日本製鉄のUSスチール買収について

 50年前の産業のコメを巡って日本最大の鉄鋼会社が米国最大手の買収に動いた。米国の著名投資家であるKeith Fitz-Gerald氏の否定的なコメントを紹介したい。
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 日本の日本製鉄はUSスチールを149億ドルで買収することを計画しており、今朝の株価は跳ね上がっている。
 この買収は(日本製鉄にとって)上手く行かないと思われる。この状況は、日本企業が世界の不動産を食い荒らしていた1980年代後半に、私がキャリアの中で関わった初期の取引のいくつかを非常に思い出させる。
 当時の日本の経営者は、不動産は時間が経てば必ず価値が上がる資産であると考えていた。 彼らの取引の決定的な特徴は、彼らが大幅な過剰支払いをいとわないことだった。 その結果、その後多大なキャッシュフローの問題が発生し、数年後に日本市場全体が混乱に陥り、最終的には大損失が発生した。
  今回は、日本製鉄は8月11日に見直しを発表して以来、更に42%のプレミアムに相当する1株当たり55ドルを提示している。 同社は、UAWのストライキを受けて自動車メーカーが生産を増やすことで、米国の鉄鋼需要が加速すると予想している。
  これには、ものすごい既視感を覚えずにはいられない。
 日本の経営陣は鉄鋼生産と生産能力1億トンという世界目標に集中するあまり、1) 自動車製造プロセスへの代替材料の導入を過小評価し、2) 差し迫った中国自動車メーカーの世界的な自動車市場への参入を完全に無視しているのではないかと思われる。
 自分はむしろ、米国の自動車生産と鉄鋼消費は今後10年間で減少すると見ている。
 もしあなたが US スチール社を所有しているなら、売却してキャッシュを手にすることを真剣に考える。
 もしあなたが日本製鉄を所有しているなら、上手く行っているうちだけ維持することを真剣に考える。
 油断大敵だ!
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 Keithの言う既視感は私にもよくわかる。私がニューヨークに赴任した1990年初頭、ニューヨークの主要なビルの殆どが日本企業により保有されていた。バブル期の日本の不動産に比べればとても安く見えた物件を日本企業が高値で買いあさったのだ。日本でのバブル崩壊で資金繰りがつかなくなったのはKeithの言う通り。いまは何も残っていない。
 ただ、不動産と実業は違う気がする。
 USスチールはKPモルガンやカーネギーを発祥とする米国資本主義発祥の名門企業であり、強硬な労組の存在でも有名だ。
 日本製鉄には、買収後の経営を上手に行って、日米最大の鉄鋼会社を持つメリットを活かす経営を行うことに期待したい。価格の多寡よりも、経営力が問われる買収だ。

2023年12月19日 火曜日