トランプ旋風

 就任前からトランプ旋風が吹き荒れている。曰く、グリーンランドは米国領たるべし。パナマ運河は米国領たるべし。関税を避けたければカナダは米国の51番目の州になるべし。メキシコ湾という呼称はアメリカ湾にすべし。非常事態宣言を出して就任初日から輸入品に一律に関税を課す。等々だ。

 トランプの(少なくとも現状は)バディーであるイーロン・マスクは、ドイツのショルツ政権をこき下ろし、極右のAfDへの支持を公言している。英国の労働党政権も非難の的だ。

 こんなに訳の分からない乱暴者が近くにいたらどうするか。「ジャイアン」の子分の「スネ夫」のように言うことを聞きまくるか、「のび太」のように、いうことを聞くふりをしながら事態の変化を待つか、どちらかだ。本当は「できすぎ君」のようにずば抜けた成績でジャイアンに一目置かれる存在になれば良いのだが、これは中国が取りうる戦略で、現在の日本には一目置かれる材料が乏しい。

 だらだら先延ばしするのは日本の得意技で、「検討します」と言うのは「何もしない」という意味で、「真剣に検討します」と言うのは「少し考え始めてみる」という意味だという政府・官庁用語はわれわれにはおなじみだ。

 とりあえず「検討事項」が積みあがるかもしれないが、その内に潮目は必ず変わるものなので、のらくらと時間をかけて「誠心誠意」対応すれば良いのだ。

2025年1月12日 日曜日

石破総理のマレーシア、インドネシア歴訪

 最初の外訪先としてASEANの当初メンバーであるマレーシアとインドネシアを選んだのは妥当だ。対日感情に問題は無いし、難しい二国間問題も無い諸国だ。

 この外訪を巡り、メディアでは、「同志連合」「(対中を念頭に置いた)防衛協力」「法の支配」といった言葉が躍っているが、能天気と言うほかない。

 今やASEAN諸国の最大の貿易相手国は中国であり、南シナ海を巡る領土問題があるものの、これらの諸国には中国と対立しようという考えは夢にも無い。プラグマティックな諸国は、「同志」「法の支配」という鼻白むようなお題目には、反対しないまでも、興味は無い。彼らにとっての国益は、中国と日本から最大の経済的なメリットを引き出すことだ。

 「防衛協力」については、日本人から見ても、噴飯物だ。日本は尖閣列島を囲む領海への中国船の侵入を有効に阻止できていない。日本のEEZに中国が設置したブイ一つについて(最近一つ増えたらしいが)さえ、毅然とした対応が出来ていない。万一どこかの敵国から武力行使を受けても、現場の指揮官には武器で反撃する権限も法律上与えられていない。

 こんな国と真剣に防衛協力する国があるものだろうか。

2025年1月11日 土曜日

世界の動き 2025年1月10日 金曜日

今日の一言
「日鉄、USS交渉の勝者」
 日鉄がバイデン大統領と米鉄鋼メーカーを相手取ってUSS買収の差し止めを阻止する訴訟を起こした。
 この訴訟は長引きそうだ。

 どういう結果になっても、訴訟の勝者はUSSでも日鉄でも米政府でもない。弁護士事務所が明確な最大の勝者だ。

ニューヨークタイムズ電子版よりTop3記事
1.消防士たちはロサンゼルスの山火事の鎮圧に急いだ
【記事要旨】
 当局は昨日の風速の低下が消防士たちが火災を鎮圧するチャンスとなることを期待していた。死者は現在5人だが増加が見込まれる。約18万人が避難命令を受けた。
 危険な突風であるサンタアナの風は週末にかけて強まで続くと予想されている。ヘリコプターと飛行機が不吉なオレンジ色の空から水を投下し、消防士たちは新たな水を供給して火災と戦った。
 有名人や芸能界の重役たちが住むハリウッドヒルズも、一晩で燃え始めた。パリス・ヒルトン、ビリー・クリスタルなどセレブリティが家を失った。
 警察当局によると、混乱の最中に20人が逮捕され、略奪の罪で告発された。
 背景:米国の小さな州2つ分の大きさがあるロサンゼルスでは、災害や暴動が都市の片側で起きても反対側では現場から遠く離れている。しかし、今回の山火事は大都市全体を襲っている。
【コメント】
 「サンタアナの風」は、南カリフォルニアに特有の海に向かって吹く強い乾燥した風だ。レイモンド・チャンドラーの小説にもよく出てくる。「カリフォルニアの木立の中では煙草を外に捨ててはいけない」とフィリップ・マーロウが言うくだりがPlaybackにある。
 不謹慎な言い方だが中国の電磁戦より放火の方が米国への打撃は大きい。

2.レバノン、2年間の膠着状態を経て大統領を選出
【記事要旨】
 レバノン議会は、レバノン軍司令官のジョセフ・アウン将軍を次期大統領に選出した。
 アウン氏は第2回投票で圧倒的多数で勝利した。レバノンは近年、経済崩壊やイスラエルと過激派組織ヒズボラとの戦争など、一連の災難に耐えてきた。
  背景:アウン氏は米国の支援を受けているとみなされており、レバノンで広く尊敬されている。2017年以来、同氏は軍を率いており、軍は宗派を超えた支援を受ける唯一の国家機関である。
【コメント】
 リーダーの不在が2年ぶりに解決したが、レバノンと言えばカルロス・ゴーン氏はどうしているのだろうか。

3.米国のウクライナ支援のやり方
【記事要旨】
 「ウクライナ防衛連絡グループ」は今週、バイデン政権下では最後の会合を開く。このグループは2022年のロシア侵攻後に初めて結成され、ウクライナに援助と弾薬を提供した。また、米国の古くからの敵を弱体化させるまれな機会を与えた。
 バイデン政権は米国の同盟国に支援を求め、NATO加盟国以外の国との関係も利用した。米国当局者によると、このグループの結成方法は、台湾に対する中国の攻撃など、大規模な紛争に対応する青写真となる可能性がある。
 今後の展開:グループの運命は不透明だ。トランプ次期大統領はウクライナ支援に非常に懐疑的で、プーチン大統領を気に入ってきた。米国が撤退した場合、別の国が引き継ぐ可能性があると国防総省は述べた。
【コメント】
 なるほど、こんな組織があったとは知らなかった。トランプは当然継続しないから戦争はNATOの課題になる。

その他の記事
追悼:
 ワシントンでジミー・カーター元大統領の栄誉が称えられ、米国の存命大統領5人が集まり、別れを告げた。
ベネズエラ:
 同国の人気野党指導者マリア・コリーナ・マチャド氏がカラカスでの反政府デモ中に拘束されたと同党が発表した。
経済:
 米国で最も人気のある住宅ローンである30年住宅ローンの平均金利は、7月以来の最高水準に上昇した。

2025年1月10日 金曜日

世界の動き 2025年1月9日 木曜日

今日の一言
「まだディスインフレか?」
 ディスインフレ(disinflation)とは、物価上昇率が低下する経済状態を指す。インフレーションが進行する中で、金融引き締め政策などの結果、物価上昇のペースが鈍化している状況だ。
 ディスインフレと似た言葉に「デフレーション」があるが、デフレーションは物価が下落している状態を指すのに対し、ディスインフレは物価上昇は続いている。(証券用語集より)

 米国債市場で20年債利回りが一時5%台に乗せた。インフレ懸念で世界的に金利に上昇圧力がかかる中、国債市場が転換点を迎える不吉な予兆となる恐れがある。20年債利回りが5%を上抜けるのは2023年以来。10年債利回りも節目の5%が視界に入ってきた。
 トランプ次期大統領の政策が物価上昇圧力を再燃させ、財政赤字の拡大を招きかねないとの懸念があるが、イエレン米財務長官は、予想を上回る経済指標が金利見通しの再考を促し、米国債の売りにつながっているとの見方を示した。ディスインフレについては、過去数カ月はあまり進展が見られていないが、物価上昇率は低下傾向にあり、労働市場は物価上昇の要因ではないと確信していると語った。(Bloombergより)

 まだディスインフレの状況でインフレ再燃ではないという見方だが、債券市場は警鐘を鳴らしている。株式益回りが歴史的な低水準にある株式市場への影響が懸念される。

ニューヨークタイムズ電子版よりTop3記事
1.水不足で南カリフォルニアを襲う致命的な山火事
【記事要旨】
 昨日、ロサンゼルス地域で複数の制御不能な火災が発生し、少なくとも2人が死亡、多数が重傷を負った。火災により住宅や事業所が破壊され、高速道路が煙で覆われた。当局は水供給の減少を警告し、最悪の事態はまだこれからだとした。
 何万人もの人々が自宅からの避難を余儀なくされ、避難命令が出された地域は時間ごとに増えた。少なくとも18の学区が閉鎖を報告し、約40万人の電力顧客が停電した。煙が空に流れ込むと空気の質が悪化した。
 ハリケーン級の強風が火災を助長し封じ込めを妨げた。強風のため消火用の航空機を地上にとどめざるを得ず、消火は困難を極めた。
 2001年から2020年の間に米国本土で発生した6万件の山火事を分析したところ、カリフォルニアと西部の他の地域では数十年にわたって件数が増加している。この地域の気温が上がり乾燥するにつれて、地面はより燃えやすくなっている。
【コメント】
 パシフィックパリセーズとサンタモニカはUCLAに留学中になじみのあるエリアだ。パシフィックパリセーズは富裕層の住む美しい住宅街だ。多くの住宅に延焼しているようで心配な状況だ。

2.トランプ氏の外交政策の脅しに世界の指導者が反応
【記事要旨】
 火曜日、トランプ次期大統領は、米国が軍事介入によりパナマ運河を取り戻す可能性を示唆した。その後、グリーンランド併合にも同じことができるとほのめかした。また、カナダを米国の一部にするために「経済力」を使うと脅し、メキシコ湾を「アメリカ湾」に改名すべきだと示唆した。世界の指導者の反応はまちまちだった。
 「我が国の運河の主権は譲れないものであり、我が国の苦闘と不可逆な歴史の一部である」とパナマのハビエル・マルティネス・アチャ外相は述べた。グリーンランドの住民は当惑し、不安になっているようだ。
 カナダのジャスティン・トルドー首相はソーシャルメディアの投稿で「カナダが米国の一部になる可能性はゼロだ」と反応した。
 メキシコのクラウディア・シャインバウム大統領はトランプ氏の主張のいくつかを否定し、米国は「メキシコのアメリカ」に改名されるべきだと冗談を言った。
 関連記事:トランプ氏は、イスラエル人人質が今後2週間以内に解放されなければ「中東で地獄が勃発する」と誓った。ガザの住民は疑問に思った。これが地獄でないなら、一体何が地獄なのか?
【コメント】
 言いたいことを躊躇なくためらいなく言い出す世界一の権力者はとても危険だ。彼の発言や行動にアドバイスできる腹心の部下は誰もいないようだ。

3.英国、アフガニスタンでの戦争犯罪調査の証拠を公開
【記事要旨】
 英国国防省による戦争犯罪疑惑の調査の一環として昨日公開された証言によると、英国特殊部隊の兵士はアフガニスタンの過激派に対して極端な手段を使った。証拠は、エリート戦闘部隊が何の罰も受けずに行動し、敵の死者数を活動の基準として最優先している姿を描き出している。
 証拠は、上級将校と一般兵士による電子メールのやり取り、手紙、証言から得られた。英国部隊の1人は、兵士たちは「殺人を犯しても罰せられない黄金のパス」を持っているかのように行動したと語った。
【コメント】
 映画「ランボー」だと西側兵士が受けている拷問を英軍部隊は敵と住民とに行っていた。かかる調査結果が公表されるとは英軍には自浄能力があるということだろうか。

その他の記事
韓国:
 尹錫悦大統領の治安部隊は、反乱容疑で大統領を拘束しようとする動きを阻止し、再びそうすることを誓った。このグループのルーツは軍事独裁政権の時代にある。
オーストリア:
 極右の自由党は移民を悪者にすることで着実に支持を集め、国内の政治の主流に入り込んでいる。
テクノロジー:
 OpenAIの最高経営責任者サム・アルトマン氏の妹アン・アルトマン氏は、未成年時に同氏から性的虐待を受けたとして訴訟を起こした。

2025年1月9日 木曜日

世界の動き 2025年1月8日 水曜日

今日の一言
「株式益回り」
 益回りとは、1株あたりの税引き利益を株価で割った数値のことであり、株価収益率(PER)の逆数(1/PER)。
 益回りは、株式を分析する際に用いられる指標の一つで、益回りが高いほど株価が割安と判断される。
 株式相場の割安・割高を判断する際には、長期金利(長期国債の利回り)から益利回りを差し引いた「イールドスプレッド」や、長期金利を益利回りで割った「イールドレシオ」などの指標も活用される。
 この益回りが歴史的低水準にあり債券の利回りより低くなっていることに警鐘を鳴らす見方もある。以下Bloombergの記事より。
 『米国株式の強気派は少し熱狂し過ぎているのかもしれない。そのシグナルは米国債市場で点滅している。
  S&P500種株価指数の益利回りは米国債利回りとの比較で、2002年以来の低水準にある。つまり債券と比較した株式は約20年ぶりの割高水準にあることが示唆される。
  社債に目を向けると、「BBB」格付けドル建て社債の利回り5.6%に比べれば、S&P500種の益利回り3.7%は08年以来の低水準に近い。
  株式の益利回りは通常、BBB社債利回りを上回る。それは株式の方がリスクが高いからだ。今世紀に入ってからの市場を見ると、このギャップがマイナスだった時期がある。今もそうだ。この状態は株式市場の雲行きが怪しいことの示唆である傾向が強い。マイナスになったのは経済がバブルの状態にある時か、クレジットリスクが急上昇している時だけだと、ブルームバーグのストラテジストが先月分析している。』
  この記事はSP500のPER27倍を前提としている。時価総額の大きい値嵩株の影響があるので、一概に益回りが債券より極端に低いとも思えない。

ニューヨークタイムズ電子版よりTop3記事
1.Meta はファクトチェック プログラムを終了
【記事要旨】
 Meta は Facebook、Threads、Instagram でサードパーティのファクトチェッカーの使用を停止し、代わりに、X で使用されているシステムと同様に、ユーザーが虚偽または誤解を招く可能性のある投稿にメモを追加することにする。
 この方針転換は、Meta がトランプ大統領の支持獲得に努めたあからさまな方針転換だ。Meta は Ultimate Fighting Championship の代表でありトランプ氏の長年の友人であるダナ ホワイト氏を取締役に迎えたとも発表した。
 MetaのザッカーバーグCEOは、「表現の自由という原点に立ち返る時が来た。現在のシステムは間違いが多すぎ、検閲が多すぎるところまで来ている」と述べた。この決定の結果、プラットフォーム上に「悪いもの」が増えるが、削除される「無実の人々の投稿」が減ることにもつながる「トレードオフ」と述べた。
 トランプ氏は、メタが「大きく進歩した」と述べ、この変更は「おそらく」メタとザッカーバーグ氏に対して行った脅迫によるものだと認めた。いくつかのデジタル権利団体がこの決定を非難した。
関連報道:
 記者会見でトランプ氏は、パナマ運河を奪還し、デンマークにグリーンランドを米国に売却させるために軍事力を使う可能性を否定しなかった。
 ニューヨークの控訴裁判所は、今週金曜日に予定されているトランプ氏の刑事判決の差し止めを拒否した。
 裁判官は、特別検察官のジャック・スミス氏によるトランプ氏の機密文書事件に関する最終報告書の公表を一時的に禁止した。
【コメント】
 トランプの圧力の前にMetaが屈したという結果だ。流言飛語を見極める使用者の見識が必要なのかと思う。

2.チベットの地震で少なくとも126人が死亡
【記事要旨】
 昨日、中国西部のチベットの丁日Dingri県でマグニチュード7.1の地震が発生し、少なくとも126人が死亡した。負傷者は少なくとも188人。
 中国の国営放送によると、少なくとも1,000戸の家屋が被害を受けたが、救助活動は物流上の問題で妨げられている。ヒマラヤ山脈のネパール国境沿いにあるこの地域は遠隔地であるため、物資の輸送は困難であり気温は摂氏マイナス15度まで下がり、救助隊員が生存者を見つける時間は短かった。
【コメント】
 中国にチベットがあるのは知らなかった。極寒のなか被災者の無事を祈りたい。

3.米当局、スーダンで大量虐殺が起きたと発表
【記事要旨】
 米国は昨日、準軍事組織である即応支援部隊(RSF)とその同盟国がスーダン軍との戦いで大量虐殺を犯したと宣言した。暴力の波は西部ダルフールで発生し、男性、少年、幼児が標的にされ殺害され、女性は「民族的理由で」強姦されたとアントニー・ブリンケン国務長官は述べた。
 大量虐殺の決定は、当局が事件の真相を検討した数ヶ月にわたる政府審議の末に下された。この判決は、15万人もの死者を出したアフリカ最大の戦争の責任追及を新たに推進するきっかけとなるかもしれない。
【コメント】
 スーダンでは、過去に2度の内戦が発生しており、2023年4月以降も内戦が続いている。
 第二次スーダン内戦:1983年から2005年まで続いた内戦で、ヌメイリ政権による国政へのイスラム法導入に南部の非アラブ系住民が反発して勃発した。約22年間の内戦で、約190万人が死亡し、400万人以上が国内避難民、80万人以上が隣国への難民となった。
 2023年4月以降の武力衝突:スーダン国軍(SAF)と準軍事組織「即応支援部隊(RSF)」による武力衝突が続いており、1200万人以上が国内外で避難を強いられている。戦闘による暴力行為、物資の略奪、性暴力、医療従事者や医療施設への攻撃などが深刻化しており、飢餓の危機にある人は1770万人に上る。

その他の記事
シリア:
 シリアの主要空港は先月、バッシャール・アル・アサド前大統領の政権崩壊後初めて国際便を運航した。
台湾:
 政府は、台湾とインターネットを結ぶ海底ケーブルの1本を中国と関係のある船が損傷させたかどうか調査中。
ロシア:
 多数の兵士が手足を失った状態で帰国し、その多くが心的外傷後ストレス障害に苦しんでいる。彼らは汚名と厳しいリハビリに直面している。

2025年1月8日 水曜日