高市新総裁誕生

【高市新総裁】
 自民党の新総裁に高市早苗氏が選出された。女性初の総裁で、首相に選出されるのも確実だ。
 高市氏の選出を見て、リズ・トラス氏が英国の首相に選出されたときのことを思い出した。
 ダウニング街の官邸前で当時47歳だったトラス氏は自信たっぷりに首相就任演説を行った。危機に瀕したこの国を立て直すのだと。その直後、同氏の拙速な経済政策は「トラスショック」を引き起こした。

【トラスショック】
 トラスショックとは、2022年9月に英国のトラス政権が発表した、財源が不明確な大規模減税策(ミニ・バジェット)が引き金となり、英国の金融市場で発生した混乱だ。財政赤字拡大の懸念から英国国債が売られ価格が下落(金利が急騰)、ポンド安、株安が同時に発生し、「トリプル安」とも呼ばれた。中央銀行の介入や減税策の大部分の撤回、そしてトラス首相自身の辞任につながり、政権の短命化を招いた。

【トラスショック発生の背景】
 積極財政の減税策: 当時のトラス政権は、財源の裏付けを示さずに大規模な恒久減税を発表した。
 財政規律への不安: 市場参加者は、この減税が財政赤字を拡大させ、インフレを加速させると懸念した。
 イングランド銀行の政策: ちょうど金融引き締め(量的引き締め、QT)に踏み出した中央銀行の政策とも重なり、市場の不安が増幅された。
 そして、財源不明な減税策への市場の信頼喪失が、国債価格の急落(金利急騰)、ポンド安、株安を同時に引き起こした。

【日本への示唆】
 現在の日本は、国債金利の急騰、円安、まではトラスショック時の英国と同じだ。かろうじて株高がトリプル安を免れさせている。ただしこの株高は、日銀の国債引き受けによる過剰流動性とETFやREITの日銀購入で支えられた株高という面が強く、日銀は徐々にそれを修正しようとしている。ここで株安が起きれば、トラスショックのトリプル安が日本でも現出される。
 高市氏は5人の候補の中では唯一のアベノミクスの信奉者で、減税へのアレルギーも林氏や小泉氏に比べて少ないようだ。財政規律を国民が気にし始めると彼女の基本政策には逆風になる。

【信頼ということ】
 トラス氏は若かったが、政治の経歴は長かった。ただ、同氏は英国経済の苦境を乗り切るための自分の考えで、世論と市場を説得することができなかった。結局、彼女は、世論と市場の信頼を得られなかったということだ。
 一回目の党員投票で高市氏が一位になったのを見て、自民党員と一般国民の乖離が気になった。一般国民の人気では小泉氏と筆者は思っていたからだ。
 世襲政治家でない高市氏を筆者は評価してきた。靖国参拝や、男系天皇堅持、夫婦別姓反対といった筆者と意見が異なる点は多いにしてもだ。その高市氏が、最後に世襲政治家のボスである麻生氏に支援を求め、それが決選投票の議員票獲得に奏功したようだ。
 トラス氏のように、国民の信頼と市場の信頼を失うことなく、長期安定政権を築くことができるだろうか。

2025年10月5日 日曜日