人生の無形資産

 GAFAの株価の源泉は「無形資産」で説明される。これらのテックジャイアントは今後も間断なく世界を驚かす製品やサービスを提供するであろう。その企業価値の源泉は、工場といった「有形資産」ではなく、優秀な社員を集め、維持し、成長させる人的資産や企業内に透徹する起業家精神に代表される財務諸表に表現できない「無形資産」にあるのだ。

 自動車メーカーを事例を取ればもっとわかりやすい。テスラの5月20日の時価総額は一ドル128円換算で約88兆円。同日のトヨタ自動車は33兆円だ。2021年のトヨタの販売台数は約1000万台。テスラは93万台にすぎないが、テスラの時価総額はトヨタはおろか世界の大手自動車グループを合算した時価総額を上回っている。
 テスラの有するEVでの技術力や強力なブランド力がなせる業で、トヨタが世界中に築いている生産拠点や販売ネットワークと云った「有形資産」はテスラの「無形資産」に企業価値の判断では大きく見劣りしている。

 さて、個人的な話で恐縮だが、昨日、誕生日を迎えて、自分の資産と負債は何かと雑駁に考えてみた。

 資産では、自宅ほかの不動産、自家用車、といった「有形資産」が代表的だ。溜まりに溜まってきた本やCDは二束三文の価値しかあるまい。骨董や美術品も無縁だ。「金融資産」は死ぬまではもつのではないかと楽観派だ。少なくとも「金融負債」が無いのは老後には心強い。

 ここまで来て、資産では「有形資産」だけでなく、テスラではないが「無形資産」があることに、はたと気が付く。

 ビジネス関係で取引先や同僚に、恩恵を与えていることが多ければビジネス上の「無形資産」だ。逆に、恩恵を受けていることが多ければビジネス上の「無形負債」だ。友人関係でも、貸し借りがあるので、自分は「無形資産」が多いのか「無形負債」が多いのか考えてみるとよい。成功しているビジネスマンは概して「無形資産」が多いと筆者は思う。

 こうした、恩恵のやり取りや貸し借りだけでなく、純粋な心の中の「無形資産」もあることにも気づく。

 例えば、・父母との懐かしい思い出、・高校の思い出と同級生との交歓、・大学のクラブ活動とアルムナイとの交わり、・成就しなかった想いと思慕の残滓、・家族の励ましの思い出、などは、自分の心の中の「無形資産」だ。これらは自分が生きている限り永続し、新しいビジネスに取り組んだり、人生の曲がり角に直面する際には、我々を内側から支えてくれる。

 これからの人生で新たに「無形資産」を積み上げることも可能だ。聖書曰く「与えられるよりは与えるほうが幸いである」 It is more blessed to give than to receive.  
     他人から見ればきっと欲張りで恥知らずですぐに安易に走る自分にどれだけできるかわからない。しかし、挫折するに違いなくとも、そんな考えを大事にして「無形資産」が積み上げられるような生活をして行きたいものだ。

(2022年5月22日 日曜日)