コーポレート・ガバナンス・サーベイ(CGS)

 我が国では各種のCGSが実施されている。その中でも有名なものの一つに HRガバナンス・リーダーズ株式会社(以下「HRGL」)によるものがある。

 2025年度のHRGLによるCGSについて以下のプレスリリースが6月13日に有ったので紹介したい。
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 HRGL社は、この度、神田 秀樹 東京大学名誉教授、久保 克行 早稲田大学商学学術院教授、水口 剛 高崎経済大学学長 監修のもと、2025年コーポレートガバナンス(以下「CG」)サーベイを実施いたします。従来の取締役会・人的資本・指名・報酬の各ガバナンス領域に加え、本年からはサステナビリティガバナンス領域の調査項目を拡充しています。「稼ぐ力」強化の要諦となる5ガバナンス領域をカバーしたサーベイへと進化を遂げたことにより、日本企業のプラクティスについて最新かつ網羅的な情報提供が可能となります。
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 具体的な調査項目を見てみよう。

取締役会:
取締役会あり方、取締役会・指名委員会の構成・運営、取締役会への期待役割、社外取締役の機能発揮

人的資本:
人的資本経営の開示・取組状況、ダイバーシティ

指名:
役員の任期・定年、スキルマトリクス、後継者計画、役員のダイバーシティ

報酬:
役員の報酬水準・比率、報酬委員会の構成・運営、報酬制度の評価指標(非財務含む)、社外取締役・従業員への株式付与状況、クローバック・マルス条項の制度設計、ペイレシオ

サステナビリティ(新設):
サステナビリティの監督、マテリアリティ解決に向けた取り組みの推進、インパクト可視化への取組、人権、生物多様性、CSRD

 いくつか一般的でない言葉を説明したい。

マルス条項とクローバック条項:
 どちらも役員報酬の返還・減額に関する条項だが、その対象とタイミングが異なる。マルス条項は、未支給の報酬を減額または消滅させるものであり、クローバック条項は、既に支給済みの報酬を返還させるだ。

マテリアリティ(重要課題)の特定:
 企業が持続可能な社会の実現に向けて、優先的に取り組むべき課題を明確にするプロセスである。具体的には、自社の事業活動が環境・社会・経済に与える影響や、ステークホルダーの期待・関心を踏まえ、課題の重要度を評価・分析し、優先順位をつけることで、マテリアリティを特定する。

インパクトの可視化:
 企業や団体の活動が社会や環境に与える影響を、定量的・定性的に測定・評価し、それを分かりやすく示すこと。これにより、企業の取り組みの成果を明確にし、ステークホルダーとのコミュニケーションを円滑にすることが期待できる。

CSRD:
 EU(欧州連合)が導入した「企業サステナビリティ報告指令(Corporate Sustainability Reporting Directive)」の略称だ。これは、EU域内の大企業や上場企業に対し、環境、社会、ガバナンス(ESG)に関する情報を開示することを義務付ける指令であり、2023年1月に発効され、2024年1月1日以降の会計年度から適用が開始されている。日本企業で欧州で活動する企業は対象になる。

 さて、本論に戻りたい。
 HRGL社は『「稼ぐ力」強化の要諦となる5ガバナンス領域をカバーしたサーベイへと進化を遂げたことにより、日本企業のプラクティスについて最新かつ網羅的な情報提供が可能となります。』と謳っているが、どうだろうか。

 「稼ぐ力」の源泉は、いかに起業家精神を発揮し貪欲に儲ける施策を繰り出すかにあると思うのだが、ガバナンス領域を押さえることでそれが達成されるかは疑問だ。

 創業者や経営者=大株主が、世間の常識を逸脱した独裁的な権勢をふるうのにブレーキを掛けるためには、三様監査の有効性を高めることが最も効果が高い。取締役会が代表取締役あるいは創業者及びその一族にブレーキが掛けられない際には、監査役、内部監査人、会計監査人がタッグを組んで活動すべきだ。

 人的資本、指名、報酬、サステナビリティはいずれも、業界のベストプラティスを提示し、取締役会に最善の選択を促すことが重要だ。ただ、それで「稼ぐ力」が高まるとは、筆者は必ずしも考えない。

 「稼ぐ力を削がないように、こうした項目をどうマネージするか」という観点が重要ではないかと思う。

 「この度、神田 秀樹 東京大学名誉教授、久保 克行 早稲田大学商学学術院教授、水口 剛 高崎経済大学学長 監修のもと」サーベイを行うと謳っているが、企業経営の経験のない著名な3名のアドバイスをいただくのも、ピントがずれているように思える。

 サーベイの結果に注目したい。

2025年6月15日 日曜日