OJシンプソン事件と伊藤詩織さん事件

伊藤詩織さんの山口敬之氏に対する民事訴訟勝訴の判決が昨日(2019.12.18)出た。判決についての論評は差し控えたいが、報道で「刑事で不起訴だったのに民事で有罪になったのは変だ。刑事の判断がおかしい」という意見が多く聞かれたので、コメントしたい。

筆者がニューヨークで暮らしていたころ、OJシンプソン事件というのが起きた。
アメリカンフットボールの元スター選手で全米の人気者だったOJシンプソン(黒人)が元妻(白人)とその交際相手(白人)を惨殺した容疑で裁かれた事件だ。
(詳細は、https://shirutoku.info/ojsimpson に詳しい)

当時ロスアンゼルス警察の警官が黒人の容疑者に暴行を加える事件が頻発し、OJシンプソン事件も、立ち上がりから、刑事事件というより人種差別事案という色彩を帯びることになった。著名弁護士がチームを組んだ弁護側は、12人の陪審員のうち9人を黒人で構成することに成功した。結果は、大方の予想通り、陪審員は無罪の評決をした。

アメリカの陪審員制度で面白いのは、
・陪審員は無罪か有罪かを12人の全員一致で評決する
・有罪の場合、量刑を決めるのは裁判官である
ということだ。
こういう状況であると、「疑わしきは罰せず「」を原則とすれば、陪審員は判断に迷う事案であれば無罪にしがちだ。
さらに、米国の制度で面白いのは、
・一度刑事事件で判決が出ると同じ事案で裁かれることは無い。つかり控訴審は無い。
従って、陪審員が無罪の評決をした時点で、OJシンプソンは、刑事上は晴れて無罪になったのだ。

一方、殺害された元妻の交際相手の父親が民事でOJシンプソンに対する損害賠償請求を起こし、これは有罪の判決が出た。

刑事・民事の判断の相違についてはおかしいという意見が伊藤詩織さんの事件で沢山出ているが、アメリカではままあることであるということをOJシンプソン事件を例にご説明した次第である。
(2019.12.19)