パイオニアの思い出

昨日聞いたニュースには驚いた。
『パイオニア(東京)は26日、台湾の液晶大手イノラックスの子会社で、自動車向けシステムを手がける企業の傘下に入ると発表した。 欧州系の投資ファンドEQTが、保有するパイオニアの全株式を約1600億円で売却する。 子会社はシンガポールのCarUXホールディング。2025年中に取引を完了する。』(毎日新聞)

私が中高生のころ、サンスイ、トリオ、パイオニアは高級ステレオを代表するメーカーだった。中学の一年先輩の家に行ったとき応接間にパイオニアのコンポーネントステレオがドンと置かれクラシックのLPが数多く並べられているのを見て驚愕したことがあった。我が家の一体型のナショナルのステレオは酷く見劣りがした。

自分ではパイオニアの音響機器を所有したことが無い。パイオニアで思い出すのは何と言ってもコンポーネントカーステレオのLonesome CarboyのTV広告だ。

1975年頃流行した片岡義男さんの小説「ローンサム・カウボーイ」に触発され、コピーライターの秋山晶氏が作ったコピーが素晴らしい。

CM自体が一つのストーリーになっている。若い男性がニューメキシコの辺地を車で移動している。その間に自宅にいる妻に電話する。そして都会の喧騒に戻ってくる。
こうしたストーリーのバックに流れるのがRy CooderのAccross the Boaderlineというサビの効いたブルースというかカントリーというかの曲だ。この曲自体もCM作成のためにわざわざ作曲させたものだ。

YoutubeでRyCooder, Accross the Boaderlineと入れればPionnerのCM全編を見ることが出来るので是非見て下さい。

秋山氏のTVCMの名コピーをいくつか紹介したい。CMでこれを読んでいるのは片岡義男氏だ。

・ワイフが子供の頃の写真をダッシュボードにとめた。
・陽が落ちる前にワイフが生まれた町を通った。
人口800に満たない小さな町だった。
・507マイル離れて電話で聞くワイフの声は若かった。
・ニューメキシコナンバーの車を見つけて
タバコ一本分だけ待った。
・人が本当に孤独を感じるのは群衆の中だ。

新聞広告のコピーも紹介しよう。

『荒野にいたときよりシカゴにいたときの方が寂しかった。
ウインディ・シティは、その名のとおり風の街だった。
緑の匂いのない風に吹かれ、僕の心は大陸が年齢を重ね
グレート・プレーンズになったように死んでいった。
真上から見ると、巨大な四つ葉のクローバーのように見えるインタチェンジをすぎると、定規で引いたようにインタステートは地平に向かう。
風の荒野。ロンサム・カーボーイ。』
(パイオニア/1980年)

1980年当時のパイオニアにはカーステレオの新しい文化を切り開く意欲と力があった。TVCMのために、わざわざ外国人アーティストに作曲までさせた懐の深さがあった。

その後のステレオ御三家を見ると、サンスイは2018年に会社が消滅した。トリオはJVCケンウッドとして命脈を保っている。他に1970年代に存在した音響メーカーではAKAI、TEAC、ONKYO等が海外勢の傘下に入ったあと会社としては消滅している。会社の栄枯盛衰は激しい。

中学の先輩は数年前に亡くなった。人の世も「無常(常に同じではない)」だ。

2025年6月28日 土曜日