鹿をはねた話

金融機関のトロントの現地法人に勤務していたころ、ニューヨークに住む家族に会うために毎週末車でトロントーニューヨークを行き来していたことがある。1997年頃のことだ。片道500マイルあり、急いでも7時間ほどかかる長距離ドライブだ。

或る夜、ニューヨークからトロントへ帰る途中で、鹿をはねたことがある。夜中の高速道路の真ん中に鹿がいたのだ。私の車のヘッドライトに驚いたのかこちらを見て身じろぎもしない。鹿の眼球がライトを反射して光った。

ブレーキを掛けるいとまもなく、車は鹿に衝突した。鹿は車の前部にあたり、フロントガラスの上を飛び越えて行った。停車して振り返ると、高速道路の脇の木立に消えて行った。

車を見ると、前部が大破している。エンジンに異常は無く、走るのにも支障は無さそうだ。しばらく走ってカナダ側に入った。国境の係官は何も言わずに通してくれたが、大破した車を見て何も思わなかったのだろうか。

トロントまであと30分のところで、エンジンがオーバーヒートして止まってしまった。エンジンの冷却水が漏れていたのが原因だ。

AAAを呼んで、一番近くのガレージまで曳航してもらった。その後どうやってトロントのアパートまで帰ったのか、どうやって車を修理したのか、全く記憶にない。

修理屋さんに「死ななくて運が良かった」と言われたことは、時々思い出す。幸い熊にはまだ遭遇したことはない。

2024年5月25日 土曜日