記事
1.イスラエルとヒズボラが国境を越えた大規模な砲撃を交わす
【記事要旨】
 イスラエル軍とヒズボラは、ガザ戦争が始まって以来、最大規模の国境を越えた砲撃を交わした。
 イスラエルは、昨日、約100機の戦闘機がレバノン南部のヒズボラ関連の標的270か所以上を爆撃したと発表した。匕ズボラは、イスラエル軍の基地や陣地12か所に対して320発以上のロケット弾で応戦したと述べた。
 双方とも、自分たちの行動は成功したと主張した。イスラエルは、攻撃はヒズボラのロケット弾に対する先制防御だったと述べ、ヒズボラは、先月ベイルートでヒズボラの上級司令官フアド・シュクルが殺害されたことに対する報復だと述べた。
 少なくとも今のところ、双方はこれ以上エスカレートするつもりはないとの姿勢を示したようだ。
 米国は、イスラエルへの支持を示し、イランを抑止する試みとして、2つの空母グループとミサイル潜水艦を含む海軍部隊をこの地域に近づけてきた。
 イスラエルによるハマス指導者ヤヒヤ・シンワルの追跡はこれまで失敗してきている。
 イスラエル軍が再び人々に「直ちに」ガザ中心部の一部から立ち去るよう命じた後、パレスチナ人は非難していた病院から逃げ出した。
【コメント】
 2正面作戦を戦うイスラエルは大変そうだが、ヒズボラの拠点爆撃のために200機を使用する戦力の機動力・集中力は凄い。戦争はとても上手だ。

2.テレグラムの最高経営責任者が拘束されたとフランスメディアが報じた
【記事要旨】
 テレグラムの最高経営責任者は、同プラットフォーム上で違法なコンテンツを拡散した罪でフランスで拘束された。
 ロシア生まれの起業家、パベル・デュロフ容疑者(39歳)は、土曜日にアゼルバイジャンからパリ近郊のル・ブルジェ空港に到着後、逮捕されたと報じられている。同容疑者の拘束はすぐには確認できず、在仏ロシア大使館は説明を求めたと述べた。フランス当局、パリ検察庁も現在進行中の捜査についてコメントを控えた。
 テレグラムには9億人以上のユーザーがいる。同プラットフォームでは、そこでの人々の言動をあまり監視していないため、独裁政権下で暮らす人々のコミュニケーションや組織化に役立っている。しかし、このアプリは偽情報や極右過激主義、その他の有害コンテンツの温床にもなっている。
【コメント】
 Telegram(テレグラム)は、暗号化されたインスタントメッセージングアプリケーションであり、ユーザーがテキストメッセージ、写真、ビデオ、音声メッセージ、ファイルなどを送受信できるプラットフォームだ。
 特に、テレグラムの大きな機能の1つにシークレットチャット機能というものがある。チャットのデータが外部に漏れないことを強く意識した設計になっている。
 Bloombergではこの事件を以下のように報じている。
『通信アプリ「テレグラム」のパベル・ドゥーロフ最高経営責任者(CEO)がフランス当局に身柄を拘束されたと、在フランスのロシア大使館が確認した。これより先、ドゥーロフ氏が24日、ルブルジュ空港で逮捕されたとAFP通信が報じていた。テレグラムを使った犯罪を放置した疑いがもたれているという。ロシア大使館はドゥーロフ氏の弁護士と連絡を取っているという。逮捕の報道を受け、テレグラムと関連する暗号資産トンコインの価値は一時23%下落した。』

3.ドイツでの刺傷事件はイスラム国との関連がある可能性
【記事要旨】
 ドイツのゾーリンゲンで金曜日に起きたフェスティバルでの襲撃事件では3人が死亡、8人が負傷したが、当局はイスラム国との関連があるテロ攻撃として捜査中だと述べた。
 容疑者はシリア出身の26歳の男性で、襲撃現場からわずか数百メートルの難民シェルターで暮らしていた。土曜の夜に自首した際、容疑者は血まみれの服を着ていた。
 政治:来月の3州選挙で大きく躍進する見込みの極右政党「ドイツのための選択肢」は、容疑者の身元が確認される前に、「移民・安全保障政策」の変更を求めた。
【コメント】
 ゾーリンゲンは刃物で有名な街だ。昔、お土産に爪切りを貰ったことがある。
 難民認定が進まない日本に比べ、ドイツでは難民はシェルターに住み補助金をもらっているようだが、それでも不満が募るようだ。イギリスでの先日の事件も同様だった。
 難民を受け入れない国として日本は知られているようだが、今後の政策をどうするか考えさせられる事件だ。

米国大統領選挙
 カマラ・ハリス副大統領の選挙陣営は、民主党全国大会の週に8200万ドル、先月5億4000万ドルを集めたと発表した。
 ロバート・F・ケネディ・ジュニアは出馬を取りやめ、ドナルド・トランプ氏を支持した。
 移民問題では、民主党はここ数十年で最も厳しい姿勢を取っている。
 30代のJ・D・ヴァンスは、家族と社会秩序に関する教会の教えに惹かれ、カトリック教徒になった。

その他の記事
ネパール:
 インド人観光客を乗せたバスが川に転落し、少なくとも27人が死亡した。
米国:
 バイデン大統領の大統領令を受けて、亡命希望者は6月以来50パーセント減少した。移民活動家は、あまりにも多くの人々が排除されていると訴えている。
ビジネス:
 セブンイレブンは日本文化の要である。カナダ企業による買収の試みは抵抗に遭った。

2024年8月26日 月曜日

取締役会考 (備忘録的メモ)

 企業経営者の独走による不正を防ぐのがコーポレートガバナンス・コード(CGC)が我が国で導入された主目的で、そのための有効な手段は、社外役員を登用し経営者へのコントロールを効かせるということだった。

 これは有効な手段だったとうか? そうでもなさそうだ。

 例えばトヨタ自動車の取締役会を見てみよう。取締役は10名で、その内4名が社外取締役だ。社内の6名は豊田会長の考えと金太郎あめ的な考えだ。仮に社外取締役4人が団結して何かを提案しても、社内の同意が無ければ過半数を取れず、考えは通らない。

 経営について何か社外役員がアドバイスしようとしても、事業に詳しいのは社内の人達だから、耳を傾けられることは希だ。特に創業経営者が率いる企業では、社外からのコメントは無視されることが通例だ。仮に「胆力があり優秀な社外取締役」が会社のことを思ってアドバイスしたとしてもだ。

 社外役員がとても「有名」な人でも、大して有効に機能しない。伊藤レポートで有名な一橋大学の伊藤教授は、東レで社外役員をしていたが、品質不正を防げなかった。小林製薬では、死者まで出した製造管理への目効きが全く疎かになっていた。

 では社外役員は全く役に立たないかというと、そうでもないと思いたい。
 ・ジュニアレベルの社内取締役や執行役員のなかで
  優秀な人材を見つけ次世代のトップ経営者に育てる
 ・報酬体系を見直し、業界他社を圧倒する人材獲得と
  維持に資する体系を構築する
 ・法律を守るだけの狭いコンプラインスを脱し清廉潔白な
  社風造りに協力する
 というようなことは、社外役員が主導して出来ることのようにも思われる。

 トップ経営者が聞く耳を持つ開明的な人かどうかに大きく依存するのだが、「たかが社外取締役、されど社外取締役」という程度の意義はあると信じたい。

2024年8月25日 日曜日

指名報酬委員会考 (備忘録的メモ)

 日本のガバナンスは3つの類型にわかられる。
 監査役会設置会社、監査等委員会設置会社、指名委員会設置会社の3つだ。

 監査役会設置会社は昔から日本に有った形態だ。取締役会と別に監視機能を担う監査役会がある。社内監査役に就任するのは取締役に成れなかった人。社外監査役には取引関係者や取引関係のある法律事務所、会計事務所からの就任が多いため、監視機能が弱いと言われてきた。
 指名委員会設置会社(委員会設置会社とも言われる)は、「指名委員会」「報酬委員会」「監査委員会」という3つの委員会を設置する。それぞれの委員会の過半は社外取締役とするのが普通で、社外からのの監視機能が強いと言われている。
 監査等委員会設置会社は前述の2つの形態の中間だ。監査役会で社外監査役だった人を監査等委員になってもらい、コーポレートガバナンス・コード(CGC)が求める複数以上の社外取締役の要請を満たそうとするものだ。

 監査役会設置会社や監査等委員会設置会社では、指名委員会、報酬委員会(会わせて指名報酬委員会とするケースが多い)を諮問委員会として設置するのが流行りだ。CGC上、対外的に説明がしやすいからだ。

 委員会設置会社は先進的と言われてきたが歴史はそうでもないことを示す。不正会計による企業解体に至った「東芝」や、経営者の適切な交代が進まず株価の急低下を招いた「ソニー」の例がある。組織の形態先進的だからと言っても、それが良い経営や好業績を保証するものではない。
 トヨタ自動車は、今でも監査役会設置会社であり、10名の取締役の内4名が社外取締役だ。最近型式認定問題でミソをつけたが、日本を代表する優良企業と目されているのは間違いない。

 さて、問題は指名報酬委員会のあり方だ。
 役員への「指名」(登用)、役員への「報酬」の決定は権力の根幹だ。上場企業となった後でも、創業経営者はそこに他人が口を出すのを好まない。自分が創業してここまで育ててきたのだからと考える。それは良く理解できる。

 だから、形式的に指名報酬委員会を作っても、実際の運営はブラックボックスになっている企業も多い。排除される以前のカルロス・ゴーンは委員会での議論がどうであれ、指名報酬の最終決定者は代表取締役である ゴーンになっていた。

 日本を代表する創業オーナー系上場企業としてNIDECが挙げられる。CGCには以下のように記載されている。
・・・・・・・・・・
 指名委員会、報酬委員会は、取締役会の諮問機関として、取締役会の諮問に応じて審議を行い、その結果を取締役会に対して答申しております。委員会は、委員の過半数を独立社外取締役にて構成しております。
 グローバルでの競争力強化と事業の持続的な成長・発展につなげるべく、指名委員会では、取締役及び執行役員等に選任方針・選任基準や継承プラン及びサクセッションプランの考え方、取締役、社長、及び副社長の候補者案等を審議しております。
 また、報酬委員会では、役員の報酬に係る報酬決定方針の策定、報酬制度の設計(業績目標の設定、業績連動報酬の合理性、報酬構成の妥当性、報酬制度に基づく個別報酬額等)を審議しております。
・・・・・・・・・・

 指名であれ報酬であれ、最終決定者は永守会長であることは日本中で知れ渡っている。
 それはそうであっても、NIDECがCGCに記載していいる程度の指名報酬委員会活動を行うことは、創業オーナー系企業でも、不可欠だろう。

 また新任の取締役、監査等委員になる取締役については、少なくとも指名委員会委員長、監査等委員会委員長との面談が不可欠だ。特に監査等委員である取締役は監査等委員会の了解が不可欠であり、これなしに株主総会への上程は出来ないので注意が必要だ。

 ガバナンスは業績が好調の内は問題にならない。「利益はすべてを癒す」からだ。
 問題は、不祥事が明るみに出た際には、ガバナンスの在り方が必ず指弾されることだ。万一、株主代表訴訟にでもなったら監査等委員は株主からの負託を受けて経営陣を糾弾することが必要になる事態も起こりうる。

 最後は経営者を守る体制になるのだと理解し、最低限のガバナンス体制を構築する必要がある。

2024年8月24日 土曜日