振り子に揺られ(米国政治の考察)

 米国政治の現状を米国人の友人(民主党支持者)が送ってきたので紹介したい。

・・・・・引用・・・・・

【左右に揺れる社会と政治の振り子】
 新政権が 1 月 20 日にホワイトハウスに入る準備を進めていますが、これは、去って行くバイデン政権とは大きく異なる見解を持つ政権です。しかし、米国史を通じて、時々の民の声とそれを反映する政治は、一直線、一方向に動いてきたわけではありません。振り子のように、社会も多数派の政治も右に振れ、左に振れ、中位へ戻り、また左に振れるのです。

 ジョージ・ワシントンとその盟友たちは、フランスなどで見られていたような、政治派閥間の激しい対立を避けるため、政党のない政府、即ち一国一党の政府を樹立しようとしました。ところが、10 年しか経たぬうちに必然的に 2 大政党が対極する形で形成されました。

 下記、当時の状況を描写したタイム誌のエッセイを引用します。
 『(政治の)振り子は限界に達し、重力が働き、或る日突然、世界のあり方について相反するビジョンを持つ人々(政治家)の手に国の支配が切り替わって委ねられた。このような急変(振り子の揺れ)は政治体制に組み込まれている。
 第三代大統領トーマス・ジェファーソンを支援した要人達は、王制、つまり遺伝という直系で定義される政治形態の下で暮らしていたことを覚えていたはずである。彼らが築き上げようとした新しい民主主義国家は、これとは異なり、王制には戻らないように、考えつく限りの防御を備えたものであった。
 それ以降の数百年にわたり、いろいろな政党が力を伸ばし、滅び、また互いに主導権を譲り合うというプロセスがなんとか続いてきた。振り子とはそういうものだ。たとえ振りが良い方向に向いていたとしても、いつか反対の力に引っ張られかねないエネルギーが高まっていく。』

 この国の政治の流れを見れば、振り子は保守的なイデオロギーとリベラルなイデオロギーの間を、また、金権的な利害関係者が望むものと庶民が望むものの間を、行ったり来たりするもので、どちらかの方向に振れすぎると、引き戻す引力が働く訳です。

 アメリカの政治は本質的に対立関係にあり、最近、対立はますます顕著です。11 月に当選した反動的で右寄りの政党は、富裕層の献金者がビジネス環境の改善(より低い課税率及びより少ない規制)を求める一方で、広範なトランプ支持者が生活費の低減と移民政策の強化を求めたもので、この社会と政治の振り子の揺れを反映しています。無論、トランプが課すと公言している関税引上げは、実行されることによって、特定の国内産業を活性化させる可能性があるものの、経済学者の多くは、彼の支持基盤、特に労働者階級の消費者を傷つけるだろうと考えています。同様に、何百万人もの低賃金移民労働者を追放してしまえば、多くの企業の人件費を直接引き上げることになると想定されます。発言力の強い農業関係者は既にトランプに対し彼らを移民法施行から除外するよう求めています。
近日中に、サービス産業の大手も新政権に圧力をかけるでしょう。

【社会の 「引力 」は、今のところは右へ】
 著名な社会学者、フランシス・フクヤマ氏(米人)は『フィナンシャル・タイムズ』紙に寄稿しした論文に、今社会がリベラルと保守の間でシフトしていることを 「大局的 」に分析しています。以下に抜粋します。
 『古典的自由主義は、個人の権利を保護する法の支配と、国家がそれらの権利に干渉する能力に対する憲法上のチェックを通じて、個人の平等な尊厳を尊重することを中心に構築された原理である。しかし、過去半世紀の間に、この基本的な理想は 2 つの大きな歪みを生じた。
 ひとつは「新自由主義」の台頭で、市場を神聖化し、経済変動によって傷つく人々を保護する政府の能力を低下させる経済教義である。(それで)世界は全体としては豊かになったが、労働者階級は(安定度のある)仕事と(経済的)機会を失った。経済力は産業革命を起こした地域(欧米)から、アジアやその他の発展途上国に移った。
 第二の歪みとは、所謂アイデンティティ政治、或い
「覚醒したリベラリズム」とでも呼ぶべきものの台頭である。そこでは、労働者階級に対する進歩的な配慮が、人種的マイノリティ、移民、性的マイノリティなど、周縁化された狭い集団に対して的を絞った保護に取って代わられた。要するに、国家権力は、公平な正義のためではなく、むしろこれらの集団の特定の社会的成果を促進するためにますます利用されるようになった。』

【締めくくり】
 振り子が揺れ動くように、競合する勢力間の完全で長続きする均衡はそう簡単に達成できるものではないかもしれず、ぐらつくことはありますが、システムとしては機能してきていると思います。実際、「2 つの主流政党がほぼ同等に強いことには利点がある。」という 2 世紀も前からある考え方は、この振り子効果を可能にするためです。
 私の推測では、アメリカの有権者がより極端な MAGA 政策が及ぼす芳しくない効果に反応するにつれて、振り子は数年以内に戻り始めると思います。やはり民意という重力が最終的に勝つのです。親愛なる日本の読者の皆さん、今の政治的な揺れを過度に心配することはないとも思います。

・・・・・引用終わり・・・・・

2年後の下院の選挙で民主党がどれだけ挽回できるかが2大政党制が有効に機能するカギになると思われる。

2024年12月7日 土曜日