巨大企業と規制当局の闘いは、現在は、大企業に分がある状況のようだ。NY Timesの記事を紹介したい。
「英国の規制当局が取引を承認したことを受け、マイクロソフトはビデオゲーム出版社アクティビジョン・ブリザードの690億ドル規模の買収を完了する構えだ。
このニュースは、過去2年間の米国と欧州の規制当局からの激しい反対を考慮すると、一時はありそうもないと思われていたテクノロジー巨人への勝利をもたらした。 高額買収を取り締まる規制当局によるキャンペーンの有効性についても疑問が生じている。
マイクロソフトは大きなハードルを乗り越え、同社の安定した収益源であるビデオゲームタイトルに「コール オブ デューティ」のような大ヒットタイトルを追加することを目的とした史上最大の買収を成功させた。 この取引は、特にリナ・カーン長官の下で大型取引の取り締まりに、より積極的な姿勢をとっている米国連邦取引委員会(FTC)からの厳しい監視に直面して来た。
マイクロソフトとアクティビジョンは直接の競合相手とはみなされていないため、この取引がビデオゲームにおけるマイクロソフトの優位性をどの程度増幅させるかについての法的議論を検証する形で、FTCは昨年取引の差し止めを求めて訴訟を起こした。 4月には英国の競争市場庁(CMA)もこの買収に反対し、同庁の裁定を覆すには高い法的ハードルをクリアする必要があることからマイクロソフト社は深刻な打撃を受けた。
しかしその後マイクロソフトは勝利を収めてきた。 7月には、取引阻止を求めるFTCの要請を裁判所は却下した。 そして、買収への調整によりCMAの懸念は解決され、CMAが反対姿勢を転換する珍しい例となった。マイクロソフトは、現在および将来のアクティビジョン・ゲームの欧州経済領域外でのクラウドストリーミング権をフランス企業ユービーアイソフトに15年間売却することに合意した。
企業経営者たちはマイクロソフトの勝利に勇気づけられている。 CEOとその顧問らは、アクティビジョンの買収は、数十年にわたる独占禁止法による規制の限界を示したと述べている。 実際、夏以来、エクソン・モービルによるパイオニア・ナチュラル・リソーシズに対する595億ドルの取引提案や、シスコによるスプランクに対する280億ドルの買収提案など、いくつかの大型買収が発表されている。
それでも、FTCは引き続き法廷で合併に異議を申し立てると主張している。 そして今日の声明の中で、英CMAは、企業に対し調査に真剣に取り組むよう忠告した。マイクロソフトがFigmaの200億ドルの買収や、計画しているAdobe買収などに対する警告となる。」
マイクロソフトとFTCの闘いで注目したいのは、リナ・カーンFTC委員長の活躍だ。以下Wikipediaより引用。
「リナ・カーン(Lina Khan、1989年3月3日 – )は、アメリカ合衆国の反トラスト法を専門とする法学者。コロンビア・ロー・スクール准教授。ジョー・バイデン政権で連邦取引委員会の委員長に抜擢された。
経歴
1989年3月3日に、パキスタン人の両親のもとに、ロンドンで生まれ、11歳のときに両親とともにアメリカ合衆国に移住した。2010年、ウィリアムズ大学卒業。ウィリアムズ大学では政治哲学者ハンナ・アーレントについての論文を執筆していた。 2014年までニューアメリカ財団で市場統合の問題についての調査に従事。2017年にイェール・ロー・スクールで 法務博士号を取得した。
イェール・ロー・スクール在学中の2017年1月にイェール・ロー・ジャーナルに発表した論文「Amazon’s Antitrust Paradox (アマゾンの反トラスト・パラドックス)」で注目を集める。カーンの議論は、消費者利益(価格)に焦点を絞った1970年代以降の反トラスト法解釈を問題視する。この解釈ではデジタルプラットフォーマーの低価格戦略による反競争的な市場支配の枠組みを認識することができないと主張した。2021年6月15日、アメリカ合衆国連邦取引委員会委員長に就任した。」
パキスタン系移民の成功談だ。大学院生の時に書いた論文で注目を集めたというのは偉業だ。その当時からの研究の積み重ねでデジタルプラットフォーマーの独占にメスを入れようと努力している人だ。押しも押されもしない経歴がある専門家で、FTC委員長に正にピッタリだ。
翻って、我が国では、公正取引委員会委員長は財務次官OBの指定席だがそれでよいのだろうか。
2023年10月14日 土曜日