指名報酬委員会考 (備忘録的メモ)

 日本のガバナンスは3つの類型にわかられる。
 監査役会設置会社、監査等委員会設置会社、指名委員会設置会社の3つだ。

 監査役会設置会社は昔から日本に有った形態だ。取締役会と別に監視機能を担う監査役会がある。社内監査役に就任するのは取締役に成れなかった人。社外監査役には取引関係者や取引関係のある法律事務所、会計事務所からの就任が多いため、監視機能が弱いと言われてきた。
 指名委員会設置会社(委員会設置会社とも言われる)は、「指名委員会」「報酬委員会」「監査委員会」という3つの委員会を設置する。それぞれの委員会の過半は社外取締役とするのが普通で、社外からのの監視機能が強いと言われている。
 監査等委員会設置会社は前述の2つの形態の中間だ。監査役会で社外監査役だった人を監査等委員になってもらい、コーポレートガバナンス・コード(CGC)が求める複数以上の社外取締役の要請を満たそうとするものだ。

 監査役会設置会社や監査等委員会設置会社では、指名委員会、報酬委員会(会わせて指名報酬委員会とするケースが多い)を諮問委員会として設置するのが流行りだ。CGC上、対外的に説明がしやすいからだ。

 委員会設置会社は先進的と言われてきたが歴史はそうでもないことを示す。不正会計による企業解体に至った「東芝」や、経営者の適切な交代が進まず株価の急低下を招いた「ソニー」の例がある。組織の形態先進的だからと言っても、それが良い経営や好業績を保証するものではない。
 トヨタ自動車は、今でも監査役会設置会社であり、10名の取締役の内4名が社外取締役だ。最近型式認定問題でミソをつけたが、日本を代表する優良企業と目されているのは間違いない。

 さて、問題は指名報酬委員会のあり方だ。
 役員への「指名」(登用)、役員への「報酬」の決定は権力の根幹だ。上場企業となった後でも、創業経営者はそこに他人が口を出すのを好まない。自分が創業してここまで育ててきたのだからと考える。それは良く理解できる。

 だから、形式的に指名報酬委員会を作っても、実際の運営はブラックボックスになっている企業も多い。排除される以前のカルロス・ゴーンは委員会での議論がどうであれ、指名報酬の最終決定者は代表取締役である ゴーンになっていた。

 日本を代表する創業オーナー系上場企業としてNIDECが挙げられる。CGCには以下のように記載されている。
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 指名委員会、報酬委員会は、取締役会の諮問機関として、取締役会の諮問に応じて審議を行い、その結果を取締役会に対して答申しております。委員会は、委員の過半数を独立社外取締役にて構成しております。
 グローバルでの競争力強化と事業の持続的な成長・発展につなげるべく、指名委員会では、取締役及び執行役員等に選任方針・選任基準や継承プラン及びサクセッションプランの考え方、取締役、社長、及び副社長の候補者案等を審議しております。
 また、報酬委員会では、役員の報酬に係る報酬決定方針の策定、報酬制度の設計(業績目標の設定、業績連動報酬の合理性、報酬構成の妥当性、報酬制度に基づく個別報酬額等)を審議しております。
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 指名であれ報酬であれ、最終決定者は永守会長であることは日本中で知れ渡っている。
 それはそうであっても、NIDECがCGCに記載していいる程度の指名報酬委員会活動を行うことは、創業オーナー系企業でも、不可欠だろう。

 また新任の取締役、監査等委員になる取締役については、少なくとも指名委員会委員長、監査等委員会委員長との面談が不可欠だ。特に監査等委員である取締役は監査等委員会の了解が不可欠であり、これなしに株主総会への上程は出来ないので注意が必要だ。

 ガバナンスは業績が好調の内は問題にならない。「利益はすべてを癒す」からだ。
 問題は、不祥事が明るみに出た際には、ガバナンスの在り方が必ず指弾されることだ。万一、株主代表訴訟にでもなったら監査等委員は株主からの負託を受けて経営陣を糾弾することが必要になる事態も起こりうる。

 最後は経営者を守る体制になるのだと理解し、最低限のガバナンス体制を構築する必要がある。

2024年8月24日 土曜日