Cancel Culture(CC:日本語では「キャンセル文化」と訳すのが通例)という言葉をお聞きになったことがあるだろうか。
www.dictionary.comによれば、(一部筆者が補記)「キャンセル文化とは、著名人や企業の行動を、不快または不快であると感じたり見なしたりして、そうした後で従来の支持・サポートを取り消す(キャンセルする)一般的な慣習を指します。
キャンセル文化は通常は、グループの中で恥をかかせる形で、ソーシャルメディアで行われるonline shaming」と定義されている。
この言葉を紹介してくれたアメリカ人の友人によれば、
・恥をかかせたり見せしめにする文化はアメリカにもあった。(ホーソンの「緋文字」を想起されたい)
・キリスト教徒の恥は、まず神への告白から始まる悔い改め(repentance)をはじめとする。日本人の恥とは少し異なる。
・キャンセル文化は人に悔い改めを求めるのではなく、単に怒りをぶつけて思い知らせたい行動のように思われる。
彼の説明によれば、
・「キャンセル文化」(CC)という表現は、近年、「Me Too」運動の一環として生まれた。起源は「コールアウト」(人の弱点を指摘すること)にある。
・公人が醜い行動や発言をした場合、その公人のコミュニティのメンバーから「コールアウト」され、公に非難される。即ち、重大な不道徳行為や倫理に反する行為をした有名人のメディア契約を取り消すことから、「キャンセル」という名称が生まれた。例えば、マイケル・ジャクソンが幼い子供との不適切な関係が疑われ、出演契約を取り消された。つまり、キャンセルされたわけで、こういう例は日本の芸能界でも多く発生している。(ここまでは筆者にもよくわかる)
・ここ数年、CC が政治的・社会的に広まっている。この夏、歴史上の有名な人物にもこの「キャンセル」が遡及的に適用されようとしている。プリンストン大学は先月、世界的に有名な政治学部からウッドロウ・ウィルソンの名前を削除した。ウィルソンは同大学の学長であり、アメリカの大統領として、国際連盟の重要な推進者であったのにも拘わらず、残念なことに、当時の通例として人種差別的な見解で黒人の入学に反対していたということがその理由だ。
・160年前の国内戦争の南部連合の記念碑が毎晩のように真夜中に取り壊されている。また、アメリカを代表する元大統領四人の顔が刻まれた名所のラシュモア山にダイナマイトを仕掛け、その顔を消してしまおうという呼びかけも出ているぐらいだ。ジョージ・ワシントンとトーマス・ジェファーソンの二人が奴隷を所有していたからという理由でだ。
・更に、アメリカの先住民族に関連した名前を持つNFL チームのレッドスキンズやMLBのインディアンズは、現在の部族組織にコールアウトされて、ロゴやチーム名の変更を決定・検討している、等々。
・米国史は21 世紀の「正しい」視点に合わせて修正されつつあり、この中には、国家の過去の罪を素直に認め、悔い改めの気持ちを示す善意のものもある一方、単なる今の流行りというものもある。(韓国に日帝35年を永遠に言われる日本の状況に重なるところがあり、ここまでやるのかと思うところがある)
・昨今、CC が一般人の間でFacebook やTwitter などのソーシャルメディア(SM)を介してウイルス的に拡散している。「キャンセル」される、つまり世間から軽視される原因が広がっており、芸能人や政治家などの公人が、何気なくドジな発言をしたり、プライベートで不適切な行為を
すると、ソーシャルメディアで世間から罵倒されたり、雇用を断られたりすることも少なくない。正式な司法制度の外で行われるCC は、偏って適用されやすく、しばしば過激になりやすい。
長くなったが、キャンセル文化に対する筆者なりの当座の結論を述べよう。
・南軍に関する銅像を引き倒したり、ウィルソン・スクールの名称変更は明らかに振り子の振れすぎであり、トランプ大統領の怒りは尤もだと思う。常識的なアメリカ人のトランプ支持を強めトランプの二期目を近づけるだろう。
・ソーシャルメディアとインターネットの透明性は、ネット民主主義の重要な要素であるが、現代版「緋文字」は行きすぎ。自分が嫌がる表現や行動を取ったことに対し、他人を簡単にキャンセルすることで、人間性を奪う恐れがある。正当な裁判なしで有罪と推定され、ワンクリックで「罪」が確定してしまうことは、恐怖だ。
・日本のメディアでは週刊文春をはじめとする週刊誌がゴシップがらみで対象者の人間性に疑問を呈する働きをしている。この動きを、一般人が一般人を対象にして起こして行くと思うと、とても始末が悪い。(最近の例では木村花さんの事件を想起されたい)
・振り子が右に触れると、ファシズムの世の中にもなりかねない。良識の働きで、振り子は何れ中庸のほうへ振り戻ってくるものだと期待したい。
(2020.9.4)