「祖国はありや?」

「マッチ擦るつかのま海に霧深し 身捨つるほどの祖国はありや」

 1935年〈昭和10年〉12月10日に生まれ- 1983年〈昭和58年〉5月4日に47歳で夭逝した寺山修司は、日本の歌人・劇作家。演劇実験室を標榜した前衛演劇グループ「天井桟敷」主宰。

 青森なまりを引きずりながらアングラ劇団を率いる時代の寵児は、繊細な言葉を操る天才的な歌人でもあった。

 この短歌は寺山の代表作。マッチをする一瞬に見える霧に包まれた海と祖国なるものへの疑念を見事に読んだ句だ。「祖国はありや?もちろん、無い」 反体制派・無政府主義者寺山の決意表明とも読み取れる。

 いま、国防の議論が喧しい。もう一度味わいたい名句だ。

(2022年6月18日 土曜日)