ESGによる企業価値の向上

 ESGが花盛りだ。MSCI、FTSE、Bloomberg、Thomson ReutersがESGレーティングを公表し、ESGスクリーニングにより上場株式を選別している。このようなレーティングと企業業績には有意な相関関係が無いというのがこれまでの多くの実証実験の結果だ。

 相関関係を示す数少ない研究の成果としてエーザイのCFOの柳良平氏による「柳モデル」があげられる。参考文献:https://www.camri.or.jp/files/libs/1842/202212090819537963.pdf
 柳氏の論理展開は、ESGイコール非財務資本としてとらえ、ESGを推進する際に考えるKPIがPBRの上昇にどれだけ効果があるかと言う貴重な研究だ。

 ただ、我が国ではプライム上場企業でもPBR1倍を下回る企業が約50%あるが、柳氏の論理展開を借りれば、これらの企業はESG活動がマイナスの企業価値をもたらしていることになる。

 上記の文献では、「人財投資を1割増やすと5年後にPBRが13.8%上がって約3,000億円企業価値が作れます。R&Dを1割増やすと10年超でPBRが8.2%上がって2,000億円企業価値が作れます。女性管理職を1割増やすと7年後に
PBRが2.4%上がって約500億円価値が作れます。育児・時短の利用者が1割増えると、9年後にPBRが3.3%上がって900億円ぐらい企業価値が作れる正の相関があることを証明しました。」との記述がある。

 結論として、相関関係が示されたことになっているが因果関係については断定されていないのが実務上は弱いなと思う。

 そもそもESGでのKPIを選定したとしたら、それらが、企業価値を示す代表的な指標であるROICにどのような影響を与えるか検討出来ればよいのだと思う。ROICは、分子であるNOPAT(税引き後営業利益)、分母である投下資本に分解できるので、其々に対してどのようにKPIが作用するのかを検証できないのだろうか。

 更にROICが評価する際の基準レートたる資本コスト(WACC-成長率)に対しても、WACCを下げる、成長率をあげる、という効果がESGにはあるはずだから、それが測定できれば、ESGを時間をかけて推進する価値があるのだと思う。

 世界の趨勢で、日本の金融庁も言うからと言う理由でヤラサレ感満載の現在のESG対応では企業経営を改善するツール足りえない。

2023年6月24日 土曜日