ERM再考(2) 企業・経営者の課題は

経営者が考える経営課題は何か

 前回はリスク管理のプロが考えるリスク環境を考察した。

 今回は、経営者は何を課題として考えているか考えてみたい。この二つが重なれば、リスク管理部門が行っている作業は、経営者の問題意識に近く、経営トップの役に立っていると言えるであろう。

 リスクマネジメントに関する先進コンサルティング企業であるプロティビティが発行しているThe Bulletinというニューズレターが、経営者が直面する課題は何か考えるヒントを与えてくれる。

プロティビティのHPwww.protiviti.jp 

The Bulletinについては、 http://www.protiviti.jp/ja-JP/Knowledge/global-newsletter/Index-A02/Pages/Bulletin_Volume4_Issue9.aspx を参考されたい。

 

 The Bulletinでは毎年、企業(経営者)が直面する10の課題を発表している。更に、そうした環境下で、監査委員会は何を課題として取り組むべきかがまとめられている。

 2011年と2012年の、「企業が直面する課題」は以下である。

2011

2012 (前年の順位)

1.新たな企業成長の源泉を見つけることに重点を置き、経済回復期に対応する

1.顧客ロイヤリティを獲得する(5)

2.競争環境を監視し、それに応じて企業の戦略方向を調整する

2.サプライチェーンリスクおよびコモディティ(投機的色彩のある商品)のコスト増に対応する(-)

3.グローバル化における課題に対応する

3.複雑化するプライバシー・セキュリティ問題に対処する(6)

4.従業員の士気を維持し、有能な人材を維持する

4.法規制の改正に対処する(7)

5.顧客ロイヤリティを確立する

5.優秀な人材を確保・育成する(4)

6.機密・プライバシー情報を保護する

6.競争力を強化・維持するために企業業績を改善する(1)

7.規制当局の監督強化に対応する

7.地理的・政治的な変動に対応する(2)

8.変化するリスクプロファイルを理解し、対応する

8.M&Aの収益還元を計り、価値を実現する(-)

9.企業の自己資本を評価し、キャッシュフローを効果的に管理する

9.データ管理・分析に着目し、意思決定のための情報を向上させる(10)

10.企業内のデータ・情報を効果的に活用し、適時適切な意思決定を下す

10.リスクプロファイルの変化に則して

全社的リスクマネジメント(ERM)に注目する(8)

 

 2011年、2012年の何れの年でも、ERM、情報・プライバシー、コンプライアンスについては、項目としてあがっており、経営者が相応な注意を払うべき事項と考えられていることが分かる。この部分はリスク管理のプロがあげた項目と重なる。

 ただ、それ以上に、企業・経営者としては、事業が事業戦略を適切に展開し、収益を上げて行くことが重視されている。企業経営者はリスク管理が仕事ではないから、これは当然の結論ともいえる。

 プロティビティは、リスクコントロールのコンサルタントであり、傾向としてリスク管理を重視した項目に偏る傾向は否めないと思われるので、ERM、情報・プライバシー、コンプライアンスが項目として出てきている可能性もある

 

監査委員会での検討課題

 The Bulletinは委員会設置会社を前提として、ガバナンス機関としての取締役会とその委員会としての監査委員会は何に注視すべきかを提言している。

 2011年は10項目、2012年は8項目上がっている。項目を見ると、要すれば以下の結論である。

 企業経営のアクセルをトップ経営者が踏むとしたら、それによっておこるリスク環境の変化を、マネージできてるかどうか、ブレーキのところは監査委員会が見るよ。という内容になっている。

 

2011

2012

1.企業のリスク評価メソドロジーの価値と用途を最大化する

1.変化に対応し、企業のリスクプロファイルを更新する(2)

2.環境の変化に対応して企業のリスクプロファイルを更新する

2.ビジネス環境の変化に応じ、企業のリスク管理能力が強化されているか確認する(1)

3.取締役会に対する監査委員会のリスク監視プロセスへの役割を明確化する

3.財務部門や内部監査部門の能力を監督する(4)

4.財務部門及び内部監査の有用性・能力を評価する

4.全社的な統制環境を継続的に監視する(5)

5.企業が新たな成長の源泉を探る時期には、全社的な統制環境を監視する

5.IFRSとのコンバージェンスの進捗に伴う財務情報に注視する(7)

6.財務報告の品質に注意する

6.法規制の改正に十分に理解・対応できているか確認する(8)

7.会計基準のコンバージェンスを監視する

7.新規のテクノロジー革新の流れがビジネスに与える影響を理解する(9)

8.法規制の改正の影響を理解する

8.監査委員会の有効性を評価する

9.テクノロジーの進化・トレンドに注意する

10.外部監査人を効率的に活用する

 今日は、経営者・企業の課題は何かについて、プロティビティのThe Bulletinを資料にして考えてみた。

結論らしきものは、1.経営者が考える企業の課題はリスク管理のプロの考えるERM項目とは違う。2.経営者が重視するのは変化する環境下で収益を上げる企業として存続し発展してゆくことである。3.経営者が踏むアクセルがもたらす環境変化のもとでも企業のリスクをコントロールするにはどうするか監査委員会が注視すべき項目がある。4.この項目は、リスク管理のプロが挙げた項目を高度化し集約したものである。ということかと思う。