サブプライムローン問題の本質(1) 元本と乗数

【結論】

サブプライムローン問題が、米国にひいては世界にリセッションをもたらすかどうかの鍵は、「元本が目減りするか」「信用乗数が収縮するか」です。今回は元本と乗数を理解しやすく説明します。

【100万円の元手で400万円の預金を作るには】

  私は昭和50年(1975年)に銀行に入りました。そのころは、預金獲得競争は熾烈で、ボーナス時期には新入社員でも預金獲得にがんばることが求められました。私の支店ではいわゆるノルマはなかったが、目安は一人400万円の定期預金獲得でした。新入生は親類縁者を頼って預金集めをするのが一般的でした。
  私は、自分一人で簡単に400万円の定期預金を獲得しました。
  まず、100万円の定期を総合口座で作ります。総合口座は定期預金の90%まで普通預金から資金を引き出すことができます。私は90万円引き出して、90万円の定期預金を作りました。もうおわかりですね。さらに90万円の90%を引き出して81万円の定期預金を作りました。
  これを繰り返してゆくとどうなるでしょうか。
     100万円 + 90万円 + 81万円 +72.9万円 + 65.6万円 = 409.5万円
4回この作業をくりかえすと、簡単に400万円を作ることができるのです。
  これを永遠に続けるとどうなるか?
  初期値100、公比0.9の等比級数の和は、 100÷(1-0.9)=1000万円になります。
  100万円の元手が1000万円になるわけです。

【元本が膨らみ、乗数も膨らんでいた米国の住宅市場、住宅ローンをベースにした証券市場、ヘッジファンド市場】

  個人の例として説明しましたが、銀行システムが行っているいわゆる「信用創造」はこれを全国的にしたものです。今は金融機関だけでなく、クレジット会社、ファンド、事業法人が信用創造を行っています。ヘッジファンドなどは少ない手元資金で巨額な借り入れをして運用するのが一般的です。

  私がはじめたのは100万円ですが、みんながもっとお金をつぎ込んだら(元手が増える)、仮に、米国の多くの地域での住宅がここ5年で2倍に値上がりしたように、元手が2倍になれば、作り出せる金額は2000万円になります。元手が100万円増えただけで、資金は1000万円増えました。
  私の例では、レバレッジは10倍でしたが、米国のヘッジファンドで見られたようにレバレッジが20倍になればどうなるか。100万円の元手は2000万円になります。
     元手が倍になって、レバレッジが倍になると、今まで1000万円であった資金(金融市場に還流している資金と考えてください)は4000万円になるわけです。

【逆回転すると市場は急速に縮小する】

  いまは4000万円の資金を持っていると思っていても、サブプライムローンの貸し倒れで元本が減少(たとえば200万円が70万円へ)する。レバレッジが縮小する(たとえば20倍が5倍へ)するとどうなるでしょうか。
  70万円 ÷ (1-0.5) = 140万円 

  いままで4000万円の市場は、あっという間に 140万円に縮小するのです。

  熱狂にささえられ拡大した「元手」と「乗数」が縮小すると、あっという間に市場(サブプライムローン問題は住宅、証券化、金融のすべての市場に影響します)は壊滅的な打撃を受けるのです。

                                                      (以後 第2回へ)