週末のNY Timesの”The fraud that goes unnotice”という記事が目を引いた。この記事は、トロント大学ビジネススクールのI. J. Alexander Dyck教授を中心とした2021年の論文を元ネタにしているので、その論文の要旨を以下に紹介する。
(論文要旨)
私たちは、企業の不正行為の未発見の割合の見積もりを提供する。 「氷山」の隠れた部分を特定するために、不正会計で倒産したエンロンとアーサーアンダーセン(AA) との関係を契機に、AAの以前のクライアントに対して行った詳しい調査を利用して、不正の検出可能性を検証した。 私たちの調査結果は、通常は、企業の不正行為の 3 分の 1 しか検出されないことを示している。大手上場企業の平均 11% が毎年証券詐欺を犯していると推定される。検出された不正と検出されなかった不正のコストの推定値と組み合わせると、企業の不正は毎年株式価値の 1.7% を破壊し、2020 年には 7,440 億ドルに相当すると推定される。
NY Timesの記事はこの論文を基に今回の調査報道をしている。
2022年には、昨年、電気自動車メーカーのニコラの創業者であるトレヴァー・ミルトンと、血液検査会社セラノスの創業者であるエリザベス・ホームズは、注目を集めた裁判で詐欺罪で有罪判決を受けた。 ホームズの判決は、Sam Bankman-Fried によって設立された FTX の急速な崩壊と時期を同じくしており、2022 年は明らかに詐欺的な雰囲気で終わった。
これらは氷山の一角にすぎず、Dyck教授の調査では不正行為が蔓延していることが示される。しかしながら、企業の不正行為を掘り下げることに経験豊富な人々でさえ、大企業でどれだけの不正が行われ、どれだけ検出されないかを見積もることは困難だ。
米国証券取引委員会SECの元コミッショナーで暫定委員長のアリソン・ヘレン・リー氏は、弁護士として管理が行き届いていない企業の内部で働いた経験がある。 2000 年代初頭、リーはデンバーの法律事務所のパートナーであり、通信プロバイダーであるクエスト コミュニケーションズ インターナショナルを顧客としていた。この会社ではジョセフ ナッキオが指揮を執っていたが、リーは会社が提案したリスクの高い措置を性急に取り法的審査を最小限にとどめることを止めようとしたが、2007年、ナッキオは証券詐欺で有罪判決を受け、懲役刑を言い渡された。
不正行為を証明し、不正行為に関与したすべての人を標的にすることは非常に難しいとリーは述る。関係者は、法律に違反するのではなく、境界をテストしているだけだと感じることが多く、そのようなスキームは大企業で無秩序に広がっている可能性がある。「詐欺を起訴するには、意図を証明しなければならず、大規模な公開企業で、詐欺を犯す村を暴くのは困難だ。」とリーは言う。
これに対処する1つの方法は、2019年にマサチューセッツ州の民主党上院議員エリザベス・ウォーレンによって提案された動きで、犯罪の意図を示す必要性を排除し、彼らの監視下で不正行為を許可したことを理由に経営幹部を処罰しやすくすることだが、この.法案はほとんど支持されなかった。
Fraud『詐欺』という用語の使用は問題がある。「詐欺」という言葉は「単純さ」のために使用されている。 「調査者が不正と呼んでいる出来事には、不正ではなかった疑いのある詐欺、正直な間違い、会計処理に関する意見の相違が含まれる。詐欺の疑いも詐欺ではなく、意見の相違も詐欺ではない。」
SECは最近、企業経営者の考え方を変えることを目的とした規則を採用した。 今月後半に施行されると、企業はクローバック ポリシーを作成する必要がある。企業が会計の修正を余儀なくされた場合に、現在または以前の役員から誤った会計に基づいたインセンティブベースの給与を回収することができる。自分たちのボーナスに影響があれば、反抗的な経営者でさえ、より警戒するようになるだろういう考えだ。
11月に破産申請したFTX の Bankman-Fried 氏は、現在カリフォルニア州の実家で自宅軟禁されており、一連の詐欺罪で裁判を待っている。彼は、財務記録がほとんどないという事実に助長されて、彼の事業から数十億ドルを吸い上げたと非難されている。同社の幹部は、彼が資金を盗んだわけではなく、もし弁護士が彼に C.E.O. としての地位を譲るよう強制しなければ、FTX を救うことができたであろうと主張している。
仮想通貨では自己欺瞞が蔓延しているが、それは、『発明すべき素晴らしい新世界があり、オムレツを作るために卵を割らなければならない』という主張だ。
(コメント)
上場企業の11%が何らかの会計不正を行っているという主張は驚きだ。この記事の著者は事実の拡張と不正の境目の曖昧さを強調している。「ウソ」か「方便」かあくまでも微妙な問題だ。
銀行などの金融業であれば貸出資産の健全性、投資ファンドなどの投資業であれば投資価値の評価、事業会社であれば売り上げや収益の計上方法等、グレーなエリアは沢山ある。
同業他社が評価を慎重にしているときに安易に大胆な高い評価をしている銀行や投資会社は要注意だ。売上げは早く認識しコストはなるべく遅く認識しようとするメーカーや商社も要注意だ。
2023年1月15日 日曜日