米穀通帳

 米国の銀行口座の話ではない。1981年の食糧管理法の改正で廃止されるまで存続していた米の消費を政府が抑制するために作った制度だ。第二次大戦前の戦時体制の確立と、戦中戦後の食糧不足を切り抜けようとして政府が考え出した制度だ。この通帳が無いと一般家庭で米が買えない時代があったのだ。

 私の経験を記す。小学生になり自転車を乗りこなせるようになると、家からかなり遠いお米屋さんにお米を買うお使いに良く行ったものだ。1960年頃の横須賀での話だ。もちろん米穀通帳を持たされた。

 どの米が良いかというようなお米の選択肢はなかった。お米屋さんが米穀通帳に判を押して渡してくれる(多分)5㎏のお米の袋を自転車にのせて家に帰ったものだ。

 その後1969年には自主流通米制度が出来、1972年には米が物価統制令から外れ、米穀通帳は有名無実化した。私の通帳の記憶も60年代後半には途絶える。

 さて、令和の米不足問題だ。

 その解決策として
・減反政策を改め米の生産量を拡大する
・米の輸入を拡大する
・JAを頂点とする流通ピラミッドにメスを入れる
 とか、いろいろなアイデアが自民党から出ている。

 日本国内の米の生産量は、2024年で679万トン。米の消費量は700万トンと言われ、数十万トンほどこれを上回っているようだ。(主食としての消費量と、アルコール飲料用、飼料用の区別が明確でなく、直近の数字も無いので、概算だ) また、一人当たりの米消費量は年間50㎏という統計もある。

 WTOの規制で関税の掛けられないミニマムアクセス米の輸入が77万トンあり、以下の式が成り立ち、需給は均衡するはずなのだ。
  国内生産679+MA米77 > 米消費量700

 日本の人口は年間100万人ぺースで減少しているので、50kg X 100万人=5万トン、毎年米の消費は確実に減少する。こうした需要の自然減を考えれば、米の増産策は悪手だ。放棄地を農地に転換する農家に補助金を出すような施策は農民票目当てのバラマキだ。

 MA制度に頼らず、関税を払ってでもカリフォルニア米を輸入する流通大手が出てきた。その方が銘柄米よりずっと安いからだ。日本の米が、米国や韓国では日本より安く売られているという報道も多い。価格メカニズムが日本でいびつになっている証拠だ。

 米穀通帳を使って需要を抑制する時代はいざ知らず、米の流通を開放し、外国米の輸入を拡大すべきだ。市場メカニズムを通じた市場の公正化は、アダム・スミスの時代からの至言だ。

 日本の農家はどうすればよいのか。作り手の見える銘柄米で価格を維持して行く。高価格でも買い手はいるはずだ。
 大規模化により輸入米に対抗できる価格で、国産米を提供する。これも可能なはずだ。

 政府からの補助金は、真摯に農業に取り組む農家へのミニマムにしてもらいたいものだ。

2025年6月8日 日曜日