翳り行く街、といってもユーミンの歌ではない。
我が家は雪が谷大塚駅の近所にある。そう言うと、良い住宅街にお住まいですねと言ってくださる方が時々いる。大学同期で日銀に入った友人は、若いころ雪谷の社宅に住んでいたことがあり、良い場所だねと言ってくれる。駅の近所は商店が多く、区役所や警察・税務署が近く、コンビニと薬局は徒歩2分。便利で気に入っている街だ。
しかし、良い住宅街は?だ。昔はそうだったのかもしれないが、今はワンルームマンションと狭小住宅がひしめく街になっている。駅に近い100坪近くある土地は、代が変わると大抵ワンルームマンションに化ける。昔からあった7-80坪の邸宅は取り壊されて3軒の戸建て住宅と化す。街並みは悪くなる。
この付近の例外は田園調布で、風紀保存条例により土地が50坪以下に細分できないようになっているそうな。辛うじて景観が保たれ高級住宅街の評価も維持している。
街並みの劣化には、大きな理由が二つある。一つ目は相続税だ。税金を物納できないので、地価の上がった現在、そこそこの不動産を遺産としてもらったら、売却して現金化しなくてはならない。都内で80坪の敷地の一戸建てがあれば、一軒で売ろうとしても高すぎて庶民には手が出ない。不動産屋が購入し、細分化して狭小住宅として売ることになる。
二つ目は持ち家志向の核家族化だ。田園調布で二世帯住宅がよく売りに出ている。いずれは子供夫婦と一緒に住もうと思って二世帯住宅を親が建てても、子供には子供の暮らしがある。サラリーマンなら地方や海外勤務もあろうし、親との同居を望まぬお嫁さんも多かろう。持ち家を奨励してきた国の住宅政策が、持ち家を持って一人前という考えを人々に刷り込んでいるので、住宅ローンを組んで家を買おうとする人が多い。子供と同居できないままに親は介護付き老人ホームに入り、更に、親が亡くなるころには子も老いて、親はおろか、自分の住まいも持て余すことになる。
日本では空き家が大問題になっているが、相続税と持ち家志向の核家族化に正面から取り組まないと、国民経済的には無駄が多く、空き家により街は寂れ、狭小住宅で街並みはスラム化する。
(2022.3.26 Saturday)