蚊柱

蚊柱とは、昆虫類のカ、ユスリカ、ヌカカ、ガガンボなど双翅(そうし)目長角群の昆虫が、上下左右に飛びながら柱状に群集する現象をいう。蚊柱は全体として上下に移動するが、地上にある突起物や周囲と色の違う紋様を中心にその上方でつくられ、木の梢(こずえ)の上、枝先の下でみられることもある。
構成は普通、雄だけで、雌がこれに飛び入り雄と交尾することが観察されているので、生殖のための行動といわれているが、雌だけの群飛や1種類だけでない場合もある。蚊柱ができるのは夕暮れ、夜明けが多いが、種類と天候により日中にもできる。双翅類以外でも蚊柱と同じ現象が、カゲロウ、トビケラ、カワゲラ、クビナガカメムシなどでみられる。(日本大百科全書より)

初夏のある日、庭の片隅や、路上でも、沢山の羽虫が柱状に群れを成している光景、蚊柱、を目の当たりにした方は多いと思う。

今日、福岡伸一氏の「動的平衡ダイアローグ」という著書を読み始めた。人間の身体が絶え間なく入れ替わっていることの比喩として同氏は「蚊柱」を使っている。人間は絶え間なく変化しているだけでなく、その実態は決して確たるものではなくふわふわしたものだというメタファーになっている。人間の身体はまるで一つの蚊柱のようなものだという話だ。

一方、蚊柱というと倉橋由美子のメタファーも思い出す。地球が消滅した後の人間の魂のありかを小説(多分、「スミヤキストQの冒険」)の中で登場人物が議論している。人間の精神が死後も不滅だとすると、核戦争で地球が破壊されて消滅した後で、無数の人間の精神が蚊柱のようなものを作り出して宇宙空間のなかでブンブンと動き回っていることになる。と倉橋が書いていたことを思い出した。ここでは、個人の精神がユスリカ一匹づつで、一匹づつのユスリカが集まって、人類の精神の集合体が蚊柱で構成しているという壮大な話だ。

個人にしても、人類の精神全体にしても、蚊柱の例えは、はかなく物悲しい。

少し転調して、明るく終わりたい。

「青空に飛びこむ僕の邪魔をする汗にはりつく夏の蚊柱」久保 優葉
若山牧水青春短歌大賞 入選作
青春は蚊柱までも眩くする。

2024年4月7日 日曜日