関税交渉とゲームの理論

 日本政府は赤沢経済相を毎週のように米国に派遣し、関税交渉を日本に有利にまとめようとしている。これは自国だけが良ければよいという政治のモラルの観点からして見苦しいし、経済理論から見ても妥当な行動ではない。

 経済理論でかかる交渉を分析するツールにゲームの理論があり「囚人のジレンマ」は良く知られている。野口悠紀雄先生がこのフレームワークでわかりやすく分析しているので、Diamond On Lineの記事から以下引用する。

・・・・・(引用)
「囚人のジレンマ」とは、2人の容疑者が取り調べを受けている状況を想定したモデルだ。
 2人が別々の部屋で尋問され、次のような条件が与えられる。
(1)自分が自白し、相手が黙秘した場合は無罪、相手は懲役10年
(2)相手が自白し、自分が黙秘した場合は懲役10年、相手は無罪
(3)双方とも自白した場合は懲役5年
(4)双方とも黙秘した場合は懲役1年
 この場合、それぞれの容疑者(各プレーヤー)が、個々に一番有利な選択肢を選ぶと、協力したより悪い結果が得られる。互いに協力して黙秘をすれば最良の結果が得られるにもかかわらず、互いの裏切りを恐れるため、結果として両者が損をするという非効率な結果をもたらすという状況だ。
・・・・・

 この例を使えば、看守は米国。選択肢(1)を目指して、一生懸命自白して罪を軽くしようとしているのが日本だ。

・・・・・(引用)
 トランプ政権は、4月に「相互関税」(Reciprocal tariffs)としてEUに最大50%の関税を課すと通告したが、EU委員会が直ちに報復措置とWTO提訴の構えを見せた結果、7月までの発動延期が発表された。
 この事例は、規模と結束があれば、トランプ政権の強硬姿勢を抑えることができることを示している。
 これに対して、これまでの日本政府のトランプ政権との交渉は、概して「二国間交渉における譲歩と忍耐」の戦略を採ってきた。しかし、トランプ政権のように非協調的なパートナーに対しては、この姿勢が結果として「法外な要求」を呼び込むことになる。
  日本がEUやカナダ、韓国、オーストラリアなどと連携し、「関税同盟」的な交渉ブロックを形成することができれば、トランプ政権の関税政策に対して抑止力を持つことができるだろう。実際、TPP(環太平洋連携協定)は、本来そのような連携の基盤となるはずだった。

 「囚人のジレンマ」のセッティングのゲームが「一回限りのゲーム(One-shot game)」として行われる場合、すでに見たように、合理的な戦略は互いに裏切ること(=自白すること)になる。なぜなら、自分だけが協力して相手に裏切られると、大きな損失を被るからだ。
 しかし、このゲームが「繰り返しゲーム(Repeated game)」として行われる場合、つまり、プレーヤー(企業や国)が同じ相手と何度もやりとりすることが分かっている場合には、状況は大きく異なる。
 このとき、各プレーヤーは過去の相手の行動を観察し、それに応じて将来の自分の行動を調整することができる。
  この代表例が「しっぺ返し戦略(Tit for tat)」だ。これは「初回は協力する。以後は、前回相手がした行動をそのまま返す」という戦略だ。
 この戦略は、協力には協力で応え、裏切りには裏切りで報いるため、協力を維持する誘因を作り出す。裏切ると、その報復が将来にわたって続く可能性があるからだ。
・・・・・

 トランプの政策の本質がTACOである以上は、関税交渉は繰り返しゲームだ。日本は抜け駆けを図るのではなく、同じ被害にあう、EUやアジア諸国と協力してトランプ関税に立ち向かうべきだったし、遅くはないから、今からでもそうすべきだ。

 今回のゲームに超然としているのは中国だ。関税では米国が看守で中国も囚人の一人と見ることが可能だが、中国はレアアースについては看守であり米国は囚人の一人だ。米国が関税で締め上げようとすれば中国はレアアースで締め上げることが可能だ。

 日本は関税でもレアアースでも囚人の立ち場にならざるを得ない。EUやインド、東南アジア諸国と連携し、囚人全体が黙秘したケースを主導するべきだ。アジアで唯一の成熟した資本主義国としての責務と言うべきだろう。

 (おまけのコメント)
 「ゲームの理論」「囚人のジレンマ」「米国の関税政策への対応」「中国のレアアース戦略への対応」と言った点をChatGPTと会話をしたら、有益な示唆が多かった。読者の皆さんもお試し下さい。

2025年6月14日 土曜日