トランプは一流の起業家か?

 トランプ大統領は不動産業で財をなした。それはそれで立派なことだが、ビジネスを立ち上げた起業家とは大いに異なる。

 筆者は1991年から1993年の約3年間、ニューヨークの不動産投資銀行でマネジングディレクターを務めたことがある。投資銀行と言うと聞こえが良いが、不動産案件を立ち上げたい人(トランプのような不動産開発業の人たち)に不動産案件に投資したい人(高い利回りを狙うエクイティ投資家と大型貸出案件を狙う銀行、特に米国に遅れてきた邦銀)を斡旋するのが仕事だった。

 不動産投資銀行で学んだことは極めてシンプルだった。
原則1:不動産には3つの要因がある。Loction, Location, Locationだ。つまり立地が何より重要だといこと。
原則2:不動産価値算定で最も重要なのはキャップレート 英語でcapitalization rateという。その意味するところは以下。
The capitalization rate of a property is calculated by dividing the annual net operating income, or NOI, by the property’s market value. For instance, if a property was valued at $14,000,000 and the NOI was $600,000, the cap rate would be 4.3%.
 このキャップレートの数字を市場での借り入れ金利と比べて、金利より高ければ良い案件。低ければ悪い案件と判断する単純な手法だ。
原則3:銀行借り入れはすべてノンリコースローンだから、案件が失敗したら担保の不動産を差し出せば済む。自分の財産は全く痛まない。

 トランプは父親の不動産業を継いだあと、上記の3原則を駆使して事業を拡大した。成功すれば自分の儲け。失敗しても失敗案件を銀行に差し出せば自分の財産には傷がつかないで済む。

 不動産交渉で重要なのは、最終契約にサインする最後の最後まで、相手は些細なことに難癖をつけて案件をひっくり返すことが可能だということ。
 喧嘩別れしたら、schmuck(シュマック:馬鹿垂れの意)といって立ち去ればよいのだ。

 トランプは一流の起業家でも企業家でもないことがわかるだろう。彼の交渉スタイルは不動産業者そのものだ。

 一方、イーロン・マスクは稀代の起業家であり起業家だ。トランプがある程度の敬意を以ってマスクに接しているのは、マスクの自分と違う成功者の面を高く評価しているからではないかと思う。

2025年3月22日 土曜日