ブルドーザー考

太平洋戦争の日本軍が攻勢から守勢に転換することになった契機の戦いにガダルカナル島の攻防がある。戦闘の詳細はwikipedia「ガダルカナル島の戦い」を参照されたい。

この戦いの影の主役にブルドーザーがある。日本軍の設営隊がシャベルとつるはしとモッコで作った飛行場は、米軍の上陸により米軍の手に落ち、ブルドーザーで拡張強化された。
日本軍はこの飛行場を無力化するために戦艦を投入して何度も艦砲射撃を行った。穴ぼこだらけになった滑走路はブルドーザーにより整地され、鉄板で穴が塞がれ、すぐに使えるようになった。

ガダルカナル島の奪回を目指し日本軍は2回の総攻撃をかけるが、飛行場が米軍の手にあり制空権が無いため無残に失敗した。
飛行場の修復作業はブルドーザーなしには不可能だったし、その速さは日本軍の想定外だったのだ。

米国では1930年代からブルドーザーが実用化されていた。キャタピラーから日本はブルドーザーを輸入しコマツが製造を試みたが、コマツ製は当時全く使い物にならなかったという。

個人的な体験を書くと、一昨日、家の前にあった松の木を伐採した。伐採後、直径60cmほどの切り株が残った。年輪を数えると樹齢60年はする樹だった。
伐採に使われた小型のパワーショベルでは切り株を微動だにさせることが出来なかった。昨日、大型のブルドーザーが来て、ものの数分で切り株を掘り起こした。

目の当たりにしたブルドーザーの威力に、ガダルカナル島の戦いを思いだした次第だ。

高度成長期を通じコマツは重機メーカーとして世界的な企業になった。キャタピラーに追い付き世界一になったという見方も出来る。以って瞑すべきかもしれない。

(2020.8.26)

外国人技能実習生は今

外国人技能実習生制度は知っていても、身近に実習生を見たことのない人が多いのではなかろうか。

いま自宅と庭の改修をしているが、工事にベトナムからの技能実習生がきている。昨日も今日も、工事に来た2人のうち1人が実習生だった。

この工事を請け負った業者さんは社員総勢45名。うち8名がベトナムからの技能実習生だそうだ。
昨日今日来た二人は実習の5年目で、日本語も達者。来年にはベトナムに帰ると目を輝かせて話していた。
地盤を水平にするための測量をしたり、重機を扱ったりして貴重な戦力になっているようだ。

外国人技能実習生というと、激務で心身衰弱に陥ったとか自殺したとか上手くいかない事例がニュースになることが多い。悪い業者がピンハネするという事例も多いと言われていた。

技能実習制度の改定時には野党が大騒ぎして外国からの肉体労働者を最低賃金以下で働かせる制度として批判した。その後、現行制度の良否や改善すべき点の議論は聞かれない。

制度は常の改善の余地があり、他の国の制度(特に韓国やシンガポールは日本より外国人に優しい制度と聞く)との比較が必要だろうと思われる。
その際には日本でうまく行っている事例も勘案して制度の改善を進めるべきだろう。

(2020.8.24)

リモート授業の大学生

今日の昼のワイドショー番組で、立命館大学の新入生にアンケートしたら、4分の1が休学を考え、10分の1が退学を考えているという結果が出たそうな。

入学以来実際の授業が無く、授業はすべてリモートで行われ、予想していた大学生活とは大きくかけ離れているのが理由らしい。コストに見合ったリターンが得られていないのも大きな理由のようだ。

大学にも学生にも問題がありそうだ。

大学は何故、少しでも実際の集合授業を始めないのだろうか。コロナがうつるのを防ぐため、というのは言い訳に過ぎるのではないか。新型ウィルスの感染力はやや強いものの、適切な予防手段を講じ、狭い場所で口角泡を飛ばしたりせず、ものにペタペタ触ったりせず、触った手を眼、鼻、口に持ってこなければ感染は防げるというのが専門家の共通の見方だ。

通常の授業であれば半期15コマのうち5コマは実際に教室での授業にするとか、ゼミは8コマを実開催するとか、ルールの決め方の問題ではないか。教室が過密にならない時間割の決定も大学の裁量で可能だろう。

サークル活動も大学が音頭をとって、希望を持つ学生のマッチングが出来るはずだ。在学生にやり方を考えさせれば若い頭脳が柔軟なやり方を考えるだろう。

今は世界中の大学の授業をオンラインで受講することが出来る。ハーバードでもエールでもMITでも公開講座があり、単位をくれる講座もある。
学生は、世界の一流の大学が提供する講座を受講し、大学に単位として認定してもらうように掛け合うべきだ。このような要求が大きくなれば大学も動かざるを得ない。

インターパーソナルなスキルは実際の人間の触れ合いを通じなければ磨くことが出来ない要素が多い。ここは実学習で体得しよう。知識は自分の大学にこだわらず世界に目を広げてみよう。

コロナ下の大学生活は大変だろうが、工夫と努力で道が開ける部分もかなりあるのではないか。

(2020.8.21)

ストックデールの逆説

Harvard Business Schoolのニューズレターでコロナ禍の先の見えない状況をどう耐えてゆくかのヒントとしてストックデールの逆説(Stockdale Paradox)が紹介されていた。

私は聞いたことのない概念だったので紹介したい。

ジェームス・ストックデールは海軍のパイロットとしてベトナム戦争に参加。撃墜され7年半ものあいだ北ベトナムの捕虜収容所で拷問に耐え生還した。

彼はその秘訣を以下のように話している。
This is a very important lesson. You must never confuse faith that you will prevail in the end—which you can never afford to lose—with the discipline to confront the most brutal facts of your current reality, whatever they might be.
「これはきわめて重要な教訓だ。最後にはかならず勝つという確信、これを失ってはいけない。だがこの確信と、それがどんなものであれ、自分がおかれている現実のなかでもっとも厳しい事実を直視する規律とを混同してはいけない」
この言葉は、ジェームズ・C・コリンズの「ビジョナリー・カンパニー 2 – 飛躍の法則」で紹介され人口に膾炙するようになった。

「わたしたちが置かれている深刻な現実を受け入れつつ、明るい将来を信じる」というのが結論だ。

ここまで書いてきて、コレハ一体逆説であろうかと考え及ぶに至った。人の仕事の進め方は多かれ少なかれそのようなものだと思われるのだが。

(2020.8.20)

30歳からの希望退職募集

武田薬品工業で、30歳からの希望退職を募集するそうだ。日本の製薬業界最大手企業の決断は驚きを以って受け取られている。

多分理由が二つある。

一つ目は、2014年にCEOについたクリストフ・ウェバーが果断だということだろう。これまでも希望退職を募る日本企業はあったが、対象は最年少で40歳の社員までだった。今回は、30歳に大きく引き下げられた。
会社の残って貢献できる人かどうかは30歳までには、見極められる。武田に合わない人はなるべく若い時代に再チャレンジの機会が与えられるほうが良い。というウェバー社長の考えがベースになっていると思われる。

二つ目は、希望退職に関する退職手当は、特別損失として認識される点だ。
武田の役員に対するインセンティブ・プランを見ると、業績の評価基準として、営業CF, EPS, TSRといった指標が出てくる。
今回の処置で、一時的な退職金支払損失が発生するが、会計上は特別損失であり、営業損失ではない。従って営業利益は下がらない。果断な処置が市場で評価されれば株価は上がる可能性が高い。

ついでに加えると、アイルランドの製薬会社シャイアーの買収に係る約4兆円ののれんは、シャイアーの業績次第で減損の恐れがあるが、のれんの減損が発生したとしても特別損失で営業損失ではない。

繰り返しになるが、今回の希望退職の発表は外国人CEOによる果断な決断だ。同時にその決断を行わせたのは、退職費用が特別損失になるために、彼の賞与にネガティブな影響を与えない、というのも重要な要素だ。

(2020.8.18)