日中関係の歴史的困難

 西部邁の『続批評する精神』という本を愛読している。那須に来るたびに一日一度は5分ほど目を通し、いつも目から鱗が落ちる思いがする。

 この本は主に同氏の論壇時評を集めたもので七〇年代終わりから八六年ぐらいまでをカバーしている。八七年七月の標記のタイトルの文章は二五年の歳月を経ているが、日中関係が基本的には少しも変化していないことをあらわしている。

 西部はこの文章のなかでいくつかの論考を批判的に解説しているが、結論部は主に中嶋峰雄の「いまこそ歴史の「帳簿」の決算を」という正論に発表された論文を批判している。

 中島は「中国に対する「御祝儀外交」および「陳謝外交」をそろそろ止めにし、友好のみではない対決もまた必要なのだ」と主張する。西部は「それはそうなのだが、中嶋氏も認めているように「日本は中国に一番借りの有る国である」という「歴史の帳簿」を廃棄することなどできはしない。そんなことをすれば日本が法匪になってしまう。とすれば祝儀や陳謝の必要もまだまだ続くのであろう。そこでなおかつ対決もしようというのだから、なまじっかな力量では「フラジャイルな国際関係の典型である」日中関係に対処できない」と説く。

 この後西部は自身初の中国旅行の予定だったが、旅行後の論考は、残念ながら載っていない。1987年当時日本のGDPは中国の八倍もあった。現在は中国が日本の四倍であり世界中で影響力を強めている。

 西部が存命であったら現在の日中関係にどのような判断を下すだろうか。

(2022年8月7日 日曜日)