『自動車の社会的費用』

表記は、宇沢弘文教授が1974年に著した時代を先取りする名著だ。2022年2月号の雑誌「世界」で特集が組まれたので久しぶりに名前を聞き、大学3年の時に読んだ瑞々しい感覚を思い出した。

 当時の東大経済学部には綺羅星の如き経済学界の巨星が揃っていた。宇沢弘文、小宮竜太郎、根岸隆、浜田宏一といった先生方で、まだ皆さん巨星というのには若く元気いっぱいだった。

 自分は経済学部でも経営学科で、理論経済には弱い。宇沢先生のこの著書を覚えているのは、それが岩波新書でありとても読み易いものだったからだ。この中で宇沢先生は、クルマ社会の在り方に根源的な疑問を投げかけ、「社会的共通資本」(最近のベストセラー「人新生の資本論」で著者の斎藤幸平氏が説く「ソーシャル・コモン」に酷似した概念だ)の重要性を説いている。クルマ依存社会を拒否しなければ世界は持続しないまで1974年に述べているのだ。

 さて経済理論の話を続けるのは私には荷が重いので理論的な話はこの辺で。当時経済学部でもっとも人気のあった一人である宇沢先生がクルマ社会を否定する一方、最も人気のあるもう一人であった小宮先生は、クルマ愛好家で、どこに行くにも自家用車を運転していた。
 好対照のお二人だったなー。

(2022.1.20 Thursday)